第5話 冒険の果てに
俺は一体どこまで歩いてきたのだろう。
ダンジョンの壁の色はすでに赤銅色から
(まずいな、中層に来ちまったか)
このまま突き進めば、きっと俺の命はないかも知れない。
……いや、それでも俺は進む。
(ん?奥の暗闇から妙な気配が)
「ゴブリンドリフターか、チッ!」
"悪夢"と呼ばれる厄介な魔物だ。群れることなく1匹で行動するが、それ故に強い。奴は的を絞らせないようにふらふらとしながら接近してきた。
(ガードを!……くっ!)
バスターソードでとっさにガードしたものの、ヤツの持つ不気味な黒い短剣でかちあ上げられる。胴ががら空きになったところに、的確に蹴りを入れてきた。
「グハッ」
壁に叩きつけられ吐血する。
(魔物のくせになんて技術を持ってやがる……追撃も早い、だが!)
俺は慌てることなく、バスターソードを奴めがけて投げた。
やつは黒い短剣でバスターソードをそらしたが、予想外の攻撃に体勢を崩す。
今だ!俺は右手で腰の長剣を抜き、この隙に一気に畳み掛けに行く。
「<挟撃>!」
長剣の方はダミー、本命は左手に持った短剣の方だ。挟撃は左右から同時攻撃する盗賊の基本技だが、こういうときのために訓練して会得したのだ。
短剣が首を切り裂くと、ゴブリンドリフターは絶命した。
「ふぅ、流石にきついな……」
しかし冒険とは本来こういうものだ。常に命の危険とともにあることを意識していなければ、いつか油断して死んでしまう。
冒険者は油断して死ぬ、アイツラにも教えてやりたかったが。
「俺はそれを証明する。モ・エキャラ・ユルサンの名にかけて」
ダンジョンの奥から妙な気配がする。いつもより騒がしいような……。
奴らはやがて姿を表す。
「あれは、複数のゴブリンドリフターだと!?」
馬鹿な、ゴブリンドリフターが群れを為すなど聞いたことがない。
くっ、やるしかない。俺は再びバスターソードを構え直した。
「<轟撃>」
轟撃は、バスターソードを力いっぱい振り回す戦士職のスキルだ。
2体は刈ったが、放った直後に硬直時間で動けなくなる。
「グアァッ!」
奴らから一斉攻撃を受け、俺は再び地面に転がされた。
(クソっ、ここまでか……)
絶体絶命の状況、諦めかけたその時、無数の光の剣が空から降り注いだ。
「——
ゴブリンドリフターの群れは跡形もなく消え去った。
「……き、貴様」
「もう、教官、一人でダンジョンの中層に潜るなんて自殺行為です、ぷぅ」
「……なぜここに来た。俺はもう貴様の教官でもなんでもないんだぞ」
「私、教官に同行するっていったじゃないですか、ぷぅ」
「まさか、ずっと後を付けていたのか!」
「そうですよ、私教官に同行するって言ったじゃないですか、ぷぅ」
「なんてことだ、俺は貴様と冒険してしまったというのか……」
「教官、もう諦めてください。これで分かったでしょう、教官には私達の力が必要なんですぷぅ」
「くッ……いや話は後だアゲハ、ダンジョンの様子がおかしい」
「そうですね、さっきのゴブリンドリフターの群れ、なにかに追われてるようでしたぷぅ」
「ああ、何かとてつもないものが来るな」
ダンジョンの奥から現れたのは、中層の番人3つ首のケルベロスだった。
「け、ケルベロスだと!」
「教官、大丈夫です、ぷぅ」
俺は焦るが、アゲハは慌てた様子はない。
「一体何が大丈夫だと言うんだ!あいつは何人もの冒険者を食い殺してきた本物の化け物だぞ!勝てるわけがない」
「ふふ、言ったじゃないですか。私達の力があれば大丈夫なんだぷぅ」
「は?」
その時、一筋の黒い光がケルベロスに向かって飛び出した。
「——秘剣・影斬り」
「グオォォォオ!」
黒い稲妻がほとばしり、ケルベロスの首を1つ桐飛ばした。
「むー、教官、無茶し過ぎなの」
「貴様は、眠そうな女!」
「むー、私はノエルなの、名前くらい覚えてほしいの」
もう一人、巨大な鎚を持った女がケルベロスに向かって飛び上がる。
「——爆鎚・
「グギャァアアアア」
女の強力な打撃攻撃が、ケルベロスの首を1つ叩き潰した。
「私、教官のお陰で冒険者になれました!」
「まさか貴様は、酒場の!」
「はい、ミーシャです!」
ミーシャって最近まで酒場で働いていたよな、成長速度おかしくない?
待て、ということはまさか、あいつも来ているのか!?
「お兄ちゃん!私がみんなを呼んできたんですよぉ、褒めてください!」
「貴様など俺の妹ではない!」
「お兄ちゃん、私の名前はリアです!——
「ギエェエエエ」
最後に首一つになったケルベロスは跡形もなくあっさりと消滅した。
「…」
4人の女たちが、近づいてきて俺に言った。
「教官(お兄ちゃん)!私達と一緒に冒険しよ!(ぷぅ)」
フッそんなの答えは決まっている。
「お断りだ」
END
萌えキャラなし縛り教官 サルサの腰 @giphe
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