第4話 イモイモした女
「よく来たな新人、貴様がこれから冒険者として清く、正しく、あれるかどうかは貴様にかかっている。まず言っておこう、初手殲滅は駄目だ。苦戦してからようやく及第点だ。次に表情はキリッとすること、
「き、聞いてますです!私、お兄ちゃんの話聞いてますですぅ」
「…」
「な、なんでそんな目をするんですかぁ!お兄ちゃんの顔ちょっと怖いですぅ。私がよしよししてあげますからねぇ」
「
「ぴゃい!?」
「貴様ぁああ!何だその甘ったるい喋り方は!俺が最後に何を言おうとしたかわかるか!そういう甘ったれた声で語りかけるのはやめろと言おうとしたんだ!それなのに貴様はなんだ!私が言う前に先回りしてみせたな!一体何のつもりだ?!みらいよちか?みらいよちして俺をからかったのか!?」
「ち、違うのですぅ。お兄ちゃんがだんだん怖い顔してきたから私がよしよししようとしただけなのですぅ」
「やめろぉお!俺の尊厳を奪うんじゃない!いいか貴様、まず最初に言っておくが何だその片側結びは、左側の髪だけちょんと結んで逆に居心地が悪くないのか。そもそも冒険を舐めているのか貴様」
「片側結びは私のトレードマークなのですぅ。チャームポイントなのですぅ。お兄ちゃんは可愛いと思わないんですかぁ?」
「ぬるぅうい!可愛いだけで冒険ができるとでも思っているのか貴様!いいか、百歩譲って幼いまでは許してやる、幼いやつも冒険を舐めてるとしか言えないが、顔自体は変えられるものじゃないからな。だがそれ以外は別だ!服装、髪型、コスチューム、可愛いなどという不毛な概念に
「お、お兄ちゃん、どうしちゃったのですぅ?」
「まずはこれを装着しろ!」
「お、お兄ちゃん?これはなんですかぁ?」
「これはエキスパンダースーツだ。常に体に力を入れていないと体を動かせなくなるスーツだ。昨日徹夜で作り上げた俺の自信作だ」
俺が取り出したのは、あらゆる荷重に耐えられる強力なバネをいくつもつなぎ合わせて作り上げた、スーツとは名ばかりのただのバネの塊だ。
「お、お兄ちゃん、私がこれを着るんですかぁ!む、無理ですよぉ。見た目が凄くダサいですぅ。どうして私がエキスパンダースーツをつけないといけないんですかぁ」
「顔を歪ませるためだ」
「顔を歪ませる?お兄ちゃん、意味がわかりません…」
「貴様ら幼い顔共は常に顔を歪ませてないと、すぐに根本的に間違う!もっと歯を食いしばり、苦痛に顔を変形させないと一人前になれん。俺は試行錯誤の末そう思い至った」
「お兄ちゃん、どうして行き着く先がエキスパンダースーツなんですか、可愛い女の子をいじめているだけじゃないですかぁ!お兄ちゃんはただのサディストです」
「なんとでも言え!これが俺のポリシーなんだよ!顔歪まずして冒険は成り立たず!さぁ、つべこべ言わず装着するんだ!」
「そ、それに私、聖職者なんですよ、お兄ちゃん!どうして聖職者の私がエキスパンダースーツで筋肉ムキムキにならないといけないんですかぁ?」
女の言葉に俺はピタッと止まる。
「貴様、聖職者だったのか…」
「そうですよお兄ちゃん…」
俺の気性は一気に削がれていった。
「そうか、俺が間違っていた。貴様は…、根本的に間違ってはいなかった。どうか…不甲斐ない俺を許してくれ…」
「え、えっと、分かってくれたのならいいです、お兄ちゃん!気を取り直して冒険を再開しましょう!」
俺は自分の非を認め、聖職者の女に頭を下げる。
聖職者は基本的に回復に特化した職業だから、幼女にあるまじき殲滅という手段は取らないからだ。
「うむ…ん?魔物の気配がするな…」
洞窟の奥からリザードマンの群れが現れた。
数はざっと10ってところか。
「り、リザードマンがいっぱいです、お兄ちゃん!」
「よし、貴様は後ろに下がれ、俺がヘイトを稼ぐから
「お兄ちゃん、私が広範囲浄化魔法で一気に消し去ります!——
「…」
リザードマンの群れは、地面に浮かんだ魔法陣から溢れる光に浄化され、
リザードマンの群れは跡形もなく消え去った。
「貴様!貴様貴様貴様貴様貴様!俺を騙したなぁああ!何が聖職者だ!貴様は殲滅魔法を使えるじゃないか!なぁ教えてくれ、なぜ貴様らはその顔に不釣り合いに殲滅力を有しているんだ!?おかしいだろうがよぉ!」
「お兄ちゃん、これは浄化魔法です!殲滅力?はわかりませんけど、可愛いと強いのは両立するんです。というか、むしろセットじゃないと駄目なんです!」
「黙れ!…くそぉ、そうか、『可愛い=強い』この図式が全ていけないんだなぁ!ちきしょう、見てやがれ!俺は自分の力でこのダンジョンを攻略する!教官は今日で終わりだ!」
「お、お兄ちゃ〜〜ん……」
そう言って俺はダンジョンの奥深くに走り出した。
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