京終兄弟とバビンスキー反射

神逢坂鞠帆(かみをさか・まりほ)

第1話

「えっちゃん、見てー。ほら、これ、逸歌いつかくんのバビンスキー反射! 親指が甲のほうに反るの生まれて数か月だけなんだよ」

 師匠がはしゃいでいる。

 夏になると、度々、京終きょうばて兄弟が相手の足首を捕らえて、何やらペンの頭で足裏をつーっとなぞるのである。

 何の遊びかと問うたら、「バビンスキー反射だよ、知らないの?」と不思議そうに返されたのである。

「うちの父親、神経内科医だからさ。大人になったら、コレ、ふつうはグーになるんだよ。甲側に指反ったら今すぐ病院行ってね!」

「つま先と言えば、私、足の指長いから、オープントゥのパンプスはけないんですよね。穴から指がずるって出ちゃう」

「えっちゃん、ギリシャタイプ? 足の指で、人差し指がいちばん長い」

 指の長さは3タイプあるんだよと師匠がのたまう。紙にサラサラと模式図と名称とをあらわす。

 それを横目に見ながら、冷えた甘酒を飲む。

「私、この前、解剖学の本を読んだのですが」

「うん」

 思い出し、わなわな震える。

「構造的に、手と足が同じってマジですか!」

「ああ……」師匠は放心した。「本にはそう書いてあるよね」

 師匠の傍らで、お昼寝していた逸歌くんが目を覚ます。

「指が五本あって、第一関節から第三関節まであるね。てのひらを地面につけて、手首を持ち上げた形でしょ?」

 目をこすりながら、すらすら答える逸歌くん。

「つまりですよ、修業さえすれば、手程度には足でも作業できるわけですよ!」

「まあ、たまに足を使う書家の人いるしね」

 師匠が頬をかく。

「人類、足の可能性捨てすぎじゃないですか!?」

「えっちゃん、サッカーの人は足使うよ」

「でも、ゴールキーパーしか手使わないじゃん!」

 テーブルに伏す。心配した逸歌くんが背中をさする。

「私だって修業すれば、師匠みたいな絵が描けたはずなのに!」

「ああ……。いや、練習すればいいでしょ」

 ちっ。私は、舌打ちした。

「バレたか」





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京終兄弟とバビンスキー反射 神逢坂鞠帆(かみをさか・まりほ) @kamiwosakamariho

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