後編

 ーー遠くにさっきの男の人が血だらけで2人の大きなシュージンと戦っているのが見えた。

私の周囲には避難した住民達が多くいた。

「なんなんだよあれ!」

「おい、動画撮ってる場合かよ!逃げるぞ!」

「おがあざ〜ん…!」

私は未だどうすればいいのか分からずにいた。

「皆さん!!警察が到着しました!こちらへ避難してください!!」

私のすべきことは…

「お巡りさん…」

すべきことは…

「大丈夫?足擦りむいちゃった?お家の人とかお友達とかは近くにいる?」

「おかあさん…あそこ…」

「…!!!」

女の子が指さしたのは戦闘が起きている所だった。

確かに女性が倒れているのが見える。

私の中に何かがみなぎった。

「大丈夫。お巡りさんにまかせて。お母さんは絶対無事に助けるから」

頷く女の子の涙を拭いてから私は久々に全速力で走り出した。



 ーー「あ?なんだぁ?」

「おい、なんだあの人間」

攻撃が止まった。

2人の視線の先を俺も見る。

そこにはさっきの人間が走ってこちらに向かって来ていた。

「!? あいつ…!」

ただの人間に勝ち目はない。

俺は向かってくるあいつに大声で忠告した。

「来るな!!お前が来ても死人が増えるだけだ!!」

しかし、あいつは止まらなかった。

それと同時におかしなことに気づく。

人間はあんなに速く走れるものなのか?

それに、身体から雷のようなものが出ているように見えた。


 ーー「ぐふぅっ!!」

私は全速力で走り、その勢いのまま囚人の1人に飛び蹴りした。

蹴り飛ばしたシュージンは遠くに吹き飛んでいった。

「はあ!?!?」

驚いているもう1人も電気を帯びた手で殴り飛ばした。

「ガハァ〜!!」

久々の力に自分でも少し驚いた。

「なっ…お前は…」

もう1人驚いている人がいた。

身体はボロボロでしばらくの間一方的にやられ続けたのが分かる。

「さっきはごめんなさい。実は私も…あなたと同じ、ホムンクルスです」

江野さんは目を丸くして私を見ていた。

「数年前、天界から逃げてきて天崎光莉という名前で人間として生活していました。本当の名前はレビンと言います」

「そうか…そうだったのか…」

江野さんもだんだん飲み込めてきたようだ。

「聞きたいことは色々とあるが、今は奴らを倒すのが先だ…レビン、これを外してくれないか」

江野さんは首に着いた首輪を私に見せた。

「ふんっ…!…よし…!」

かなり固かったが何とか外すことが出来た。

「これで戦えますか?江野さん…いやあなたにも本当の名前がありますよね?」

首輪を外されたその人の顔はさっきより少し元気そうだった。

「ああ、そうだな」

そういいながら彼の身体のあちこちが変形していった。

「オレはエヴォだ」

完全に変形したその姿はとても人間には見えず、ロボットや宇宙人と呼んだ方がしっくりくるものだった。

身体を変形させて戦うホムンクルスがいるのは知っていたが、見るのは初めてだった。

「エヴォさん、ですね。あなたに合わせるのでやられた分思いっきりやっちゃいましょう」

「ああ。まかせてくれ」

私は近くに倒れていた女性を抱え、走ってさっきの女の子の元に避難させた。

「おがああざ〜〜ん!」

「ごめんね、心配かけちゃったね。…あの、本当にありがとうございます」

「いえ。もうすぐ警察がやってくると思います。離れてお待ちください」

「お巡りさん!ありがとう!!」

私は少し手を振ってからエヴォさんの元に戻った。

「そういえば何で名前だけ誤魔化したんですか?」

「こういう時は偽名を使うもんじゃないのか?」

「いや、だったら任務のことも隠さなきゃダメじゃないですか?」

「…そうかもな」

私達は、さっき私が吹き飛ばした2体のシュージンが戻ってくるのを見て構えた。

「ホムンクルスが2人ィ!?」

「しかも片方なんか違う姿になってねえか!?」

「行くぞ」

エヴォさんが走り出したのを見て私も後を追い先にシュージンの元に辿り着いた。

「…っ!?はやっ…!」

片方を背中側から蹴り飛ばし、エヴォさんの方へ飛ばす。

「…ふんっ!」

エヴォさんは飛んできたシュージンを地面に殴りつけた。

地面にヒビが入り、大きく揺れた。

「…まずは1人」

私達は同時にもう1人の方へ目を向ける。

「クッ…クソがあぁぁ!!」

振り下ろされた電柱を避け、私は空中で銃を取り出した。

今度は外さない。

私は銃に力を込めた。

引き金を引くと中から電気を帯びた銃弾が撃ち出された。

弾は命中し、シュージンの身体が痺れて動きが止まる。

「ぐっ…なん…だ…これぇ…!」

その瞬間にエヴォさんがシュージンの懐に潜り込み、右腕を大きく振りかぶった。

「な…何なんだ、お前らぁぁ…!」

鈍い音が響いた。


 「これ、どうやってつけるんだ?」

「あ、私分かります。貸してください」

エヴォさんが持っていた手錠のようなものをシュージンに着けると、シュージンの身体はキラキラと輝いて空高く飛んで行った。

「あれで天界に戻るんですかね?」

「多分な。…レビン、お前は何で”ここ”にいる?」

そうだ。せっかく誤魔化していたのに結局ホムンクルスであることがバレてしまった。

多分、私も天界に送り返されるのだろう。

「…私は、ホムンクルスとしての生活が嫌だったんです」

「…」

「凶悪なシュージン相手に駆り出される生物兵器…人を守る戦士というよりは、戦争の道具のような扱いでした。多分エヴォさんも同じだったと思います」

「…ああ、そうだったな…」

エヴォさんの表情からは少し悲しみが感じ取れた。

「私はそれに耐えきれず、家…研究所から逃げ出しました。それでたまたま行ったのが地上界へ行くための穴があるところで、誤って落ちてしまったんです」

「…」

「誰かの道具としてではなく、私自身の意思で人を助けたい。そう思って人間として警察官になりました。こっちにきてから能力を使ったのは今回が初めてです」

エヴォさんは黙って私の話を聞いていた。

「…エヴォさん、お願いします。どうか私の事は見逃してくれませんか!未だ何かに成功したことはないですけど、毎日心が折れそうになるけれど、何とか生きていけるようになったんです!お願いします!」

私は頭を勢いよく下げた。

多分、言おうとしたことは全部言えた。

「…分かった」

頭を上げてエヴォさんの顔を見る。

「っ!じ、じゃあ!」

「ただ、1つ条件がある。シュージンを捕らえるのを手伝ってくれ」

「……へ?」

私は耳を疑った。

「人手は多い方が良い。それにさっきのを見る限り、戦闘も問題なさそうだったしな」

「いやいやいや!嫌ですよ!こんな危険な事!」

「俺だって獄中生活も死ぬのもごめんだ。人を守りたいんだろう?それに、あんな奴らが蔓延っているんだ。遅かれ早かれ、この世界は滅びるぞ」

何も言い返せなかった。

「ち、ちなみに〜、もし断ったら…?」

「そうだな…まずはお前を倒して天界に送り返そうか」

エヴォさんの右腕がまた変形した。

「ちょ、ちょっとストップ!分かりました!手伝いますよ!」

「ふっ、そうか」

エヴォさんの表情が変わるのを初めて見た。

「あと、何も成功したことが無いというのは間違いだ。ついさっき、シュージンを捕まえるのに成功したところだろ?」

ハッとした。

思えば、警察官になってからこんな成功を収めたのは初めてかもしれない。

「あ、そういえば投獄されるなんてエヴォさん、一体どんなことをしたんですか?」

「ああ、自警団長がとっておいたプリンを勝手に食ったんだ」

「え…それだけ…?」

そんな話をしていると遠くから声がした。

「天崎〜!無事か!?事件はどうなった!?」

本宮巡査部長の声だ。

「エ、エヴォさんどうしましょう!?建物はめちゃくちゃでしかも容疑者の姿はないって、こんな現場見られたら私達めっちゃ怪しいじゃないですか!?」

エヴォさんは私の反対を見つめていた。

「…レビン。シュージンの気配だ。行くぞ」

「えぇ!?急に!?ちょっと待っ」

言い切る前にエヴォさんは私の制服を掴み、駆け出した。

「あぁ…もう………明日、警部に何て言い訳しよう……」

私はまたため息をついた。

が、不思議と嫌な気分ではなかった。

自分でもよく分からない感情に思わず笑みがこぼれた。

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ホムンクルス 幣田 灯優 @sauzand

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