中編
「さてエヴォ、今回お前に依頼するのは脱獄したシュージン共をここに連れ戻すことだ」
眼帯をした餅のような姿の自警団長が俺に伝えた。
「何故俺に?あんたら自警団の仕事だろ?」
「ああ、だが刑務所の管理をしていた者が殺された」
「俺を捕まえたあいつか…まあ、数で押せばやれないこともないか」
自警団の中でも一際大きく強かった、パンダのような見た目をした団員を思い浮かべる。
「知っての通り、我々の戦闘力のほとんどはあいつに依存したものだ。あいつが死んだ今、我々にできることは何も無い」
「よく自分で言えるな。お前らも恥ずかしくないのか?」
周りを囲む団員達を見渡しながら言う。
どの団員も気まずそうで、返答する物は1人もいなかった。
白い地面と合わさって、だんだんケーキの上のホイップクリームのように見えてきた。
「だからお前たちホムンクルスに頼みたいんだ。もとよりお前たちはこういう時のために存在しているんだ」
「身勝手な奴らだ。ちょっとした失敗で投獄したかと思えば今度はシュージン共を捕らえろだと?だいたい、」
話の途中で後ろからガチャっと首輪をかけられた。
「それがある限り逃げ出そうとしても無駄だ。さて、それではさっさと地上界に行ってもらおうか」
俺は耳を疑った。
「は?待て、地上界?」
「ああ、シュージン共のほとんどが地上界に逃げたようだ。何体いるか分からないが、まあ何とかなるだろう。では、行け!」
「ちょっと待て!そもそもどうやって…」
言いかけた所で後ろから押され、足が地面をすり抜け、俺は真っ逆さまに落下して行った。
小さくなる天界を見ながら、ため息をついた。
数分後、俺の前には訝しげな顔で俺を見つめる人間がいた。
その顔は俺の話を集中して聞いているようにも、何にも聞いていないようにも見えた。
「…それで、その囚人達を捕まえるためにここに来たという事で合ってますか、江野さん?」
「ああ、そうだ。だから早く探しに行きたいんだが…何故俺は手錠をかけられているんだ?」
「怪しすぎるからですよ!自分で何言ってるのか分かってますか!?」
どうやら人間というのは天界の存在を知らないらしい。
「別にお前たちに危害を加えるつもりはない。シュージン共を捕らえたらすぐに帰る」
目の前の人間は苦しげな表情をしている。
突然現れた謎の人物にどう対応するか悩んでいるようだった。
「と、とりあえず署まで来てもらいますよ!」
「なんだ、まだ信用出来ないのか。だいたい、空から落下してきてこうして無事でいることが人間でない事の何よりの証拠だろう。人間は少しの段差ですぐ死んでしまうらしいからな」
「それはさすがに人間をなめすぎですけど…」
人間が俺の腕を掴み、どこかへ連れて行こうとしている。
この程度なら殺す事は造作もないことだが、緊急事態でもない限りは穏便に行動したい。
仕方ない。ここは従おう。
そう思いため息をついた瞬間、
「!!」
バッと勢いよく振り向く。
「? どうかしましたか?」
シュージンの気配がした。
「…見つけた」
「え?」
ここからは目視出来ないが少し向こうに確かにシュージンがいる。
「ちょっと、見つけたって何を?」
「悪いがお前に構っている時間はたった今無くなった」
そう言いながら、俺はかけられた手錠を引きちぎった。
「なっ…!」
「じゃあな」
そう言い残し、俺は気配のする方へ駆けていった。
ーー私は悩んでいた。
あの江野さんという人を放っておく訳には行かない。
いつ住民に危害を加えるか分からない。
だがあの人に近づけば、大変なことになる…私の本能がそう告げている。
悩んでいたところに、無線から声が聞こえてきた。
「四丁目、五番通り近くで事件発生。数人が取っ組み合いの喧嘩をして、周囲にも危険が及んでいる。現場近くの警察官は至急急行せよ」
あの人が向かった方向だ。
「あぁ……もぉ…!」
私は覚悟を決めて走り出した。
ーー「団長、やつにあの首輪をつけて良かったのでしょうか」
「ああ。問題ない」
「ですが…」
「分かっている。変形出来ないならシュージンに返り討ちにされるのではないかということだろう?むしろそれが狙いだ」
「どういうことでしょうか?」
「ホムンクルスは我々の存在を脅かしかねない。だからここで処理しておくのだ。シュージンにより地上界がどうなろうと我々には関係ない。やつが死んでくれればそれでいい。端からシュージンを捕まえてくれることなど期待していない」
ーー「くっ…!」
俺は投げ飛ばされ壁に身体を打ち付けた。
「おい、なんだよ!ホムンクルスってのはこの程度か!?」
「ははっ、とんだ拍子抜けだな」
2人の大柄なシュージンが俺を嘲笑う。
気づけば辺りはすっかり人がいなくなり、建物もいくつかめちゃくちゃになっていた。
「くそっ…!外れっ…ない…!」
戦闘形態に変形できないのはこの首輪のせいだというのはすぐに気づいた。
しかし、いくら力を込めても外れそうにない。
「あのクソ饅頭ども…!」
「なんだ?独り言か?」
シュージンが俺の方へ向かってくる。
「まだまだ余裕ありそうじゃねえ…かっ!!」
振り下ろされた折れた柱を間一髪で回避する。
この人間の姿では勝ち目はない。
何とかこれを外すことが出来れば…
「どこ見てんだぁ?」
「!!」
1人に集中しもう1人の攻撃を避けることが出来なかった。
「がぁっ…!」
頭部に拳をもろに食らい、また吹き飛ばされた。
「”こっち”に来てから最初に殺すのがホムンクルスになるとは思わなかったが、こんな雑魚ホムンクルスがいることの方が驚きだぜ」
朦朧とする意識の中、血を流しながらただ逃げ回ることしか出来なかった。
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