つま先立ちで埋まらせる
白千ロク
本編
埋まらないなら埋まらせるしかない――。その境地に至るのは簡単だった。私たちのような身長差があったなら、きっと誰だって思いつくことだろう。
つまり、私は私からいくことにしたのだ。うん。だって、向こうから来てくれないんだもん。来てくれないならいくしかないでしょ。待っていても過ぎるだけなんだし。ほら、恋愛は先手必勝と言うからね! 知らないけど。私の恋愛先は昔から一方向だけだから。
授業終わりの下校時。今日も変わらずに私は隣を歩くけれども、身長差は頭一つ分は確実にある。ずっと。ずーっとだよ。私の身長が伸びた分だけあちらも伸びるから差は変わらない。おかしいでしょ。大して運動してないんだから、そんなアホみたいに伸びないでしょう!? いやまあ、私も運動してないから、そこはお互い様ですが!
伸ばした手が大きな手に包まれるのも変わらないし、綺麗な横顔が眩しいのもいつものこと。だけど今日は頑張らないといけないことがある。そろそろさ、次の段階を踏んでもいいですよね!?
頭の中は確実にテンパっている私を見て、「変な顔」と笑うのはダメでしょ。私だから許すんであって、他の子にするのはダメだから。いや、他の子には渡さないけど!
うるさい心臓を落ち着かせる前に行動開始。つま先立ちで近づく。
美しい尊顔――見開かれた目に、口角を上げる。成功した喜びで。やってみれば簡単だったけど、心の準備はいるな、これ。楽じゃない。
「……おま、マジか」
「こないならいくしかないでしょ! 言わせないでよバカ!」
なにが起きたのか理解したらしい彼は空いた方の手で口を塞いでから、モゴモゴなにかを言っている。お互いに赤い顔。お揃いが嬉しいなんていまは言えない。
いつかは言うかもしれないけど、その時は少しでも身長差がなくなっていてほしいな。
(おわり)
つま先立ちで埋まらせる 白千ロク @kuro_bun
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