第5話
紆余曲折がありながらも急転直下でカイ君に助けられた後の話。
一端の作家としてエピローグを語ろう。
処刑場は混乱を極めていたが、収集が付いたので私達は改めてティアと謁見する事となった。
会合室で一緒に待つカイ君は未だに頬に私の拳の跡を残したまま隣で不貞腐れている。
「僕頑張ったのに。
お尻ぐらい好きに揉んでもいいじゃないか」
「良くないよ!
こっちは嫁入り前の女子高生だよ」
「先輩から抱きついて来たくせに」
「それは勢いで……」
「エロい声出してたくせに」
「カイ君。
どうやらもう一発欲しいみたいだね」
「ごめんなさい」
拳を見せるとカイ君はすぐに平謝りした。
どうやら拳が相当効いたみたいだ。
「本来なら絶交だよ。
だけど今回だけは許してあげるよ。
今回だけはね」
まあ、今回はカイ君のおかげで助かったのも事実だしね。
それに思いっきり殴っちゃったし。
「で、カイ君はなんで銃を持ってるんだい?」
「なんの事?」
「サウトを撃ち殺したよね?」
「僕わかんない」
「頬にチューしてあげようか?」
「拾った」
「今は何処に?」
「捨てた」
ちゃんと答える気は無いみたいだ。
それなのに頬を差し出して来るから抓ってやった。
「痛い痛い。
酷いよ先輩。
それだとチューじゃなくてギューだよ。
これはこれでいいけど」
いいんかい!
なんか変な性癖目覚めさせても嫌だからもう辞めよう。
「お待たせしました」
ティアとミズキが入って来て前の椅子に座った。
その手には私の小説が握られている。
「こちらで調べた事と一致するので、ここに書かれている事は本当のようですね」
「まだ疑ってたの?
本当にバカだな〜」
「またバカって言いましたね!?」
「そんな事よりごめんなさいは?」
君はなんでそんなに強気なんだい?
相手は女王だよ。
「待て!
君達には感謝してる。
だけどこの情報はどうやって手に入れて、どう使うかによってはこちらの対処は変わる」
後方からミズキが口を挟んで来た。
しかしその質問の答えは難しい。
なんたってそれは私の想像100%で書いたのだから。
「そんなの先輩にかかれば大した事無いね」
「先輩とは預言者なのか?」
「先輩は先輩だよ」
「は?」
「カイ君。
話をややこしくして楽しんで無い?」
「うん」
「辞めてよ!
私は平和に帰りたいんだよ」
「って先輩は仰ってます。
だから帰して」
「帰るとは何処に?」
「またバカな事言ってる」
「またバカって!?」
「そこに書いてある異世界にだよ。
先輩はそこから攫われて来たの。
その本も異世界で書いたの。
それがなんで将軍が持ってたか知らないけど、異世界に持ってくる気は無かったの。
だから僕達は無害。
そう言う訳だから早く帰らせてよ」
ティアは少し考える素振りをみせてから頷いた。
「分かりました。
お帰り頂いて構いません」
良かった帰れるよ。
一日しか経って無いのに部活が恋しいよ。
……あれ?
なんで誰も動き出さないの?
「おいバカ」
「何度も何度もバカって言うな!」
「早く案内しろよ」
「え?」
「早く帰り道まで案内しろよ」
ティアとミズキは目をパチクリさせてからお互いを見合わせる。
「あの……
大変申し訳無いのですが……
将軍が勝手に連れて来ましたので私達には帰す方法がわかりません」
「なんだって!?」
私は思わず大きな声をあげてしまった。
「て事は帰れないの?」
どうしよう涙が出そう。
「申し訳ありません。
すぐに方法を調べさせます」
「ならそれまでここに滞在だね」
カイ君。
なんでそんなに気楽なんだい?
帰りたくないの?
「その間は当然面倒見てくれるんだよね?」
「もちろんです」
「やったー
贅沢三昧だ」
「カイ君。
あんまり無理言ったらダメだよ」
「そうだね。
少しは遠慮しないとね。
って事で部屋は先輩と一緒でいいよ」
「ダメに決まってるだろ!」
「ベットはシングルでいいからね」
「一緒に寝ないよ!?」
「だって先輩が遠慮しろって言ったんだよ。
二つも部屋を用意しろなんて図々しいじゃないか」
「そこは違うよ!」
「先輩と僕の仲じゃないか」
「君とはまだそんな関係では無い!」
「まだ?」
「揚げ足を取るな!」
全くこの野郎。
油断も隙もない。
……まてよ。
「そう言えばカイ君は自力で異世界に来たよね?」
「そうだよ」
「なら帰り道が分かるじゃないか!」
「そういや、僕はどうやって来たのかな?
覚えて無いな〜
それなのに助けに来れるとは愛の力だね」
「ならその愛の力で思い出せ!」
私はカイ君の両肩を掴んで前後に揺らす。
カイ君は成されるがままに前後していた。
「あっ」
「思い出したかい?」
「よく考えたらこれって聖地巡礼だよ。
なんかテンション上がって来た」
「私は帰りたいんだよ!」
「まあまあ。
異世界に聖地巡礼なんて中々出来ないよ」
もうヤダこの後輩。
思い出す気無いじゃん。
「せっかくだし先輩も一緒に楽しもうよ」
その気楽な笑顔が腹立つ。
私はこんな後輩と一緒に異世界生活を始めないといけないの?
勘弁してよ。
私のイライラが止まらないよ。
……あれ?
良く考えたらカイ君の事ばかりで怖かったり不安になったりする時間が殆ど無かった気がする。
もしかしてわざと?
……無い無い。
カイ君限ってそんな事無い。
それなのにこっちから聞いたら図に乗って何されるかわからないよ。
先輩の書いた異世界は実在するよ 横切カラス @yokogiru
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