第5話 『祈りの石』を使って、

 夜中に起きると、私はコップ一杯の水を飲んで再びベッドに入る。


 それは朝方の夢だと感じる感覚であった。


 大きな広間に棺が置かれていた。近づくと真由美が白い花に囲まれて入っている。


「私の初めての獲物よ」


 美亜が後ろに立っていた。死神を自称して私達の前から消えた美亜である。


 私は想像した、真由美が居ない生活である。


「美亜、何故、私を殺さないの?」

「あなたは、魔女と契約している。『祈りの石』は魔女の物だし、叩けばすぐに自ら命を断つ獲物なんてつまらないわ」


 そう、これは夢である。アイが見せた時空を超えた感覚の夢である。そして、アイが近づいてくる。


「この世界では真由美という個体一体の居ない世界よ……あなたはこの真由美に依存している。死神はそんな個体を好むの」


 アイの言葉に悪い夢である事を願う。私は試しに鉛筆で腕を刺してみる。


 ……痛い。


 この感覚は夢であって夢でないモノであった。美亜の狙いは真由美だ。その認識が引き金になって目が覚める。


 薄暗い部屋の中でアイが椅子に座っている。


「真由美なる個体を守る方法があるわ」

「お願い、教えて!」


 アイは立ち上がりゆっくりと近づいてくる。


「『祈りの石』を使うの……美亜の支払った対価を『祈りの石』で返すだけ」


 私の頬に顔をすり寄せるとアイは消えてしまう。これも夢?違う現実だ。


 スマホを見ると真由美の着信が残っている。寝てから電話なんて真由美らしい。


 私は『祈りの石』を使う事を決意したのである。


***


 私は病室から見える流れる季節の移ろいを感じていた。


「今日も来たよ」


 病室の扉が静かに開く。友達の真由美だ。私は『祈りの石』と等価交換で真由美から死神の手から守ったのである。


 魔女との契約を打ち切ったので『祈りの石』は無くなり、肺の病気で入院の日々である。


 うん?


 隠れる様にしているのは美亜である。美亜も私の大切な友人である。


「また、来ちゃった」


 私の『祈りの石』で美亜は死神との契約が無くなり。願い事であった『友達が欲しい』が叶ったのだ。


 こんな私でも友達が二人もいる。


 それは穏やかな日々が続くのであった。真由美と美亜はスマホを広げて絶対正義を始める。


 私は院内のスマホの利用制限で引退した。


 やはり、廃ゲーのプレイは入院中では無理らしい。


 代わりに小鳥の餌付けに成功して充実した日々を送っている。


 ただ、残念なのがスケッチに飽きてしまったことだ。院内から出られないので風景画の場所が無いのである。


 私はスマホを取り出して三人で自撮りした画像を見る。


「ねえ、今日の一枚を撮らない?」

「OK」

「えーまた?」


 真由美は快諾して美亜は渋る。完全な何時ものパターンである。


 私は美亜を説得して二人が私の顔に近づく。


『イェーイ』


 確認すると綺麗に撮れた。これで今日は満足である。


「そう言えば、一時退院の許可がおりたよ」

「ショッピングモールに行けるじゃん」

「それは無理かも」

「なら、ホームパーティーをしようよ」


 真由美の案が却下されて美亜の意見が採用される。私は幸せ者だ。少し涙ぐむのであった。


「そんなに嬉しいの?初めて会った時は憂鬱そうだったのに」


 真由美の言葉に、今、思えば遠い昔の様なきがする。


「一枚、撮るよ」


 私は真由美にスマホを向ける。


 そう、季節は過ぎて行って夏の暑さから涼しくなった。


 私はきっと、しあわせになれる、そんな予感のする昼下がりであった。




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『祈りの石』は不幸で輝く。 霜花 桔梗 @myosotis2

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