第2話 晴天の笑顔
「先生、今…なんて?」
優也の前に笑顔で立っている教師に向かって、
やってくれたな、と言わんばかりに呟いた。
「研究会だからといって、
活動しない訳にはいかないだろう?」
「それは…!研究レポートの提出などで!」
「でも、顧問は私だ」
(クッソ…何か裏があると思ったらこれかよ!)
いつもは優也が有利なことが
ほとんどであるが、今日に限ったら
圧倒的に教師側が優勢である。
(本来の教師と生徒の姿なのに…違和感すげぇわ)
「研究会を、やっぱりなし。とは出来ないだろう?」
優也は空き教室を自由に使う為に
研究会を立ち上げようとしたのだ。
無論、研究会を立ち上げなければ
空き教室の使用をこの教師が許す訳もない。
(背に腹はかえられねぇ…か)
「条件を付けて良いですか」
そんな優也の発言に、教師は少し驚く。
今までは何をしても生徒と関わりを持とうと
しなかったため、今回も立ち上げない。という
選択肢をとると思ったからだ。
(何か心境の変化でもあったのかな?)
「その条件次第…かな」
「相談相手が俺だということを隠すこと
仮に俺が失敗しても、その責任を取らないこと
相談を受けている間、先生は席を外すこと」
(…なんとまぁこの子は)
思わず苦笑いしてしまう。
完全に相手のことを、カウンセリングの実験台
としか認識していなさそうな条件だ。
「この私、
「わざわざ名乗らなくても知ってます」
「カッコつけたくなっちゃったんだよ!」
琴音がこのような場面で、
カッコつけようとするのはオタクの弊害である。
※オタクが悪いのではなく、琴音が悪いです
「それにしても、もうちょいなんかないの?」
「…なんか、とは?」
「相手は"学園の憧れ"西園寺唯花なんだぞ?」
「興味無いですね」
一刀両断である。優也にとっては
陰キャであろうが、陽キャであろうが、
そんなことはどうでもいい。
相手の立場、状況によっても
相手の悩みは変化するものだが、
陰キャだから、陽キャだから
といって相手を決めつけるのは無責任だ。
「でも隠すって言ったってどうすんの?」
「姿はいくらでもやりようはありますし、
声は…ボイチェンとかで良いんじゃないですか?」
「ボイチェン…私の貸そうか?チョーカーのあるぞ」
(先生がオタクで助かった)
いやでも、オタクでもチョーカー型のボイチェン
なんて持ってるか?となった優也だったが
無料で済むことに変わりはないため
詮索はしないことにした。
「てか毎度思うだけどさ」
「何ですか?先生」
「普通に授業とか皆で受けるけどさ
グループワークとかどうしてんの?」
そんなことですか?と言いながら
優也は淡々と琴音に告げる。
「そんなの俺1人で終わらせてますよ」
「うわぁ…才能の良くない使い方だ」
聞かなきゃ良かった、思いつつ
琴音は優也に呟く。
「西園寺の件、明日だから。遅れんなよ?」
「…俺が断ってたらどうしたんですか」
「お前はなんやかんや優しいからな」
何ですかそれ、と優也は言い捨てながら
荷物を纏める。
「帰ります。さようなら」
「あぁ、さようなら」
優也が居なくなった教室で、
(面白いことになりそうだなぁ~!)
とオタク全開な考えをするのだった。
「よろしく、西園寺唯花さん」
優也は、いつもとは違う声色でそう告げるのだった
「よろしく…お願いします」
今になって同級生に相談するのが
恥ずかしくなったのか、
少し恥ずかしそうに呟いた。
「えぇっと、何と呼べばいいですか?」
そんな事聞かれるだなんて優也は
想定していなかったので
バリバリにテンパりまくっている。
「私のことは"Y"とでも」
全力で思考し、思いついたのは
無難に名前のイニシャル。
本当に学園1位をとれたのか疑問である。
(なんか考えとけば良かったぁ…!)
優也は、確かにな?正体隠すんだったら、
本名で呼べんわな!
ミスったな…今後改善しよ…と考えるのだった。
「Y…?こういうのは相場"X"では?」
「細かいことは気にせずに!」
「は、はい!」
優也の謎テンションにつられて、
唯花の緊張はもう殆どないように見える。
※優也はゴリ押しで納得させたいだけ
「本題に入りますか」
少し雑談を交わした後、優也はそう唯花に言った。
「そう、ですね」
(…?なんか残念そうだな、なんでだ?)
優也は唯花の表情から感情を読み取り
その"残念そう"という気持ちに疑問を抱いた。
「私の悩みは、皆の期待が…しんどいことです」
「…なるほど」
(そういう感じか…)
学園の憧れという2つ名が
学園全体に浸透するくらいには、
"西園寺唯花"という人間は完璧だ。
(でもそれは…)
表面上だけを見た話だ。
「私は、そんなに凄い人間じゃないんです」
(自己肯定感が低いな…)
他の生徒から頼られることも多いだろうに
何かきっかけでもあったのか?と優也は考えるが
何か自信を失う何かがあったのか!?なんて
聞けるわけが無いので、唯花の口から
言ってくれることを願うしかない。
(取り敢えず、ここは"沈黙")
ただ、気まづくはならないようにする。
優也から聞くのではなくて、
唯花の方から言える雰囲気をつくる。
「この前のテストだって…学園2位で…」
2位だって充分凄いだろ!なんていうのは、
今は取り敢えずどうでもいい。
優也からしてみれば
(俺のせいですやん…)
優也は前回のテストで学園1位をとっている
つまり、唯花が自信を失うきっかけになったのは
優也というなんとも気まづい理由なのだ!
「今までずっと1位で…」
(やめてくれぇぇぇ…)
初めてのカウンセリング(仮)
友達なんて存在しなかった優也は、
"お悩み相談"なんて初めてな訳で
そんな初めての相談で、相手の悩みの
きっかけになってしまったが自分自身という…
(いや、違うだろ)
何やってんだ俺、と優也は
そんな思考を無理やり停止させる。
「今まで…大変だったんですね」
出来る限り優しい声色で優也は
唯花に向かって言葉を投げ掛ける。
"共感"
唯花にとっては、初めてのことだっただろう
唯花の周りに居た人間は、
自分と唯花を切り離し賞賛した…
今まで、唯花と"対等な人間"なんて居なかった。
「周りの人間から賞賛され、期待され、
押し潰されそうだったでしょう」
「お母様に、失望されてしまったかもしれません」
無意識的に零れた言葉だった。
唯花が完璧になりたいと願うのは、
母の為だった。皆の為だった。
「そんなことないよ」
優也は即答する。
(ないんだ、そんなことはない。)
優也は強い言葉で断言する
唯花の母がどんな人かなんて、優也は知らない。
でも、知っていることがある。
「親は子供に期待し続けてくれるものだから」
「…!」
「その期待が辛くても、失っちゃいけない」
(駄目なんだ…無くしちゃいけないものなんだ…)
「…でも、辛かったらどうしたら…」
(私には、居ない。そんな頼れる人が…)
唯花は俯く。こんな自分が嫌だから。
自分を罵倒して、自分を卑下したら楽だから。
「この教室に来い」
少し微笑みながら唯花に告げる。
顔は見えていないが、そんなことはどうでもいい
「鍵はきっと開けておくから」
(もう良いよね、許してくれるよね)
唯花を縛る鎖はここにはない。
ここには、この教室には、
"完璧な西園寺唯花"を望む人間は居ない。
「頑張ってたの!私だって!」
「そうだよね」
「才能なんかじゃないの!私が!
他でもない私自身が!頑張った結果なの!」
「凄いよ」
「お母さんだって!2位で何が悪いの!」
「悪くない」
「私だってただの女子高生なの!」
「そうだよ」
「偉いって!凄いねって!褒めて欲しかったの!」
「偉いよ」
唯花はその後、涙を流した。
泣いて、泣いて、泣いた後の西園寺唯花は
「ありがとうございました」
曇りのない、晴天の笑顔だった。
「あ、あのっ!また来てもいいですかっ!」
「良いですよ」
「…今度は友達として」
唯花は恥ずかしそうに告げた。
でも、それで良いのだ。
だって西園寺唯花は完璧じゃない。
この教室では、ただの女子高生でしかないのだから
「もちろん、楽しみにしておきます」
「本当に、今日はありがとうございました」
(俺だって…貴重な体験をさせてもらった)
優也が、自分から人と関わることはまだない
でも、悪いことじゃないとは思えた体験だった。
「貴方の人生に幸多からんことを」
「えっ?それって…」
「…?何か?」
「…ふふっ、いいえ。さよなら」
「あぁ、さよなら」
「お前ってタラシだったんだな」
「おい、話がちげぇぞ何見てんだ」
「教師にタメ口とは何事だぁ!」
「約束も守れねぇやつが教師ズラすんじゃねぇ!」
「教員免許を召喚!私の勝ちだ!」
「カウンター
「サーセンした!許してください!」
「次はねぇぞ…!」
「なんやかんや許してくれる優也くん好き」
「もしもし?ちょっとうちの教師が…」
「ごめんてぇ!」
「貴方の人生に幸多からんことを…か」
私は思わず微笑んでしまう。
「ありがとう、魅影優也くん」
学園の美少女達の相談に乗っていたら、いつの間にか懐かれていた件について @tatibanamikage
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