第5話


花蓮『ごめんね、ごめんね、ごめんね、ごめんね、ごめんね!』


花蓮『今日は一緒に帰れなくて!』


花蓮『どうしても辞めちゃった生徒会の引き継ぎに付き合わなきゃいけなくて……』


 そんなRINEが花蓮から舞い込んできた。


 高梨 花蓮という子は、愛が重いだけでなく、責任感も重い子なのは、付き合う前から承知していたことだ。

だからみんなからの信頼が厚い。



KENJI『大丈夫だよ』


KENJI『先に帰ってまってるね』


 

 花蓮から強制的に同棲をさせられてから、はや一週間。

彼女と一緒に帰らないのは、とても珍しいことだった。

しかも用事で遅くなるとのこと。

これは……千載一遇の大チャンス!


「よぉーし、今日は久々に1人で羽を伸ばすぞぉぉぉーーーー!」


 なにせ花蓮と付き合い始めてから、今日までほぼほぼ毎日、彼女に拘束されてしまっているのだ。


 たまには1人になって、気ままに過ごしたいと思い、夕方の街を練り歩く。


 自由とはこんなにも素晴らしいものだったのか! 最高、自由っ!


「ん?」


 と、感動しつつ歩いていた俺のつま先に、コツンと何かが当たる感触が。


 塗装がかなり剥げている、塩ビ性のボロッボロなクマのキーホルダーだった。


 なんだかこのまま、これを蹴り飛ばして側溝へ入れるのもアレだと思って拾い上げる。


「健二くん……? そんなところでなぁあにをしているのぉ……?」


 薄寒いその声を聞き、びくんと背筋を伸ばして振り返る


 そこには、黒いオーラを放って、佇む花蓮の姿が!?


「健二くんのためにね、私、仕事を予定よりも早く片付けたんだよ? 君が寂しいと思って、走って帰ったんだよ? でも、君は家にいなくて、こんなところで、1人でぶらぶらしていて……ねぇ、何してたの? まさかこの間の内山田さんの時みたく、他の子に優しくしていたの?」


「そ、そんなことは……!」


「ねぇねぇねぇねぇねぇねぇ!」


 やばい、まさかここまで怒るだなんて!


 どうしよう、俺! どうしたら!?


 だが、身構える俺の前で、花蓮は突然キョトンと、立ち尽くした。


「健二くん、その手に持っているのって……?」


「ああ、えっと、これさっき見つけて……」


「もしかして、私のために探してくれたのぉ!?」


「はぁ……?」


「ちゅきぃぃぃぃぃぃーーーー♡」


 公衆の面前で、押し倒されんばかりの勢いで花蓮に抱きつかれる俺。

正直、意味がわかっておりません。


「そのキーホルダーね、前に落としちゃってずっと、ずっと、ずっと探してたの! お母さんから唯一もらったものなのそれ!」


 まさかそんな展開!? でも花蓮の機嫌も治ってるみたいだし、ここは!


「あ、ああ、そうそう、そうなんだ! 良かったよ、見つかって! だからこんな時間まで外にいてね。ごめんっ!」


「ありがとう健二くんっ! やっぱり君って最高の恋人だよ! 大好き、大好き、大好き、大大大好きぃぃぃぃぃーーーー♡♡♡」


 もはや今日の花蓮の暴走は、いつも以上に過激で、激しく。

しかも相当喜んでいたわけで。


 そうなれば当然、マンションに帰って早速……


「花蓮!? その格好って……!?」


「健二くんのために買っちゃった♡ こういうのたぶん好きだろうなぁって思って♡」


 闇の中で、黒を基調としたメイド服を身につけた花蓮が妖艶な笑みを浮かべていた。


 絶対領域に、いつも以上に強調された胸の谷間に俺は息を呑む。


 するとそんな俺へメイド姿の花蓮は、手錠を差し出してきた。


「今日は健二くんからかけて♡」


「あ、うん……」


 いつもは帰宅すると、花蓮から手錠をかけられる。

だからこうして自分からかけるのは新鮮というか、無茶苦茶興奮するというか。


「捕まっちゃった♡ もう私は健二くんだけのものだからね♡ だから……なんなりとご命じください、ご主人様♡」


 彼女の浮かべたその笑顔に、一瞬で骨抜きになってしまった俺は、今夜もまた欲望に負けてしまう。


ーー正直、花蓮の愛は重すぎる。常軌を逸していると強く、強く、強く感じている。

疲れ始めているのもまた確か。だけど、離れられないのは、俺と花蓮が似ている境遇にあるからだ。


 俺も両親が亡くなってから、色々とたらい回しにされて、ここまでやってきた。


 そして花蓮も大物の隠し子で、家族が居なくて、こうして1人で住んでいると言うことは、色々と嫌な目にあってきたのだろう。


 ずっと遠い人だと思っていた憧れの人と見出した共通点。邪険にされてきた分、誰かに強く愛されたい、誰かを強く愛したいという、少し歪な気持ち。


 出会った日に、俺が花蓮と関係を持ってしまったのは、たぶんそういう雰囲気を同族として自然と感じたからだろう。


「健二くん、これからもずっと、ずっと、ずっと、ずっと、ずっと一緒にいようね! 大好きだよ♡」


 ぶっちゃけ、花蓮と付き合うのは無茶苦茶疲れる。だけど、俺の体力と気力が底を尽きるその日までは、花蓮との関係を続けても良いと思うようになっている俺であった。


 でもほんと、大丈夫だろうか俺……と思うのも、また確かなことである。


<おわり>


 良かったら★評価などをください。

もしかしたら、陰キャンプの次に書く長編作品になるかもしれません(笑)


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ちなみにこの作品よりは過激ではありません(笑)


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クラスの黒髪美少女と付き合うことになった……彼女はひどいヤンデレだった シトラス=ライス @STR

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