第4話
「ううん……」
ベッドの上で目覚めると、すでに隣に花蓮の姿はなかった。
しかし腕には相変わらずひんやりとした手錠の感覚がある。
なんだろ、このベッドから部屋の外にびょーんと伸びているワイヤーみたいなもの?
「あ、おはよう、健二くん! よく眠れた?」
と、呆然としている俺の前へ、爽やかな笑みを浮かべた花蓮が現れる。
しかも制服の上からエプロンを着けているという格好という破壊力抜群の。
昨晩、散々花蓮を貪ったにも関わらず、俺の雄の本能が、朝だというのも相まって激しい主張をし始める。
「んふ……健二くん、朝から元気だね♡ でも朝はだーめっ♡」
花蓮は手錠に繋がったワイヤーをスルスル巻き取りつつ、俺に近づき、馬乗りになる。
「朝だとみられて恥ずかしから、夜だけね♡ 日中はお互いにいっぱい、いっぱい、いっぱい、いっぱい、いっぱい我慢して、夜にぱぁあっとね?」
すでに今夜の約束さえも取り付けられてしまった俺である。
それはそれで嬉しいことなのだが、やっぱり手錠のことが気になってしまう。
「あの花蓮、この手錠は……」
「いいでしょこれ? この手錠のワイヤー10メートルくらいまで伸びるから、割と自由が効くと思うんだ♩ たとえば私がお料理をしていて、その時おトイレに行きたくなっても安心だよ♩」
「まさか、これをずっと着けたまままで……?」
「そぉだけど? なにか問題でも? だって、私と健二くん、昨晩も激しく愛し合った恋人同士じゃん?」
これはジョークでも冗談でもない……花蓮の目が本気を物語っている。
このままだと、学校でも手錠をかけたままだって言いかねない。
それは色々とよろしくない。
「な、なぁ、花蓮……せめて学校では外さないか?」
「え? どぉして?」
まずいまずいまずい! 花蓮から黒髪のような真っ黒なオーラが漂ってきているぞ!?
「私と離れたいの? なんで? だって私たち恋人同士なんだよ? いつも一緒にいるのが当たり前でしょ? だから学校でも手錠で繋いでいるのは普通のことでしょ? なのになんでそんなこと言うの?」
はやくはやくはやく、何か言わないと……!
「ねぇ、なんで? なんで、なんで、なんで、なんで、なんでぇ!?」
「い、いくらワイヤーが伸びるからといって、そのワイヤーに誰かが引っ掛かったら危ないからだっ!」
「きゃっ♡」
ままとなれと、俺は花蓮をギュッと抱きしめる。
「このワイヤーに誰かが足を引っ掛けて、花蓮が転んで怪我しちゃうかもと思って! 嫌なんだよ、花蓮が危ない目にあって、怪我しちゃうの! だ、だから学校で手錠は外そうって言っただけだ!」
「健二くんっ……」
「は、はい……?」
「ちゅきぃぃぃぃぃぃぃーーーーっ♡」
一瞬で顔を上気させた花蓮は俺にギュッと深く、深く抱きついてくる。
「私のこと心配してくれるんだよね!? そうなんだよね!?」
「あ、ああ、うん、まぁ……」
「わかったよ! 健二くんの言うこと聞いて、学校では手錠かないようにするね!」
ふぅー……なんとか治った。適当なこと言ったけど、それで花蓮が納得してくれたので良かった……。
「やっぱり健二くんって、とっても、とっても、とっても、とっても、とっても優しくて、かっこいいんだねっ! 君のこと好きになって、私本当に幸せだよ♡ じゃあ、せっかくだから……」
花蓮はグイッと俺の股を開いた。
朝は超絶元気なそれは花蓮へおはようございますをし、彼女は嬉しそうな笑みを浮かべる。
「時間ないからサクッとね♡」
確かに花蓮のような美人が恋人で、しかもそういうことができるのは本当に、本当に、本当に幸せなんだけど……だけど……
「え!? か、解約した!? 俺の部屋を!?」
「そぉだよぉ? だって、私たち恋人同士で、学校以外じゃ体もつなげるんだからね?」
通学の最中、衝撃の事実を告げられる俺だった。
「手続きはいっつも私によくしてくれる弁護士の先生にお願いしたからね! ご家族関係も問題ないはずだよ?」
「まぁ、俺の家族は大丈夫だと思う…………」
俺の両親は一作の年の中3の時に亡くなった。そこで叔父さんが後見人になってくれているんだけど、俺の両親とは仲が悪かったらしく、しかも海外で仕事をしているということで、高校卒業までは金銭面で支援するから、あとは好きにしろと言われているのである。
でも、だからと言って、高校生が恋人と同棲を始めるだなんて、ちょっと聞いたことがない。
それに、
「これからはずっと、ずっと、ずっと、ずっと、ずっと一緒だね、健二くん♡♡♡」
花蓮はすっごく愛が重く、常軌を逸してる。
まだ三日目だけど、疲れを感じ始めている俺。
たまには1人の時間が欲しい……。
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