私でもいいですか。

維社頭 影浪

私でもいいですか

寒さにはいろんなものがある。


涼しさが強まった心地よい寒さ。

季節の移り変わりを感じる寒さ。

太陽に対抗しているのか、冷たい風が強い寒さ。

ぞわぞわと肌をうような寒さ。

床のそこからじわじわくる寒さ。

体の奥底から、突然寒気さむけを感じ、体がガタガタ震えだす寒さ...っとこれはちょっと違うかもしれない。

外に出た瞬間、空気の冷たさでほほこおるような寒さ。


でも、雪が降るときの寒さはまた違った寒さだ。

外に出た瞬間に冷たさの間に漂う雪の匂い。

そんな日は全身がそわそわする。

窓から外を眺めては雪が降っているか確認し、を繰り返す。

雪が降り始めると、次は全身がぞわぞわして、気がついたら外に出ている。


「これは積もらないかなぁ」


黒い空から落ちてくる白い粉をみながらそうつぶやく。

歩いている道に落ちた雪はすぐに水に変わる。

服についた雪もすぐに溶けてしまう。

橋は凍るかもしれないが、雪は積もらない。

あのふわふわの雪に足跡をつけるのが楽しみの一つでもあるのに。


「ふう」


少し歩くと、体が温まってくる。

息を吐くと、空気が白く染まる。

周りには誰もいない。

ふと、昔のことを思い出す。


一年前に、雪が降ったので、当時の恋人と散歩をしたとき。

寒い外に出かける私を、彼は最初は面白がっていた。

しかし、私が毎回出かけたがるのを見て、付き合いきれないと、別れを切り出された。

私は毎回一緒に出かけたいとは思っていない。

だが、相手が付き合いきれないのであれば仕方ない。

なので、今私は誰に気をつかうわけでもなく、散歩している。


「……」


屋根、軒下のきした

天井に頭がこすっているのかと思うぐらい、背の高い人が、そこに立っていた。

その目は、果てのない黒い天井に向かっていて、時折、落ちてくる雪を目で追っている。

雨宿りしている様子でもない。

手には何も持たず、ポケットの中にある。

吐く息は白い。

何をするわけでもなく、じーっと外をみているようだ。


私と同じなのかもしれない。

雪をながめていたくなる。

付き合う人はこういう人のほうがいいのかもしれない。


―――「そんなに雪が好きなのかよ。雪女かよ」


前の恋人に言われたことを思い出す。

ならば、私のふさわしい相手は雪男か?

軒下にいる人ならば、背が高く、色も白く、がたいもよい。

よくよく見ると、普通の人よりも格好は軽装かもしれない。

本当に雪男なのかもしれない。


「……どうも、あの、何か」

「あ、いや……」


その声色はなんだか心地よい。

頬が朱色に染まるのは、寒さだけではない。


「雪が、きれいですね」

「そうですね」

「雪が、好きなんですか?」

「ええ。雪を見ると外に出たくなるんですよ、性分ですね」

「私も、そうなんです」


異性に純粋な気持ちで微笑んだのは、いつぶりかしら。

彼は「寒くないですか?」と聞いてきて、私は「歩いていたら寒さも忘れます」と答える。

会話毎に、心がさらに温かくなる気がする。


「あの……」


隣にいるのは、私でもいいですか。

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私でもいいですか。 維社頭 影浪 @Ishdws_kgrh

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