人工雪スキーのパイオニア森川敏矢

たたみや

第1話

「ゲレンデが溶けるほど恋したい」

「全然雪積もってねえんだよ! ったく、こっちは商売あがったりなんだよ!」

「まあまあ」

 俺はスキー場のオーナー森川敏矢もりかわとしや

 隣でジョークを言ってるのが幼馴染の矢野哲治やのてつはる

 毎年スキーの時期にバイトで手伝いに来てくれている。

 それにしても、この哲治はお気楽な奴だぜ。

 そんなにレタス農家ってのは儲かるのか。

 噂によると、周辺にある大学の学食で出るサラダバーのレタスはこいつが作ったものらしい。

「あれだな、こんな風になっちまった地球に物申したいよな。頭冷やしてこいってな」

「本当にそうだよ」

 哲治は相変わらずジョークを飛ばしてやがる。

 こいつ調子がいいな、やっぱレタス農家って儲かるのかな。


「まあでもあれだ。あんまりカリカリしてバイトの人に当たるなよ」

「流石にそんなことしねえよ」

「地元の人たちに言われるぜ、令和の蟹工船ってな」

「うちはそんな労働環境ひどくねーよ!」

 哲治が立て続けにジョークを飛ばしてやがる。

 お互いいいおっさんなんだが、年をとってもおしゃべりが落ち着く様子を見せねえ。

「バイトさんに仕事をビシバシやってもらうつもりなんだろ」

「チンタラ働いてほしくはないかな」

「取り組んだら放すな! 死んでも放すな!」

「電通じゃねえか! 何でスキー場で鬼十則なんかやるんだよ!」

 哲治のジョークがなおもエスカレートしていく。

 ジョークとはいえ、流石にこれを他のバイトの人に聞かれたくはない。

「そうだ哲治。今年もあれを使うぞ」

「『お姉さま、あれを使うわ』。『ええ、よくってよ』」

「何を一人で掛け合いやってんだよ」

「スキー場の『トップをねらえ!』、なんつってな!」

「マジで黙っててくんねえかな」

 若い子にはちょっと説明が必要なネタまで繰り出して来る哲治。

 そんな哲治を連れて俺はスノーマシンがある倉庫に向かい、二人でゲレンデまで運び始めた。

 これさえあれば、ゲレンデをパウダースノーで覆い尽くすことが出来る。

 冬休みシーズンが始まるまでに準備をしていきたいところだ。

 俺はスノーマシンを起動させ、雪を降らせ始めた。


「これで一気に雪を作っていくぜ!」

 隣では哲治が目を輝かせてスノーマシンから出る雪を見ている。

 お前これ毎年見てるじゃねえか、いまさら何に感動すんだよ。

「なあ敏矢、雪をチェックしてもいいか?」

「そりゃあいいけど」

 そう言って哲治は容器とシロップを取り出す。

「何やってんだよお前!」

「子供が口に入れるかもしれないからな」

「そんなに食べたかったのかよ! 随分やる気だなあ、ブルーハワイのシロップ用意しやがってよお!」

 ブルーハワイのシロップを雪にかけて哲治がガツガツ食べ始めた。

 少なくとも、いい年したおっさんがやることではない。

「この後って確かバイトのメンバー集めて軽くミーティングするんだよな」

「ああ、それが終わったら自由時間にする予定だ」

「いやー楽しみだなあ」

「何がそんなに楽しいんだよ、ベテランのお前がさ」

「寒い冬はみんなでロッジ、薪ストーブにかき氷だなあ」

「お前毎年そんなことやってたのかよ、ふざけんなよ!」

 流石の俺も哲治に怒りの説教をかました。

 いくら幼馴染でも限度があるというものだ。

 当然と言えば当然だろう。

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人工雪スキーのパイオニア森川敏矢 たたみや @tatamiya77

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