第3話
その後の数日間は、希望も波乱もないまま、ただ淡々と過ぎ去っていった。
その間にも、囚人たちは次々と傭兵に引きずり出され、様々な買い手に売られていく。ライオンのいる囚 cageの中の人数は徐々に減っていき、彼もいつか自分の番が来ることを理解していた。
ライオンが無為に地面に第六の筆画を刻んでいたある日、彼は二人の傭兵が自分の囚 cageに近づいてくるのに気づいた。彼らは何やらぶつぶつと話しており、一人は嬉しそうな表情、もう一人はまるで死んだような顔をしていた。
「…これ、これ、あとこれ…この三人でいい。これ以上はいらないから、早く檻を開けてくれ。日が暮れる前に戻らないと。」満面の笑みを浮かべた堅タダールの傭兵が、檻の中にいる三人の少年を指差した。
「この三人の奴隷の値段で、俺たちの借金はチャラになる。二度と俺を煩わせるな、もうお前とは賭けをしない。」檻を開ける傭兵は不満そうに文句を言いながら、檻の扉を押し開けた。
ライオンはこの異国の傭兵たちの会話を理解できなかったが、彼らの手振りや何度も耳にした粗野な罵声から、彼らが自分たちを外に出すよう命じていることは理解できた。
立ち上がると、ライオンは同じように指名されたロハクとアゼレインを見た。ロハクの憎悪に満ちた鋭い視線に心がざわつき、彼が外に出たときに衝動的に行動するのではないかと不安になったライオンは、急いで彼のそばに寄り、「今はその時じゃない。無謀な行動をすれば、みんな死ぬことになる。」と静かに警告した。
ロハクは眉をひそめて返事をしなかったが、最終的には頷いた。
「くそったれ、ガキが何を言ってるんだ、黙って早く行け!」檻を開けた堅タダールの傭兵は、セレイアンの言葉を理解できず、ライオンを不満げに引きずり出した。
ライオンは低い目をして反抗せず、傭兵が彼の足枷に新たに鉄の鎖を加えるのを受け入れた。彼とアゼレイン、ロハクは次々と傭兵によって鎖で繋がれ、一つの隊列を作った。
「ついて来い!」
嬉しそうに三人の奴隷を手に入れた傭兵は、もう一人から足枷の鍵を受け取り、ライオンの背中を強く押して進むように命じた。
ライオンは今、反抗する力も気力もなく、ただ怒りを押し殺しながら、できるだけ早く歩くことに努めた。少しでも蹴られる回数を減らすために。
兵営の隙間を抜け、兵士たちが守る数々の門を通り過ぎる。その道のりは、ライオンの目を自然と大きくさせた。やがて、彼らは傭兵の引っ張りによって、厳重に守られたこの傭兵の軍営を出ることができた。
鉄の鎖で繋がれた隊列は、足跡だらけの泥だらけの小道を進む。周囲は広大な原野で、遠くには森も見える。ライオンは深い足取りで、痛む足を気にする余裕もなく、驚きと喜びが心に溢れてきた。
彼は、傍らの傭兵が自分たちをどこに連れて行くのかは分からなかったが、これが自分がずっと待ち望んでいたチャンスだと気づいた。
厳重に守られた兵営を離れ、今や彼らの自由を束縛するのは、ただ一人の兵士と手にした足枷だけだった。
心臓がドキドキと高鳴る中、ライオンは横目で後ろのロハクを見た。彼の目にも、やはり挑戦的な火花が宿っていた。
深呼吸をして冷静さを取り戻し、再び前を向いて歩き続ける。余裕のある視線で、後方の堅タダールの傭兵をちらりと見た。
その傭兵は、頭に鉄の鼻当て付きの兜をかぶり、体には鉄片を組み合わせた鎖甲をまとっていた。腰には武装した剣と、もう一方には短刀を差し、背中には丸い盾を背負っている。
彼の武器と防具を見て、ライオンは徐々に冷静さを取り戻した。全身武装の傭兵に対して、武器を持たない自分たち三人が、もし手を自由にしても、彼に対して脅威を与えることは難しい。
それに、ライオンもロハクもアゼレインも、長い間の飢えと囚禁を経て、体力はほとんど残っていない。この状況で、武器を持たない少年たちが傭兵に立ち向かうのは、自殺行為に等しい。
では、みんなで荒野に逃げ出すのはどうだろうか?
それも現実的ではない。
ライオンは自分の足枷に繋がれた鉄の鎖を見下ろした。この鎖は奴隷が逃げるのを防ぐためのもので、三人を繋ぐ鎖はそれほど長くはない。もし走り出したら、すぐにみんなが転んでしまうだろう。
ライオンは、長い間空腹に苦しんできた三人の少年が、傭兵に勝てるはずがないことを理解していた。たとえ転ばなかったとしても、すぐに追いつかれるだろう。傭兵の剣が突き刺さるのは、まさに心を冷やす瞬間だ。
それでも、放棄するわけにはいかない。やっと囚われの檻から抜け出すチャンスを得たのだ。兵士たちで溢れた兵営を離れ、荒野を走り抜ければ、すぐに森に逃げ込んで自由を手に入れられるかもしれない。この天与の機会を逃したら、次に連れて行かれる場所は、さらに厳重に監視されたところかもしれない。
悩みながら考えていると、小丘を曲がる隙間で、ライオンは再び後ろのロハクをそっと見た。互いに目が合い、相手の中に渦巻く怒りを感じ取る。まるで、合図を待っているかのように、手を拘束された少年たちは、躊躇うことなく傭兵に向かって突進する準備をしている。
視線はロハクを越え、隊列の最後尾にいるアゼレインに向かう。白い肌の少年もまた、傍らの傭兵を観察していた。彼はライオンの視線に気づくと、無言のうちにライオンに向かって、しっかりとしたまなざしで瞬きをした。
これ以上見つめるのは危険だと判断し、ライオンは再び前を向いた。彼は後ろの二人の意志を感じ取った。動き出せば、ロハクはもちろん、アゼレインも全力で協力してくれるだろう。
三人が自由を取り戻すための成功の可能性が、今が最も高い時だ。たとえ傭兵に勝つ確率が低くても、命を賭けて挑むしかない。
…前世で経験した最も激しい戦いは、剣道場での剣術の遊びに過ぎなかった。今、自分は命を懸けてスパルタクスの役割を演じることになるとは。もし知っていれば、もっと徒手格闘を学んでおくべきだったと、心の中で最後の不満を抱えながら、ライオンの心臓はドキドキと高鳴っていた。
突然、微かな風が彼の前を吹き抜けた。
—!
手首から微細な音が聞こえた。進む中で、鎖がぶつかり合う音にかき消されてしまうほどの小さな音だ。もしその振動が自分の腕から来ていることに気づかなければ、ライオンはその音に気づかなかったかもしれない。
疑念を抱きながら、ライオンは自分の足枷に繋がれた手首を見つめた。すると、かつてはきつく締め付けられていた束縛感が、今はずいぶんと緩んでいることに気づいた。
信じられない疑念が心に浮かび、ライオンは手首を少し持ち上げてみた。すると、足枷の制約を全く感じることなく、U字型の鉄の輪がほんの少しだけ持ち上がり、脱出できるスペースができていることに気づいた。
足枷のロックが壊れたのだろうか?
そんな幸運なことがあるだろうか?自分が命を懸けて挑もうとしているその瞬間に?
ライオンは驚きと疑念を抱きながら、両腕を押さえつけ、足枷の鉄の輪を上に向けて、手首で起こった異変を隠した。突然の狂喜を感じる暇もなく、耳に心地よい少女の声がライオンの心の奥底から響き渡った。
「…一度だけのチャンス」
心の中に突然現れたその声に、ライオンは驚愕した。
誰が話しているのか?
その声は自らの思いを語り続けた。
「…この印を覚えて、イーシャの矢、敵に向けてそれを放つのよ…」
一対の朦朧とした手が、ライオンの驚いた視線の中で虚空から現れた。光を放つその手は、優雅でシンプルな動作で一連のジェスチャーを描き、そして夢のように消えていった。
驚きに目を奪われている暇はない。ライオンは急いで後ろの傭兵をちらりと見た。傭兵は相変わらず無表情で道を急いでおり、先ほど空中に浮かんでいた映像には全く気づいていないようだった。
ライオンは心の中でほっと息をついた。
「…あなたは誰?」
再び内なる声に問いかけてみるが、返事はなかった。何度も呼びかけるうちに、心の疑問は静かな湖面に投げ込まれた小石のように、何の反響も得られず、ライオンは一時的にその交流の試みを諦めざるを得なかった。
彼はそれが幻聴や幻視ではないと感じていた。なぜなら、手にした足枷が明らかに彼の認識を超えた力によって解かれたからだ。
では、「イーシャの矢」とは何を意味するのか?そのジェスチャーを敵に向けて放つとは?
…魔法なのか?
狩人の息子としての原主の質朴な記憶には、あまり多くの知識はなかったが、ライオンは様々なファンタジー作品に触れてきた現代人として、混乱しながらも過去の想像力を頼りにいくつかの推測を立てた。
もしかしたら、彼の中にもう一つの意識が宿っていて、彼女は魔法のような力で足枷を解いてくれたのかもしれない。これは間違いなく、彼を助けるための行動だ。
ライオンの目は次第に強くなり、無駄な疑念を抱いている暇はなくなった。魔法の助けがあろうとなかろうと、彼はこのチャンスを掴まなければならない。少なくとも、両手が解放された今、彼の生存の可能性は大きく増したのだ。
その神秘的な意識が示したジェスチャーについては…
彼女の言葉通りに解釈すれば、矢を放つような形式の魔法なのだろうか?威力はどれほどか?傭兵の鎧を貫通できるのか?射程はどれくらいか?
全く分からない。
血液と緊張感が一緒に沸き立ち、ライオンは深呼吸をして最後の心拍数を調整した。傭兵は常に隊列の側面を歩き、三人の動きを監視している。ライオンは、傭兵の背後から奇襲をかけるチャンスはないことを理解していた。誰かが先に動けば、傭兵は十分に反応して剣を抜くことができる。
ならば、後ろの二人よりも距離が遠い自分が、傭兵の注意を引くのに最も適した存在だ。
微風が小道の脇の野草を揺らす。
ライオンは目の前の一歩先にある、できるだけ平坦な足場を見渡した。
今だ!
両腕を曲げ、足枷を力強く引き剥がすと、ライオンはついにその束縛から解放された。
前に踏み出すと同時に、ライオンは猛然と振り返り、後ろのロハックに向かって声を張り上げた。「一緒に動け!」
彼の叫び声と共に、ライオンは左前方へ弧を描くように突進し、最初に傭兵の驚いた視線を引き寄せた。この距離では、ライオンが傭兵に接触する前に剣を抜かれてしまうが、彼の奔走は相手の注意を引きつけ、他の二人が側面から攻撃するための条件を整えるためのものだった。
ロハックは、目の前の仲間が足枷を解いたことに一瞬驚いたが、すぐに準備を整えた強壮な少年は、驚愕する傭兵に向かって全力で突進した。
アゼレインは少し反応が遅れた。彼の両手の足枷の鎖はロハックと繋がっていたため、仕方なくロハックの動きに合わせて傭兵に向かって走り出した。
「くそっ!お前ら、死にたいのか!?」傭兵は、三人の奴隷少年たちの突然の反撃に驚いたが、慌てることはなかった。ライオンが期待したように、傭兵が愚かにも横を向くことはなかった。
彼は素早く後退し、右手で腰の武装剣を引き抜いた。刃を手にした瞬間、傭兵は後退することなく前進し、狡猾な表情でロハックに向かって剣を振り下ろした。
奴隷を一人殺すことは彼にとって損失を意味するが、傭兵は同時に、手際よく「見せしめ」を行うことで、この大胆不敵な少年たちを抑え込む必要があることを理解していた。
たとえ怒りに燃えるロハックであっても、剣が降りてくるのを見た瞬間、死の恐怖が骨の髄まで迫ってくるのを感じた。
武器で防ぐことも、鎧で身を守ることも、十分な距離やスペースで避けることもできない。ロハックは無駄に腕を上げた。彼は死を見たように感じ、脳裏には亡き両親の苦しむ顔が浮かび、姉が引きずられていくときの涙に満ちた目が思い出された。そして、剣が自分の腕を断ち切り、首から頭を切り落とす瞬間の血肉の飛び散る光景が脳裏をよぎった。
微風が空中で止まったかのように、ライオンは時間が遅く感じられた。左手を上げると、あの神秘的な幻影のジェスチャーのように、中指と薬指を曲げ、右手の二本の指を剣のようにして、指先を遠くの傭兵に向けた。
ライオンは、この奇妙な動作が効果を発揮するかどうかを祈る暇もなく、身体が一瞬で血液が左手の人差し指と小指の先端に引き寄せられるのを感じた。
右手はまるで見えない力に導かれるように、無意識に後ろへ引かれた…そして、ライオンは奇跡の光を目にした。
光の矢が空を切り裂き、眩い閃光がライオンの右手の指先が指し示す軌跡に沿って放たれた。
瞬時に飛び出す。
光は傭兵の右腕を貫通し、轟音と共に「ドンッ!」という音が響いた。
肉が砕け、骨が折れ、鎖甲の袖が破裂する音が耳に残る。堅タダールの傭兵は、驚愕の表情を浮かべたまま固まっていた。
純粋な力が渦を巻き、血肉と鎖甲を引き裂き、断たれた右腕が空中に投げ出された。
「アアアアアア!アアアア!!」
痛みが脳に伝わる瞬間、傭兵は目を見開き、信じられないという表情で凄まじい悲鳴を上げた。彼は激痛の中で残された断腕を抱え、後退しながら醜い顔に涙を流した。
傭兵の苦痛の叫びを聞きながら、ライオンは一撃の成功を喜ぶ暇もなく、眩暈が襲い、視界が暗転し、身体はその場に崩れ落ちた。
重傷を負った傭兵は後退し、死と隣り合わせのロハックは、降りかかる剣の刃を待つことなく、全力で突進した。体格の良い少年は、最後の距離を踏み越え、断腕の傭兵をしっかりと地面に叩きつけた。
その衝撃で、アゼレインも彼らと共にバランスを崩し、倒れ込んだ。
三人が地面に倒れた瞬間、アゼレインは断腕と共に落ちてくる武装剣を目にした。彼は最初に反応し、必死に鉄の鎖を引っ張りながら両手を伸ばした。
「アアアア!お前ら、死ね!絶対に殺してやる、殺してやる!!」倒された傭兵は激しくもがき、恐怖が一瞬、手を失った痛みを上回った。彼はロハックの首を掴み、五本の指が鉄の鉤のように少年の喉を締め上げた。
ロハックは傭兵の死に物狂いの反撃を阻止できなかったが、彼は相手の腰の反対側にある短剣を掴むことに成功した。
迷うことなく、少年は長い短剣を抜き、傭兵の側面に突き刺した。しかし、どれだけ力を込めても、短剣は傭兵の厚い鎖甲と甲冑を貫通することができなかった。刃先が傭兵に痛みを与えたとしても、怒りと恐怖に満ちた彼は、少しも手を緩める気配を見せなかった。
その時、「プスッ」という音と共に、鮮血が飛び散った。
鋭い刃が傭兵の顎を貫通し、脳に達する致命的な一撃が、断腕の傭兵の最後の抵抗を終わらせた。
死にゆく傭兵は目を見開き、口から血を吐き出し、数回痙攣した後、完全に静止した。
ロハックはその光景を見て、手を挙げて死んだ傭兵の首を掴むのを解放し、息を切らしながら横にいる仲間を振り返った。
アゼレインは体を傾け、束縛された両手で先ほど手に入れた武装剣をしっかりと握っていた。彼は剣の刃を逆さにし、寝転んだまま傭兵の鎖甲とヘルメットの隙間に剣を突き刺すことに成功した。
「ふぅ…ふぅ…やったな…」ロハックは体を支えながら死体から這い上がり、アゼレインを支え起こしながら、呼吸を整えつつ感謝の言葉を口にした。
アゼレインは辛うじて立ち上がり、死んだ傭兵を見つめた。彼の心には、危機を乗り越えた安堵感と、家族の仇を討ったというわずかな満足感が交錯していた。
危機が去った今、二人はようやく不遠の地面に倒れているライオンに目を向けた。
先ほどまるで神のように光の矢を放っていた少年は、今や地面に伏せて動かなくなっていた。
「おい!ライオン!どうしたんだ?」ロハックは慌てて仲間の様子を見に行こうとしたが、鉄の鎖に足を引っ掛けてつまずいてしまった。
「待って、鍵を探して手錠を外そう!」アゼレインは冷静さを保ち、しゃがみ込んで死んだ傭兵の体をまさぐり始めた。すぐにシンプルな円筒形の鉄の鍵を見つけ出した。
二人は互いに手を助け合い、手錠を解除して自由を取り戻したロハックは、無事かどうかわからないライオンの元へ急いで駆け寄った。
アゼレインは急いで仲間の様子を見に行くことはせず、しゃがんで傭兵の死体から鎖甲や衣服、そして役立ちそうなものを剥ぎ取る作業を始めた。逃亡がこれからた。
サラリーマン、異世界で英雄になれ〜 @uxi
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