第4話 目覚める力

 目の前に立ちはだかる黒い霧の獣。リサが召喚した魔物は、鋭い爪を地面に突き立ててこちらを睨みつけている。


「どうした? 怖いなら、逃げるのも一つの選択だぞ」


 リサが冷ややかに言う。その声に、僕は思わず拳を握りしめた。


「逃げません。僕は、この適正を――『枝』を信じて戦います!」


 震える手で枝を握り直す。剣や槍ならともかく、ただの枝がどこまで通用するのか。疑念がないと言えば嘘だ。だが、ここで引いては未来はない。


 魔物が低い唸り声を上げ、地を蹴って跳びかかってきた。


「うっ!」


 枝を盾のように前に構える。魔物の爪が枝に触れた瞬間――


 ギィンッ!


 耳をつんざくような音が響き、枝の表面が淡い緑色の光を放った。魔物の爪はそれ以上進むことなく、まるで見えない壁に阻まれたように跳ね返る。


「なっ……?」


 僕も魔物も、動きを止めてその光景に目を奪われた。


「ほう、やるじゃないか」


 リサの低い声が響く。


「その枝、ただの木じゃない。お前の適正が力を引き出しているんだ」


 力……。これが、僕の『枝』の力なのか? 



 光に守られた枝を手に、僕は一歩踏み出した。魔物がまたも跳びかかろうとするが、今度は恐怖がなかった。


「適正を意識するんだ。枝をただ振るうんじゃない、枝と共に動け!」


 リサの指示に従い、枝を握る手に集中する。心の中で呼びかけるように――**「僕を助けてくれ」**と。


 その瞬間、枝が再び光り、まるで意思を持ったようにしなりを見せた。


「行けぇぇっ!」


 枝を振り抜くと、柔らかな光が放たれ、まるで風の刃のように魔物を切り裂いた。魔物の身体が崩れ落ち、霧となって消える。


 僕はその場にへたり込んだ。



「上出来だ」


 リサがゆっくりと近づいてくる。


「初めてでここまでやるとは思わなかったぞ。だが――これで満足するなよ」


 その言葉に、僕はハッと顔を上げた。


「まだまだ枝の力はこんなもんじゃない。お前次第で、剣にも盾にも、そして――魔法そのものにもなる」


「……魔法?」


「ああ。適正を極めれば、枝に自然の魔力を宿すことができる。それがどれほどの可能性を秘めているか……わかるだろ?」


 リサの目は鋭く、けれどその奥には期待の光が見えた。


「僕にも、そんなことができるんですか?」


「やる気さえあればな。お前が諦めなければ、可能性は無限だ」


 僕は小さく頷いた。この適正を、枝を――僕は絶対に無駄にはしない。


 

 その夜、小屋の外で一人枝を握りしめていた。昼間の戦いを思い返しながら、枝に触れる手に集中する。


「頼む。僕を導いてくれ……」


 微かな光が、枝の表面に浮かび上がる。それはまるで応えてくれるかのようだった。


「これが……僕の力……」


 その感触を確かめながら、僕は枝を握り直した。


「絶対に……負けない」


 そう誓うと、月明かりの下で何度も枝を振り、感覚を磨き続けた。リサが言ったように、可能性は無限だ。この枝で、必ず未来を切り開いてみせる――そう固く決意しながら。

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僕の適性は【枝】でした ~追放されたけど世界最強に成り上がる~ 小林一咲 @kobayashiisak1

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