第3話 冒険者の初仕事

 エリスの指導を受けた僕――天城悠真は、枝の適正を扱う技術を少しずつ身につけていた。枝はもはやただの木片ではなく、僕の意思に応じ、剣、槍、盾として変形する特別な武器となっていた。


「さあ、そろそろ外の世界を見てくる時だ。君の力がどこまで通用するか、試してみなさい」


 エリスの言葉に背中を押され、僕は冒険者ギルドのある町へ向かった。追放された王都から遠く離れたこの町は、魔物の巣食う山々に囲まれ、冒険者たちの活動が活発だった。


 ギルドの扉を押し開けると、喧騒が僕を迎えた。冒険者たちの話し声、依頼板の前で何かを議論する人々、武器や防具を磨く音が響く。


「新人か?」


 カウンターにいた女性が、少し冷たい視線で僕を見据えた。彼女はセリアという名前の弓使いで、ギルドの受付を担当しているらしい。


「そうです。僕は、天城悠真。冒険者になりたいんです」


 僕の答えに、セリアは少しだけ微笑んだ。


「適正は?」


「えっと……枝です」


 僕の言葉に、周囲の冒険者たちがざわついた。枝の適正は、聞いたこともないという反応だ。セリアも目を丸くした。


「枝? それで、何ができるの?」


「これを見てください」


 僕は枝を手に取り、一瞬で剣に変形させ、すぐにまた枝に戻した。セリアの表情が驚きから興味へと変わる。


「面白い適正ね。でも、冒険者は一人では生き残れない。パーティを組んで依頼を受けるのが一般的だよ」


 セリアの提案により、僕は彼女と一緒に初任務に挑むことになった。依頼内容は、山の奥深くで出現する魔物の討伐。難易度は低いが、初心者にとっては十分な試練だ。


「よし、行こう。天城さん」


 セリアの明るい声に導かれ、僕たちは山へと入った。彼女の弓と、僕の枝が初めて協力する場面だ。セリアは弓を引くたびに、的確に魔物の弱点を射抜く。それを見て、僕は枝を槍に変形させ、魔物の急所を突いた。


「すごい! この枝、なんて便利なの!」


 セリアの驚きと称賛に、僕は少し胸を張った。二人で協力し、魔物を次々と倒していく。だが、突然、より強力な魔物が現れた。それは僕たちが予想していた以上の力を持っていた。


「このままじゃ、危ない!」


 セリアが叫ぶ中、僕は枝の新たな力を試すことにした。枝を地面に突き刺すと、急速に成長し、魔物の足元を縛りつけた。そして、セリアの弓矢がその頭に突き刺さる。


「やった!」


 しかし、戦闘の後、魔物の死骸から取り出したのは、奇妙な輝きを放つ一つの結晶だった。これが何なのか、僕たちにはわからなかった。


「これは……何だろう?」


 セリアが結晶を手に取る。彼女の表情は好奇心と不安で揺れていた。


「この結晶、ギルドに報告しなきゃ。もしかしたら、大きな秘密が隠されているかもしれない」


 そう言って、僕たちは町に戻る決意を固めた。だが、この結晶が何を意味するのか――そして僕たちが何に巻き込まれていくのか、それはまだ誰も知らない。

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