第5話
「ねえ、上原くん家遊びに行っても良い?」
「え?」
突然、隣の席の黒田さんから話しかけられた。彼女とは、少し話をする程度で友達でも何でもない。俺が戸惑っていると。
「そんなに驚かなくてもいいじゃない。内緒の話がしたいのよ」
「話がしたいのか…びっくりした。だったら別に学校の別の場所でもいいんじゃ」
「学校じゃ話せない話なの」
特に断る理由が無いので、俺は黒田さんと家に帰った。
「お兄ちゃんお帰り…って友達?」
「えーと」
「彼女ですー」
「「えええっ!」」
何突然言い出すんだ。この人は。
「クラスメートの黒田さん。それだけだ」
「親密な友達」
「こらこら、誤解を生むことを言うな!」
「誤解されちゃ困るの?」
「うっ…」
めっちゃ困る。言えないけど。
「ふうん。今日、友達になる予定よ。上原くん?わたしをお部屋に案内して?」
黒田さんって、見た目に反して押しが強いな。俺は自室に彼女を招き入れて、椅子に腰かける。
「それで?話って?」
「単刀直入に訊くわね。じゃあ訊くけど、貴方魔法を使えるわよね?」
「何の事だか」
俺はとっさに誤魔化そうとしたが、黒田さんの体がふわりと宙に浮きあがっていた。ほんの数センチ程度だが。
「どう?わたしは魔法を使えるわ。貴方も使えるわよね?」
「えっと…」
「誤魔化しても無駄だからね。わたしは魔力が解るの。わたしと友達にならない?一緒に遊んでくれる友達が欲しかったのよ」
「てっきり、俺を好きなのかと思ったよ」
「まぁ、もしかしてわたしの事が好きなの?」
「いや、そんな事無いけど」
「ハッキリ言うわね」
「こういう事はハッキリ言っとかないと…」
カチャ。
「お兄ちゃん、入るわよ。一応ジュース…」
ゆかりがジュースの入ったトレーを持って固まっていた。
黒田さんが宙に浮いていたのを目撃したからだ。
ゆかりの手から、トレーが落下していた。
『
慌てて、俺が魔法で受け止める。
「あっぶねー」
「「な、何で…」」
驚き過ぎだろ。ゆかりは、ぺたっと床に座り込んでいた。
「そんなに驚かなくても…初めて見るんじゃないのでしょう?」
「いや、初めてだと思うが」
「そうなの?今時、魔法なんて珍しくないと思うけど?」
「「はあああっ?」」
俺とゆかりは、黒田さんのいう事に疑問を持った。
だって魔法は異世界だから使えたはずで…あれ?何で俺、魔法使えているんだ?
「いとこの、みいちゃんも異世界行って来たって言うし。結構そういう人多いんじゃないのかな…」
な、何だと?
確かに、隣の席の黒田さんが異世界帰りというのは、偶然にしても凄すぎるよな。
他にも居るとすれば、別に不思議ではない。
「わたし、他の人の魔力が解るのよ。みんな隠しているだけで、魔法使えるみたいだし」
「学校にも他に居るとか?」
「探してないけど、多分…」
想像しただけで少し恐ろしくなってきた。俺と同じ、もしくはそれ以上の能力者がわんさかいるとか。能力を悪用しなければ問題はないと思うのだが。
*
「君が、上原くんだね?」
次の日、教室に見知らぬ男子生徒が俺を訪ねてきた。もしかして…。
「動画に取られちゃったから、気が付かれたのかな?」
黒田さんが素知らぬ顔で呟く。平穏な生活はまだまだ遠いらしい。
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異世界帰りの勇者は平穏を望む 月城 夕実 @neko6
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