第4話

「もしかして異世界帰りだったりして」


隣の席の女子、黒田さんは呟いた。俺はドキリとする。変な汗が背中から噴き出した。


「冗談よ。まさか、そんな事が現実にある訳が無いからね。あったら面白いけど」


そう言って、本の表紙を指さした。今流行りの異世界物のラノベ。いつも本を読んでいるなとは思ってたけど、そういうのを読んでいるんだ。興味はあるんだろうな。

その日、一日は何事もなく無事に終わった。




   *




家に帰りドアを開けると、ゆかりがスマホを持って迫ってきた。まだ玄関で家にあがってもいない。


「ただいま…どした?」

「これ、見た?」


俺はある動画を見せられる。


「昨日行ったショッピングモールだな」

「この後よ」

「あれ?俺?」


偶然写り込んだのだろうが、ゆかりに絡んでいた男を投げるところと、二階から飛び降りたところがバッチリ写っていた。幸いにも遠くからなので顔が全く認識できないが。


「学校でも大騒ぎだったのよ?私たちだとはバレていないみたいだけど」

「男を投げ飛ばしたから、俺…捕まる?」

「それは多分、大丈夫じゃないかな。あの時は助かったけど…またあんな事になったら大騒ぎになっちゃう」


あの時は、何も考えないで行動をしていたけど、もっと慎重になるべきだったな。今の時代、いつ動画に取られても不思議じゃない。


「今度から気を付けるよ」


やっと異世界から帰ってきたんだ。今度は穏やかに暮らしたいからな。




***黒田しおり視点




「まさか、他にも異世界帰りの人がいたなんて…」


わたしは今から半年前、異世界に呼ばれて戻ってきた。勇者じゃなくて聖女としてだけど。何処かへ戦いに行くこともなく、ただ神殿でお祈りをするだけで、聖なる力が発動して魔物を排除できた。


眼鏡を外し、三つ編みを解く。するするっと髪が解かれた。緩くウェーブに波立った髪は少し気に入っている。


「上原くん、魔力でバレバレよ。隠すって事知らないのかしら。まあ、別に隠す必要なんてないか」


わたしは、部屋の窓から身を乗り出した。月明かりに照れされ、今日も空を飛ぶ。真っ暗な空は気持ちが落ち着いて気持ちが良い。静かな夜がわたしは好きだった。


「今の生活…退屈なのよね。少しは楽しめるかも」


わたしは、ほくそ笑む。ホウキに乗ったら、そのまんま魔女に見えるだろう。上原くんと空を飛ぶのもいいかもしれない。探せば他にも居るのだろうか?


「うふふっ」


今日は海まで飛んでみよう。地元は山ばっかりだし、たまにはいいよね?

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