第3話

人気のない公園。俺たちは公園のベンチに座っていた。


「異世界召喚?勇者?お兄ちゃんマンガの読みすぎ…って言いたいところだけど。じゃあ何でもいいから魔法見せてくれる?」


「そうだな。『火よファイヤ』」


指先に火が灯る。これならば目立たないし、直ぐに隠す事も出来るからな。


「手品じゃないわよね。そんな趣味聞いたこと無いし…もしかして水も出せるとか?」


「ああ、『水よウォーター』」


空中の何もないところから、水が湧き出した。


「これで納得した?」

「…取り合えず信じるわ。目の前で見ちゃったし」


現実主義のゆかりには、受け入れがたいのかもしれないな。俺は逆に異世界に憧れていたから、直ぐに現実を受け止めた方なのだが。



   *



翌日、学校に登校した。ゆかりは心配してくれたが、何とかなるだろう。最悪、分からない事は他の人に訊けばいいわけだし。何とか学校にたどり着いたが、教室が何処だかわからない。校庭をキョロキョロしていると、後ろから男子に肩を叩かれた。


「何してんだよ。上原、教室に行かないのか?あー頼んでおいたもの持ってきてくれたよな?」


馴れ馴れしく、話しかけてくるので知り合いだろう。うん。見覚えがある。嫌な感情が湧いてきたので前に虐めていた奴に違いない。


「無視すんなよ、やべ遅刻するな」


腕時計を見て、男子生徒は走り出した。俺は、男子生徒の後を追いかける。多分同じクラスなのだろう。これで教室に行けるな。




無事に教室へたどり着いた。席はどこだろう。見渡すと空いている席があるのであそこだろうか。俺は窓際の後ろの席に座った。


席に着いたところで、先ほどの男子生徒に声をかけられた。


「持ってこなかっただと?」

「うん。ごめん。忘れちゃって」


嘘は言っていない。何を約束したかも憶えていないのだ。

クラスの男子は麻木あさぎというらしい。麻木はスマホの画面を見せてきた。


「これ!よーく憶えておけよ」


見せられたものは、最新のゲーム機。値段は二万円もする。


「親に買ってもらったらいいんじゃ…」


昨日までの俺はこんな事を言われていたのか。虐められていた記憶はあるけど内容何かすっかり忘れていたからな。


「ああ?言うこと聞かねえとわかってるよな」


どうやら脅されていたみたいだ。今の俺には全く効かないけど。麻木は俺の胸ぐらをつかんで睨む。沸点が低い奴だ。


「すっかり忘れちゃった。ごめん」


「何なんだお前…全然怖がらねえし、つまんねえの!」

麻木は俺から手を離した。


「アサギ―、それより昨日のさ、凄い動画がバズってるんだけど見た?」


他のクラスメートの男子が、麻木に話しかけていた。


「何だ?」


麻木は、声をかけた男子生徒の方へ向いていた。




「良かったね。上原君」


隣の席の黒田さんが声をかけてきた。背中まである黒髪を三つ編みで結わえている。いつも本を読んでいる女子だ。


「そういえば何だか少し変わった?」


彼女は、眼鏡越しに静かに微笑み首を傾げた。


「もしかして異世界帰りだったりして」

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