第13話

 エリスとの稽古を終え、汗をかいたまま街の噴水広場に立ち寄った俺は、見覚えのある巫女姿を見つけた。アメリアだ。彼女は街の人々に何か話しかけられては、小さく頭を下げている。


「アメリア、どうしたんだ? こんなところで」


「あ、ラゼル様。実は神殿の行事の手伝いで、街の人々にちょっとした募金や奉納のお願いをしているんです。でも、なかなか大変で……」


「そっか。巫女も色々忙しいんだな。……手伝うことがあれば言ってくれよ」


「本当ですか? 助かります。今、女神様のご機嫌はあまり良くないようで、わがままが多くて困っているんです。少しでも評判を挽回したいっていうか……」


「なるほどね。女神様もプライドが高いからなあ」


 そんな世間話をしていると、急に街の鐘がけたたましく鳴り響く。


「な、なんだ!?」


 市民たちがざわめき、守衛たちが一斉に走り出す。まさか、魔物か盗賊か。どうやら非常事態らしい。


「アメリア、一旦下がってろ。俺が様子を見てくる!」


「すみません、お願いします。私も安全な場所で祈祷をしてみます」


 そう言ってアメリアは急ぎ足で去っていく。俺も広場を走り抜け、騎士団の詰め所のほうに向かった。

 すると、ちょうどエリスが青ざめた顔で出てくる。


「ラゼル、大変よ! 郊外の方にまた得体の知れない魔物が出て、農地が荒らされてるらしいの。今度は複数体だって……」


「また魔物……この前のよりヤバいのか?」


「かもしれない。しかも、噂では夜になっても動き回ってるらしいから、下手に行くと返り討ちにあう可能性も高いわ」


 そんな会話をしていると、シエナも駆けつけてくる。


「ラゼル、エリス、話は聞いたよ。どうする? また討伐に参加するの?」


「状況次第かな。だけど、街の人々が襲われてるなら、放っておけない。俺も行きたいけど、無謀な突入は避けたいし……」


 考えていると、騎士団の上官らしき人がエリスに声をかける。


「エリス、君は指揮官と一緒に先遣隊を頼む。君の腕前は認められているからな。……ただし、無理はするなよ」


「はい、承知しました!」


 エリスは敬礼をして、すぐに出撃の準備に取り掛かる。俺はその背を見て、気持ちが揺れる。


「行くなら、俺たちも行こうぜ。エリスを一人で行かせるのは危険だ」


「うん、私も同じ気持ち。騎士団に加勢するように話してみようか」


 シエナが提案し、俺もうなずく。二人で上官に話しかけ、参加の意志を伝えると、彼は少し考え込む。


「前回の討伐でもそこそこ役に立ったらしいし、まあ構わんだろう。気をつけろよ。今回の敵は複数で、夜の闇に乗じて動き回るんだ」


「ありがとうございます。やるからには全力を尽くします」


 こうして、俺たちはまたしても魔物との戦いに挑むことになった。しかも相手は複数体だという。

 女神の機嫌が悪いことと何か関係しているのだろうか。周囲には嫌な空気が漂い始めている。


「行くぞシエナ、エリスを追いかけよう。俺の“吸収”がどこまで通用するか、確かめるいい機会でもある」


「そうね。……気をつけて、絶対に死なないでよ」


「ああ、当然だ。俺は負けねえぜ!」


 恐怖はある。だけど、それ以上に街を守りたい気持ちが強い。女神に冷遇されたって、この街のみんなが認めてくれるなら、俺は何度でも立ち上がれる。

 暗雲が立ち込める夜へと向かいながら、俺たちは覚悟を新たにするのだった。

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女神に冷遇された不遇スキル、実は無限成長の鍵だった 昼から山猫 @hirukarayamaneko

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