第23話 天使のような笑顔


「――お嬢様。敵の制圧完了いたしました」


「うん、ご苦労様」


 ウィリアムとギデオンを労いながら、エリザベスは地面に倒れる『敵』の一人に近づいた。他の連中は気絶していたが、その男だけは意識があったのだ。


「お嬢様。危険です」


「うん、大丈夫だよ」


 心配するギデオンを腕で制してから、エリザベスは男に問いかけた。


「さて。キミたちのアジトの場所を教えてもらおうかな?」


「……けっ、誰が教えるか!」


 威勢がいい男だが、ダメージは深いのか地面から起き上がれる様子はない。あの状態でよくもあんな口がきけたものだと端から見るウィリアムは呆れてしまう。


「そうか。では少々手荒にいこうかな」


 エリザベスが倒れた男の腕を握った。それを見たギデオンが「殿下! 汚いですよ!」と注意するがエリザベスは構わない。


「えい♪」


 エリザベスが可愛らしい掛け声(?)を上げ。


「ぎゃああぁああぁああああぁああっ!?」


 男の全身が激しく痙攣しだした。


 あれは……攻撃魔法だろうか?

 雷系の攻撃魔法を使っているのだろうか?

 今さら、「殿下は攻撃魔法を使えないはずでは?」などと驚くことはないウィリアムであるが、ずいぶんと簡単にお披露目してくれたものだ。それだけ信頼していただけたということだろうか?


(しかし、わざわざ腕を掴んで逃げられないようにしてから魔法を流し込むとは……)


 雷の魔法を放っては音や光で周囲の注目を集めてしまうし、空気中で多少威力が減衰してしまうので、理屈で考えればいいことなのだろう。が……。攻撃魔法を直接身体に叩き込まれる痛みはどれほどのものか。


 少年少女を誘拐する連中に慈悲など不要とはいえ、それにしても憐れなことだとウィリアムはそっと神に祈るのだった。





「さて、キミたちは世界で一番安全な場所に避難してもらおうか」


 エリザベスが指を鳴らすと、誘拐犯から逃げてきたクリフとベスの姿がかき消えた。どうやら転移魔法でどこかに転移させられたらしい。


「一体彼らはどこへ?」


「師匠のところさ」


「あぁ……」


 魔導師団長のところなら確かに安全だろう。何の説明もなく少年少女を送り込まれるマーガレットは災難だろうが。


 ちなみに話を聞き出した『敵』はエリザベスによってしっかりと気絶させられた。その前に倒された連中と合わせ、安静効果のある魔法を掛けたのでしばらく起きないそうだ。


「さてこれで下処理は完了と。……秘密のアジトか。定番と言えば定番だね」


 男から聞き出した場所に早速エリザベスは向かおうとし、


「お嬢様。危険です」


「ここは騎士団に報告して任せてしまいましょう」


 当然ながらウィリアムとギデオンが止めに入った。


 しかしエリザベスは悪びれた様子もなく家臣二人をたしなめる。


「ははは、ダメだよ二人とも。騎士団が来たら落ち着いて交渉・・できないじゃないか」


「…………」


「…………」


 思わず顔を見合わせるウィリアムとギデオン。この天使のような見た目をした王女殿下グロリアーナは、一体誰と何を交渉するつもりなのだろう? これではまだ「悪いことをした連中にお仕置きをする」と言われた方が納得できるというもの。


(おいウィル。これは止めるべきか?)


(お前までウィルと呼ぶのか……。いやしかしまだ交渉内容が分からないし――ではなく、危険な連中との交渉などさせられるか!)


 エリザベスの言動にだいぶ毒されているウィルが遅まきながら気づいたものの、すでにエリザベスはアジトに向かって歩き始めていたので二人は慌てて後を追ったのだった。




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