第22話


「おお!?」


「なんと!?」


 ギデオンとウィリアムがほぼ同時に驚きの声を上げる。麻袋を取った少女の顔が――エリザベスそっくりだったのだ。


 いや、よく見れば違うところもある。目元はエリザベス本人よりやや垂れかがっているし、肌もエリザベスの方がきめ細かい。世にも珍しい銀髪であることは同じだが、やはり比べてみるとエリザベスの方が鮮やかだ。


 しかし、それはあくまで同じ場所で比べたから分かる程度の差であって、この少女が一人だけいる状態で『エリザベス王女殿下です』と紹介されれば誰も疑わないだろう。


 あとはエリザベスの特徴の一つである『エルフ耳』であるが……。少女は、その両耳に鉄製の器具を嵌められていた。平べったく、横に長い。二枚の鉄板で耳を挟むようにしてネジ留めしてある。


「ほぉ、なるほど。その器具で耳を伸ばして・・・・いるのか。私のようなエルフ耳になるように。そしてあの麻袋に施された術式でそれを加速させると」


 エリザベスの推測を聞き、ウィリアムの背中に怖気が走った。こんな少女の耳に器具を嵌め、耳の形を強制的に変えようとするとは。


 しかも、エリザベスの予測が正しいのなら、それを魔術でも促しているのだろう。


 もはや人体改造と呼べる所業だ。


 耳の形まで『エルフ耳』となれば、まさしく瓜二つ。エリザベスそっくりになってしまうではないか。一体何の目的でそんなことをしているのか……。すぐに思いつく可能性は『替え玉』だが……。


「妹ちゃん。君の名前は?」


 ウィリアムが推測することなどエリザベスも思い至っているだろうに、それでも平然とした様子でエリザベスは少女に問いかけた。


(まずは事態の不気味さを恐れるより、少女を安心させることを選ばれたのか……さすがでございます)


 ウィリアムの忠誠心向上など知る由もなく少女は答えた。


「ベスです」


 ベス。

 それは『エリザベス』をあだ名で呼ぼうとしたときの候補の一つ。エリーやリザなどの渾名がある中で、たしか国王陛下からはベスと呼ばれていたはずだ。


「いい名前だ。……というのはちょっと自慢のようだが、いい名前だね」


 エリザベスが安心させるかのようにベスへと微笑みかけ――


「――いたぞ! こっちだ!」


 野暮な大声が背後から響いてきた。


「おや? 転移魔法の術式を逆探知されたかな? どうやら『敵』にも優秀な魔術師がいるらしい」


 敵。

 エリザベスが敵と言うのならば、ウィリアムとギデオンに迷いはない。


「――飛礫よ、穿てペイブル!」


「ぐっ!?」


 まずはウィリアムが準備していた攻撃魔法で『敵』を無力化させる。

 だが、仲間を呼んでいたのでまだまだ『敵』は増えるだろう。


「……ギデオン、まずは追っ手を制圧するぞ」


「おう、分かり易さってのは重要だな」


 二人が戦闘態勢に移っている間、エリザベスはクリフとベスに近づき、まずはベスの両耳に付けられた器具に触れた。


「――開錠オープン


 きつく締め付けられていたネジが、独りでに回って外れた。


 器具が落ち、ベスの両耳が露わになる。


 幸いにして嵌めていた期間が短かったのかさほどの変形はない。だが、無茶な締め付けのせいで鬱血でもしたのか、耳の一部が少し腐り始めていた。


「酷いことをするものだ」


 エリザベスが両手でベスの耳を包み込み、回復魔法を掛けた。


「うん、問題なしと」


 ベスの耳が治ったことを確認してから、エリザベスは立ち上がった。


「さて。小悪党共に教えてあげよう。――あまり悪いことばかりやっていると、ホンモノの悪党を引き寄せてしまうということをね」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る