闇屋敷。そこで少年達は何を見るのか。

むぅ

闇屋敷

「ね、ねぇ…本当にここに行くの…?」


後ろにいる遼生が震え声で言う。無理もないだろう。今、僕たちがいる場所は千葉市から少し離れた郊外。奥山さんが、「肝試しスポットがあるから一緒に行こう!絶対楽しいから!」なんて言ってきて、嫌がる遼生をよそにここに来ているわけだ。


が、正直僕も乗り気じゃなかった。怖いのは苦手だし、しかも、こんなに禍々しい雰囲気を醸し出している場所で肝試しなんかしたくなかった。


帰ろっかな。一歩足を後ろに下げる。その瞬間、陸上部の青葉が奇声を上げながら館に全力で走っていく。そういえば今日こいつ朝からおかしかったな…まあ、いつものことか。


「う、上床!?ちょっと、待てよ!あぁもう!こんなところ行きたくないんだよぉ!」

意外にも、最初に腹を括ってついて行ったのは遼生であった。それに追随するように他の三人も屋敷の中に文句を垂れながら走っていく。


「あ〜…どうしよ…帰ろっかな…」

だが、そこまで僕は性格は悪くない。

「仕方ないかぁ…」呟き、一歩踏み出す。


ガゴン


「へ?」

けたたましい音と共に鉄製の門が閉じられる。慌てて門を開けようとするが、溶接でもされたかのようにびくともしない。


「…これ、取り返しがつかないことをしちゃったんじゃないか…?」


「全く…何処行ったんだ?正直入りたくなかったんだけど。もう、怖い!」

上床くんに釣られて勢いで来ちゃったけど、本当に不気味だなぁ…館の中にはツタが無数にあるし、なんだか崩れそうだし…早く撤去してくれないかなぁ…


すると、突然突き当りの曲がり角から上床くんが全力で走ってくる。


「やっと見つけた。早く皆と合流…」

「死にてぇのか!早く走って逃げろ!」

鬼の形相で言われ、狼狽える。いつも馬鹿みたいなことしかしてない上床くんがあそこまで必死になるというのが想像しづらかった。


立ちすくんでいると、やがて奥から人形のようなナニカが出てくる。上床くんよりは遅い…だが、十分僕を捕まえるぐらいの速度はある、なんだ…?ところどころ緑色になっていて、皮膚が腐っている…?


「あ、あああああああああ!」

メイドさんの眼球がドロっと落ち、両目がなくなり、見えないはずなのに的確に僕を追ってくる。一瞬止まっていた思考も、これでまた再起動する。


身を翻し、全力で走る。これでも足は早いほうだから逃げ切れるはず…

突如、足元がパカッと開く。こんなん…回避できる訳が…


「うわあああああ!」

最後に見た光景は、足元にゾンビのようなものが大量に居た光景だけだった。


「っ、はぁ…はぁ…危ねぇ…遼生には悪いけど、忠告はしたから大丈夫だよな…?」

あの後、脇道があったため、悪いと思いつつ突き進んだ。


曲がり角を曲がろうとした瞬間、人影が見えたため急ブレーキをかける。あ、


「松本!良かった。一緒にここから脱出しよう!」

「………」

「松本…?」


さっきから顔色がおかしい。なんというか、顔色が悪いってわけじゃ…


「……ニゲ…」

肩を掴んてくる。あ…



「ほんと、上床はバカだよね。なんで突っ走っちゃうかなぁ…?まぁ、クラスでも突拍子もないことをやってるけどさぁ…」

少しばかりの苛立ちを感じながら、迷路のような通路を進む。


やがて、水色の光が奥から見える。一瞬空の色かとも思ったが、光の強弱がはっきりしていたことで、自然界のものではないということが分かった。少し不審に思いながらも、開けっ放しの扉から顔を覗かせる。


「なにこれ…実験室…?」

人の気配がないことを確認し、部屋の中に踏み入れる。ガラス張りで円柱状になっているアニメとかでしか見ない装置が幾百と並べられている。その一個一個には人が入っており、見る限りでは全員死んているようだった。その装置には死因が書いてあり、圧死、全身打撲、窒息…色々と書いてあったが、なんとなく共通点を見つける。


「これって…」

「あぁ…君が客人カ。もしくは侵入者カ。どっちでもいいカ。」


後ろから人の声とは思えないようなノイズが入っている声が聞こえる。咄嗟に距離を取ろうとするが、それを制するように機会で作られている腕が私の首を捉え、離さない。


「ちょっと、離して!」

「…誰の命ヲ犠牲にするカ、君が決めていいヨ。山本尊、上床青葉、そして君。その三人のなかで選んでネ。そうしたら、


もう、国繁と彩花は死んだ。そう告げられているような気しかしなかった。生きているのであれば、ここに名前が乗るはずだ。それがないってことはもう死んでいるということだ。なら…


「私が犠牲になる。それでいいでしょ。だから、二人を開放して。」

「…なるほどネ。分かった。一緒に付いてきて。」


首を絞めてきた腕を開放してくれ、彼を先頭にして歩く。

これ、もしかしたら逃げれるんじゃ…


「もうニゲられないよ。ここの扉は完全にロックしておいた。今更悪足掻きをしないでクレ。」

「はは…もう読まれてたか。」


まさか、心まで読まれるとはな。仕方がないので、大人しく彼についていく。それにしても、この人、火傷が酷い…


「最期に聞きたいことはあるかい?」

装置に入れられる直前、突然彼が聞いてくる。そりゃあ、いっぱいあるけど…


「どうして、この館はこんなことになったんですか…?」

「あぁ…まあそうなるよね。」

はぁ。とため息を吐き、マイペースに離し始める。


「ひいおばあちゃんから聞いたんだけどね。この館は昔、すっごい偉い人が住んでたみたいなんだ。だけど、ある日突然毒ガスが撒かれたみたい。撒いた本人は逃走、それで何処かに行っちゃった。でも、幸い現場を見た人が居たからだけはニゲられたんだよ。」

「地上に居た人…奴隷は…?」

「そう。。あと、奴隷の世話をしていたメイドさんたちもね。でもね。怨念ってすごいんだよ。毒ガスで死んだ一人が急に立ち上がって、皆を起こしたみたイ。だから、これでも地上に上がっている人はごく少数なんだよ。奴隷室も多かったからネ。大体、一万人ぐらいはいるんじゃないかナ?」

「そうか。分かった。ありがと。」


私は装置の中に入る。これで、門が開く。

体の中から力が抜けるようだった。この死に方だったら、まぁ、悪くないかもな…

最期に聞こえたのは、門が開く音だった。


「はぁ。バカだな…こんなところに急につれてこられたんだったら仕方ないかもしれないけド。門が開くって行ったら、奴隷室のも開くじゃないカ。」



「うーん。皆出てこないなぁ…」

かれこれ一時間ほどは待っているが、全然出てこない。そろそろ肝試しも飽きただろ…


「やっぱり僕が居ないから心配でもして残っているのかなぁ…やっぱり行ったほうが…」

けたたましい音と共に大量の人影が現れる。それとほぼ同時に上床が僕のもとに来る。


「やべぇって!あそこの館に入ったらソンビみたいななんというか、腐ったみたいな…とにかくやばい奴らが俺を追いかけてきたんだよ!遼生も松本も奥山も見つからないし…どうなってんだよ!」

「それは…あれのことか?」


大群を指差す。すると、上床の顔が更に青ざめる。

「あぁ…そうだ…」

「じゃあ、即刻門を閉めるぞ!そうじゃないと市街地に出てきて大変なことになる!」

「っ!分かった。」


幸いにも、ここの館の門は一つだけであり、そこ以外の抜け道は無さそうであった。奴らとは距離があったため、足が馬鹿みたいに遅い僕でもなんとか門に辿り着くことが出来た。だが…


「なんだよ。これ…」

門の前には石板があり、手を当てたら通れるようだったが、『残り回数一回』と書いてあり、一人しか通れないようだった。


「山本…どうする…」

「お前が行け。」

「え…?」

「お前が行け!閂を掛けたる。臆病で小心者の僕が生き残っても意味がない。だから行ってくれ。もう迫っているんだ。迷っている暇が無いぞ。」


半ば強引に上床の手を認証させ、館から出て行かせる。その瞬間に門が締まり、石板にヒビが入り、割れる。近くにあった木の板を閂代わりにし、門をがっちり固定する。


「じゃあな。」



「………ごめん。あの状況で人間だったのはお前だけだったみたいだ。」

体の所々が緑色に変色していく。完全ってわけじゃ無いようだったが、腕が緑色に染まる。松本に噛まれたところ…


「ほんと、ゾンビみたいだな。」

人が欲しくなり、闇に染まった路地裏を進む。

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闇屋敷。そこで少年達は何を見るのか。 むぅ @mulu0809

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