エピローグ 帰郷

グレンフォードの街は、相変わらず静かな佇まいを保っていた。王都で築いた富と名声を背中に感じながら、俺とソフィアは両親の店「クラウゼン商店」に向かっていた。


「緊張してる?」


俺は隣を歩くソフィアに尋ねた。いつもは冷静沈着な彼女の手が、かすかに震えている。


「少し」


彼女は正直に答えた。


父の雑貨店は、以前よりも手入れの行き届いた店構えになっていた。店の看板には、エレナ特製の季節のお菓子のチラシが掲げられている。


店のベルが鳴る。


「いらっしゃいませ」


母の声が聞こえた。振り返ると、エレナは店の奥から現れ、瞬時に俺の姿を認めた。


「レオン!」


母は駆け寄り、俺を抱きしめた。相変わらずの優しい香りがする。


「父上は?」


「奥で仕入れの伝票を整理しているわ」


父は以前と変わらず、細かな商売への情熱を失っていなかった。


「ソフィアも一緒なのね」


母は彼女に優しい笑顔を向ける。


「はい、お久しぶりです」


ソフィアは丁寧に礼をした。少し固い。

奥から父が現れた。


「おお、レオン。立派になったな。この街にまで噂が届いていたぞ」


アルフレッドは穏やかに微笑む。俺の成功を誇らしげに見つめている。


「ソフィアを連れてきたのは、挨拶のためだ」


俺は率直に告げた。


「結婚しようと思っている」


母は喜びの声を上げ、父は納得したように頷いた。


「ヴァイス家の娘か。いい縁だ」


アルフレッドは商人らしく、家と家の関係を即座に評価する。


「王都で私たちは一緒に仕事をしています」とソフィアが補足した。


「ソフィアは私の右腕も同然なんだ」と俺が続けた。


母はソフィアを抱きしめた。


「息子を支えてくれて、ありがとう」


エレナの温かさに、ソフィアは少し目に潤みを見せた。


* * *


夕暮れ時、クラウゼン商店の小さな裏部屋で、家族4人は団欒した。母の手作りお菓子を囲んで。


俺は、人生の自由と幸せを噛みしめていた。


「次は孫を連れて来なさい」と父がからかうと、ソフィアと俺は顔を見合わせて笑った。


これが、俺の選んだ人生だ。誰にも強制されない、自由な道。

窓の外には、静かな田舎の夕暮れが広がっていた。


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これでレオンの物語は終わりです。

最後まで読んでいただき感謝します。

約一か月ありがとうございました。


新作を公開しています。

よろしければこちらも見ていただければ幸いです。


「侯爵家の三男坊 海に出る」

https://kakuyomu.jp/my/works/16818093092782701156

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追放されたけどFIREを目指して準備していたので問題はない 君山洋太朗 @mnrva

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