雪
Orisan
第1話
最初は面子が足りないからといった数合わせ。誠也が参加したのは
男女6名で標高2000m級の大山へ上って雲海を見ようといったのは、クリスマスまでに親しくなろうとした誰かのせいだろう。今となっては誰でもいいが。
だからしょうがなく参加した誠也は、期待されていた通りに地味にしていた。何のことはない、地なので演技でもなんでもない。ただ、つまらないと思っていただけだ。
智とは小学校以来の親友であり、悪いやつではないがちょっと調子がいい。だけど、気兼ねしなくていいので、大学までそのまま親友をやってる。
俺だって男だ。女の子に興味がないわけじゃないが、表面的な表情をみせる彼女らにはどうも本性が見えずに、距離をおいてしまう。
和也は多分この中で一番人気だろう。おれが女だったら間違いなく憧れる。性格がいい、ルックスがいい、家は金に困ってない。何も問題がない上に頭もいい。
とはいえ、1:1で付き合うには経験的にハードルが高いのだろう、グループ交際でお近づきになりたい思惑かもな。
対して女の子のグループはどうなんだろう。
真帆は間違いなくかわいい。やや仮面の気がするが性格が悪いわけじゃない。明るく会話にも困らないし、女性特有のわがままなところもみえない。
男の大半は真帆に好意を持つだろう。彼女にしたい筆頭だ。
雫は学級委員長といった感じで、いかにも才女。気遣いもできるが、とにかく段取りがいい。
・・・・・
「すげぇ。これが雲海か。いや、動画でみるのと実際にみるのは全然ちがうな。へへ、運がよかったな俺達。」
和也がはしゃいでいる。確かにすごい。雲海ってのは雲の上に立っているような風景が広がっている。地上で生きている人間では、見れるはずがない!!と思う風景なのだ。これはタイミングもあるのでだれもが狙って見れるもんじゃない。
いわば風景の宝物だろう。
「すごいですね。ほんとに来てよかった。こんな綺麗で不思議な景色。和也さんの誘いにのってよかったわね。ふふ。」
長い髪を軽く撫でつけながら、真帆が風景に見とれている。美女に絶景ね。たしかに絵になるな。
「言葉もないわね。真帆がどうしてもっていうから来たけど、正直運がよかったわ。これが雲だなんて認識より、仙人にでもなったといったほうが納得だもの。」
流石の委員長、雫も感激のようだ。
「・・・き、きれい。」
うむ。朱莉はそれでいいかもしれないな。なんとなく素直でよろしい。しかし上から目線だな俺。
ちょっと反省しとこ。
「へへ、和也の付き合いは大抵脇役でいいことないんだけど、たまには当たるってか。」
智が本音をだす。女の子の前でも特に繕うこともない。こうゆうのはできそうでできないんだ。智と長年友人をやっている理由でもある。
ただ、俺は少し気になる事があって注意をする。
「おい、景色もいいが天気予報が気になる。早めに山を下りた方がいい。」
「誠也は固いな。登山じゃあるまいし、道路がつながっている今の日本でそこまでの危険はないだろ。こんな景色は一生に何度も見れるもんじゃないぜ。
大丈夫。夜までにはちゃんと彼女たちを希望の最寄りの駅に送るって。まかせとけ。」
和也・・・。気持ちはわかるがお前、雪のこと知ってるのか?
大学は瀬戸内の暖かいところだし、おまえ雪の積もらないところで育ったろ。
「そうなのか誠也。おれも雪は知ってるが、海沿いは積もらないからなぁ。どうする?みんな。」
「えーと。もう少し景色をみたいです。せっかくですので。」
「うん。私もできればみたいかな。」
真帆と雫はもう少し見たいようだ。
「誠也さんは危ないと思ってるんですよね。どうしてですか?」
ほう、控えめで男慣れしてないと思ってた朱莉が発言するとは思わなかった。
「日本の道路だろうがなんだろうが、遭難はするぞ。おまえらが信じるかどうかわからんが、山と雪をなめるなよ。」
別に場がしらけてもかわまん。危ないものは危ない。
「誠也。女の子もいるんだ。もう少し言葉は選べよ。
言葉はやさしくな。
大丈夫だよ皆。もう少ししたら下山しよう。そうだな、あと30分くらいはいいだろ。」
「「「賛成」」」
「「「・・・。」」」
まさかの準備が役に立たないことを祈るよ。ったく。
俺だって山の天気が変わらないことを祈ったさ。
・・・役に立たなかったようだが。
・・・・・
「ちょっと待て、雪ってこんなに早く積もるのか、もう70センチ以上ある。いくら四駆に雪用タイヤ履いているこの車でも、もう動けないぞ。
え、おい、だれかスマホアンテナが立ってる機種あるか?おれのはだめだ。
うそだろ、ここ日本だぞ。そんなことあるのか?」
和也があわてたようにいう。運転しながらだから携帯のアンテナを今確認したようだ。
「さっきから急に降ってきたと思ったらなんだよこれ。山の雪ってこんなに早く積もるのか。
おれのスマホもだめだ。そういえば場所によって圏外が多かったな。ここ。」
智も慌てて確認するがだめ。
「わ、私のスマホもだめです。・・・。スマホメーカーがみんな違うのに圏外なので、多分どれも無理ですね。みんなどうですか?」
雫が状況を判断して意見する。どうもまずそうだ。
「え、ど、どうなるんですか私達。警察へ連絡できないってことなの。
雫、どうしよう。べ、別に死ぬわけじゃないわよね?」
「一日くらいで死ぬなんてことはないとは思いたいんですけど・・・。どうなんだろ。」
お、以外に冷静だな。雫。
「誠也さん、どうしたらいいと思いますか?」
気が小さそうにみえていた朱莉が、逆に一番しっかりしてきたように見えるのが不思議だな。さてと。
「誠也。燃料どれくらい残ってる。・・・半分ね。じゃもう車動かさずにアイドリングだけで、暖房も最低限にしてビバークだな。あ?ああ。遭難時に緊急で夜を過ごすってことだよ。
あ?知らないのか、遭難してんだよ。遭難。雪なめるなっていっただろ。その辺の道でさえ冬には死ぬやつはいるんだ。
いいから燃料を大事にしろ。人間水分がなし位だと3日は死なないが、低体温症なら一晩であっちへ行けるぞ。
あ?大丈夫かどうかしらんが、今ある状況で最善を尽くせば長生きはしやすいってことだ。
いいから落ち着けって。冷静なやつはなかなか死なねえよ。」
「誠也。相変わらずアクシデントで頼りになるな。俺達はどうしたらいい。」
「お菓子や飲み物でもいい、とりあえずみんなだして等分。
和也はさっきいったようにヒーターをガンガン利かすんじゃなくてぎりぎりに抑えろ。燃料が切れると辛い。
雪は新雪だから、天気予報だと明日にはかなり溶ける可能性が高い。一晩越せるかどうかだ。大丈夫。
智、おまえもの服も防寒防水だよな?ちょっと外へでて、男女様にトイレつくるぞ。ちいさいカマクラでいい。その中で穴をほれば、使用の度に上からかぶせれば大丈夫だ。
ああ?おまえらトイレなしで一晩過ごせるならやってみろ。低体温症より先にこまるぞ。
智いくぞ。
ああ、女子は近くで寄り添っておけ。和也は防寒防水着じゃないから危ない。そのまま運転席にいろ。大丈夫だ。」
俺達二人は左右に分かれてトイレの作成だ。
雪は既に1mを超えた。これくらい山じゃたまにある事だ。
車は完全に埋もれてしまったが、エンジンがかかっている状態なので車体の下は雪が解けている。しかし、マフラーからの排気が車にこもるとまずいのでいくらか逃げるように周囲を少し削っておく。
こうすれば、排気の熱で少し雪がとける。注意するのは一酸化炭素中毒だ。このあたりの塩梅は適当に見切るしかないが、中毒だけは避けたい。
(智、そっちはできたか?)
(ああ、なんとかな。しかし、よく携帯シャベルなんかもってたな。しかも2つとか。)
(おまえらが油断しすぎなだけだよ。できたら戻るぞ。)
・・・・・
「ごめん、みんな。おれが誠也のいう事をもう少し真面目に聞いてたら。ほんとにすまん。」
「いや、あれは殆どみんなの意見だったからしょうがないでしょ。・・・ほら、真帆も元気出して・・・は、今は無理そうね。」
「真帆さん、もっとこちらへ寄ってください。今は体温を保つことが優先だと誠也さんがいいました。その通りだと思います。
失敗が悪いんじゃないです。ちゃんと勉強して成長できるかどうかだと思います。
今大事な事。みんな協力して一晩頑張りましょう。もしかしたらもっと早く救助がくるかもですし。」
「・・・みんなごめん。私浮かれてて、友達や親に今日の事連絡してないわ。多分来週の講義に欠席するまで気が付かないかも。それに、二人に内緒にしようっていっちゃったの私だし。
ごめん。男の子と遊ぶのに妙な気をまわしたのがこんなことになるなんて。」
「あーちょっと冒険みたいで、私も賛同しちゃったね。そこは同罪だよ。
和也君、君たちはどう?」
「男は周りにそんな連絡しないね。門限があるわけじゃないし。すまん。」
「うん。そうだよね。女の子はほんとは門限ある人多いんだけど、今回は遅くなってもいいように口実つくって出てきてるんだよね。
あーもう真帆もそんな顔しないの。大丈夫よ。」
「みなさん。気落ちしないでいきましょう。平常心は無理でも、元気がないと体調を崩しやすいです。真帆さんも大丈夫です。あ、外の二人が帰ってきたみたい。」
「うへー、外は寒かったけど急いで作業したからホッカホカだぜ。人間暖房機だな俺達。」
「中はやっぱいいな。智、そんな男くさい暖房機は多分不人気だぞ。
あー、女子のみんなにはデリカシーがなくて申し訳ないんだけど、右手の・・・もう壁だな。壁の中の部屋にトイレ作っといた。かっこいいもんじゃないが、我慢して体調くずすとマジで死にかねないと思って、ちゃんと使ってくれ。
一人だけだといきにくいだろうから、いまから30分後を第一回トイレタイムにするからな。
あと、お菓子や飲み物はどうなった?
ああ、大丈夫だ時間はある。これからやればいいさ。
・・・。よし、これを6等分するけど、おれは飲み物はいい。ん、いやまたあとで説明するよ。我慢じゃねえよ。(サバイバル知識で知ってる人いるが実行は大変なあれ。)
んーあ、そうか。女子は家で心配してる人が警察にいうかもしれなかったのか。さすがに男じゃそこまで気がつかなったな。でも期待薄だと。そっか。
みんな、とりあえず燃料と覚えてる天気予報だと今晩凌げば大丈夫だよ。
最悪歩いて下山だけどな。それは明日明るくなってからだ。
夜が明けたら街がすぐそばだったってことも、・・・ま、たまにあるしな。いてっなぐるなよ智ー。」
「おまえは空気読め。ま、こうゆう時は頼りにしてるけどな。」
「智さんはどうして誠也さんの事をそんなに信頼してるんですか?」
「お、朱莉さんが普通に発言してるの初めてみたかも?あ、ごめん今言う事じゃないな。えーと、誠也は普段ぶっきらぼうで最低限のことしかいわん人付き合いの悪そうなやつだけどな。
いや、しょうがないだろ、実際そうなんだから。
でも、むかしからアクシデントや事故になりそうな時はなにかしら備えててな。今回ほどじゃないけど、けっこう危ない時には知らない間に役に立ってるんだよ。
ま、みてなって。こいつが焦ってない限りなんとかなる可能性の方が高いからよ。」
「なるほどです。・・・あ、このお菓子おいしいですね。ほら、真帆さんも食べた方がいいですよ。」
「そうゆうタイプなんだ。うん、そういえば朱莉も少し似てるかもね。・・・動じないとこ?」
「それ、ほめてませんね。」「・・・あら、そうね。微妙かも?あはは。」
「雫・・・。次レポートみせませんよ?」「・・・ごめんて。」
・・・・・
夜のうちに数回のトイレタイムと軽食を取る。なんとか燃料は明日朝まではもちそう。
雪は覚えていた天気予報どおりに夜半には止んだ。
車中泊は慣れない人間には難しい。なんとなくうつらうつらしながら朝を迎える。
新雪ってのは積もるのも早いが、溶けるのも早い。なんだかんだでお昼頃には50センチくらいまでになり、何とか道路らしき形もわかる。
夜で1m超えていたら一面雪の平原だ。危なくて動けるもんじゃない。
冬用タイヤに積んであったチェーンを更に巻いて車を走らせると、船のように道路を進むことができた。
ま、新雪でこのタイプの車でないと無理だがな。
昼には無事除雪してある普通の道に戻れた。スマホも復活。直ぐに給油したあとは近くにあった温泉へいった。
終わってみれば遭難だ救助だといった話がうそのようだが、実際はかなり危なかった。
事件にならなくてほっとしたが、これは今だから思える事。
その後あったかい食事をして直ぐに女子を家近くへ送っていった。
最後の朱莉さんを送って分かれる時、声をかけられた。
「誠也さん、●イン交換お願いします。」
「ん?なんでー(お願いします。)・・・あ、まぁいいけど。」
「ありがとうございます。又連絡させてください。本当にありがとうございました。」
「いや、こうゆうのは男の責任だろうし、こっちこそ悪かったな。」
(誠也さん、今回の計画にかかわってなかったはずなのに。)
「はい。ではお互い様ということで。でも連絡はさせてください。」
「そうなの。ま、きがついたら見とくわ。」
「はい、では失礼します。」
・・・。
「和也も元気出せよ。そもそも真帆さんと仲良くなりたかったんだろ?
あーそうだと思ったよ。ま、今回は勉強だと思って次だな。
しかし、誠也には先を越されそうだな。ま、いい目してるよ朱莉ちゃん。」
「おれが先になんだって?おれのガラじゃないだろ先にとか、なんか知らんが。」
「ああ、俺も智と同意見だな。普段と違う状況、今回は雪だったけど、人間てきれいとか、かっこいいとかだけじゃねえんだな。ちょっとショックだわ。
でも、俺も誠也に感謝だ。ありがとな。俺も色々考えないとな。
頑張ろうぜ、智。」
「だな。」
「なんだよ、二人共。置いてけぼりかよ。ま、いいか。さて、俺達も帰ろうぜ。」
「へ、お前だけがわかってないんだよ。しかしあれだな。雨降って地固まるとかあるだろ。
雪っていろいろな物を隠すように降り積もるのに、なんで中身がよくわかるのかね?」
「おまえ詩人にでもなるつもりかよ(笑)。」
車の中で男三人が笑いあっていた。雪がしばらく降りそうにない明るい日差しがさし始めていた、ある初冬の出来事であった。
雪 Orisan @orisan
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