第10話 忌部神社と八恩院
寺社ブームや外国人旅行者の増加などで八恩院を訪れる観光客の姿も増えた。別名を『カエデ寺』とも呼ばれる程多くのカエデが境内のみならず、隣接し、地元民に開放されている寺所有の公園に鬱蒼と茂っている。
今時風にホームページも持つそんな八恩院だが、その正面にある小さな神社には殆ど人が立ち入ることはない。と言う以上に、人に知られてはいない。
外見上は小さいながらも鳥居を持ち、十メートルもない参道奥には拝殿らしき物も見えるのだが、地元の者でも詣でる者はほぼ居ない。時には駐車場に大型バスも乗り付ける八恩院とは打って変わった静けさが漂っている。
寺社が近接して存在する例は珍しいわけではないが、白南風は幼い頃から自宅正面のこの奇妙な位置にある『忌部神社』を不思議に感じていた。
通常、神社に尻を向けるのは失礼に当たると教えられるが、白南風の生家である八恩院に入るには忌部神社に尻を向けねばならない。立地的にやむを得ない場合もあるが、忌部神社も八恩院も共に平安後期に創建されたと聞かされていた。
「その頃は、この辺りだってガラガラに空いてたはずよね?なんでわざわざこんな位置関係に?」
それを生前の父母に尋ねたことがあった。そんな時、母・里美は笑って白南風の髪を撫でながら傍にあった手鏡を手に取って話して聞かせた。
呪い病 スマホ用ショート連続ホラー 宝力黎 @yamineko_kuro
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