第5話 隠す気がある奴の行動じゃない
そういえば、幼稚園の頃に一度だけ似たような頑固さを発揮した事があった気がする。
その時はたしか……あぁそうだ。
三日経っても折れなくて、仕方がなく俺が折れたのだ。
「……はぁーっ」
ため息がオーバーフローして、最早腹式呼吸と化した。
このままこの「無理じゃない」「無理」の攻防を続けていたところで、時間の無駄だ。
早起きで生まれていた朝の時間的余裕は今の一連ですっかりつぶし切ってしまったし、せっかく作った朝飯はせめて食べてから大学に行きたい。
「俺は止めたからな。知らないぞ」
止めても止まらないのなら、後は自己責任。
そう思う事で納得し、既に冷めてしまったパンを手早く食べて席を立つ。
近くに置いていたカバンを引っ掴みながら廊下を歩く俺の後ろを、軽やかな足音が付いてきた。
きっと俺に認めてもらったと思って、嬉しそうにでもしているのだろう。
俺は別に認めた訳ではなく「勝手にしろ」なのだが、こいつが楽天的なのは昔から。
自分にいいようにしか解釈しないのだから、何を言っても無駄である。
「俺がキツネ症候群になっちゃった事、隠すの手伝ってね孝也」
「嫌だよ、面倒臭い」
「もし俺が奇行に走ったら、フォローしてくれるでしょ?」
「しない」
「そう言いながらも、孝也はいつも助けてくれるからな!」
「何もかもが成り行きだ。今まで俺は一度だって、お前を助けようとして助けた事はない」
「またまたー」
ほらな、無駄なのだ。
扉を開けて、外に出る。
フードで頭についた耳を隠しながら続いて部屋を出た祐介に、俺は反射的にため息を吐く。
どうやらこいつは隔離される気がないのはもちろん、十日間、いつにも増して俺に引っ付いて歩き、何かあればフォローさせる気らしい。
そのためにうちまでやって来たのか。
今更ながらその事に気が付いたからこその、あのため息だ。
まぁ本人も周りにバレて、病院に引っ張っていかれて隔離……なんていう事にはなりたくないだろうから、ある程度は自重するだろうが――。
「あっ、マフラーが!」
強い冬風に煽られて、誰かのマフラーが宙を舞う。
灰色じみた青空に、赤いマフラーの色がよく映えて――その景色の中に、見慣れたコートが紛れ込んだ。
俺を追い越したその影は、目の前の手すりに足をかけて高く跳躍する。
空飛ぶマフラーを、祐介の伸ばした右手が掴んだ。
それはいい。
でも、お前。
「ここ、二階っ!」
ギョッとした俺をサラッと笑うかのように、祐介は軽やかに着地した。
普通、何の訓練もしていないような人間に、アパートの二階+人間離れした今の祐介の跳躍分の高さが、無事に着地できる筈もない。
もちろん祐介は、普通の人間だ。
これまで訓練などしてこなかった。
むしろこいつの体育の成績は、五段階評価で万年二だ。
つまり、これはどう考えてもキツネ症候群の影響で。
「おい、てめぇ」
隠す気あるのか。
目でそう問えば、祐介が懇願目でこちらを見上げてくる。
今のを俺にフォローしろと?
片眉が上がった事を自覚した。
しかし時間は待ってくれない。
マフラーの持ち主だろう女性が、慌てて祐介に駆け寄ってきている。
「あぁもういいよなぁ! お前はいつもとっ散らかすだけで!」
やけくそ気味に言いながら、俺は急いで階段を下りた。
~~Fin.
===
コンテスト期間終了後に、続きは公開予定です。
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