第2話
「…うっ…痛ぅぅう…ぇ?え!?」
誰かに抱えられたまま凍ったアスファルトに足を滑らせて転んだ私は擦りむいた足をさすりながら起き上がった。
今まで人生で1番といっていいほど
驚いて飛び上がりそうな出来事に感情が追いつかない。
「は?だ…だれ!?」
私を抱える様に抱きついて一緒に転んだのは、同じ年頃の男の子だった。
顔を真っ赤にして息を切らしていることにドン引きして突き飛ばすと、彼は何でもないように笑った。
「よかった!間に合って!」
一瞬思考が停止した。
よかった?…何が?
ガードレールから下の海を覗き込んでいて、それでなんか叫び声が聞こえたから振り返ったら抱きつかれて転ばされて…ぜんぜん良くない。
「あの…」
「お礼とかいいから!いや…違うか。怪我させちゃってごめん!でも、飛び降りるのは良くないって!ほら、この先ぜったい良いことあるし、楽しいことも!だから!」
「え?」
「あ、いきなり誰?!っ感じだよね。俺、柊木 郁!あっちのバス停でバス待ちしてて!それで君が飛び降りようとしているのに気がついて!だから!あ、バンソーコあるから。待って今出すから!」
私は捲し立てる様に話し続ける彼を怪訝な顔で見つめた。
「…え?あれ?」
私が怪訝な視線を向けている事にきづいた彼もフリーズして私の目を見た。
「…私、飛び降りようとして…ないんだけど…」
「え!?だってさっきガードレールに身を乗り出して」
「海を見てただけだよ。」
「しばらくひとりで寂しそうにしてたよね?」
「バス到着時間がまだだから?」
「…そ…そうゆう…こと?」
男の子は目を泳がせた後、大きく後退りして深々と頭を下げた。
「ごめん!!勘違いしてオレ!本当ごめん!!」
呆気に取られた私は暫くフリーズして彼を見下ろしていたけれど、
彼の必死な様子につい吹き出してしまった。
「あはは。助けてくれようとしたんだよね?一応お礼言っとく。ありがとう。でもさ、一歩間違ったら痴漢で捕まるよ?」
「痴漢!?あ…ヤバ…ごめん!」
真っ赤な顔でもう一度90度に腰を折り曲げた彼は、さっきの必死な様子とは打って変わって、大人しそうな人に見えた。
短髪の黒髪に眼鏡。
県内で1番偏差値の高い進学校の学ランを着ていて、今風な要素は少しも感じられない。学ランだからかもしれないけど、どこか昭和っぽさすら感じる。
誰が見てもわかる"真面目な高校生"といった感じだ。
「そっか。向こう側から走ってきてくれたんだ。」
道路を挟んで向かい側にあるバス停は駅行き。こっち側は街中を各停して、最後に住宅街に停車する。
田舎だからどちらも1日数本しかバスは来ないし、夕方にバスにのるのは私を含めても数人しかいない。
だから、向こう側でバス待ちをしている人もなんとなく記憶している。そういえば彼も、毎日バス停のベンチに座っていた、そう気がついた。怪しい人ではない事がわかってホッとした私は、話を続けてみることにした。
「いつも、バス通だよね?」
「うん、君もでしょ?今日は1人だったからなんとなく気になって…彼氏でしょ?いつも一緒にいるの。」
「あぁ、うん。昨日別れたの。」
「だからか。」
「え?」
「いや…えっと…」
「どうして別れたかって?誰かに聞いて欲しかったんだよね。分かれた理由はー」
ポケットからスマホを取り出して時刻を確認すると、時間は午後6時丁度。バスが来るまではまだ時間がある。
2人でベンチに腰掛けると、私は彼氏と別れた経緯を郁に話しはじめた。
雪が降ったら。 @yuzunoka
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。雪が降ったら。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます