僕達の怪話
冒人間
僕達の怪話
《
【殺人鬼に注意!!】
「…………………………」
「やあ、
「あ、
「どうしたんだい?こんな所でじっとしてて。
早く学校に行かないと遅刻してしまうよ」
「いや、この電柱の張り紙を見てたんだけど……」
「ああ、これか。
なんか昨日から貼ってあるみたいだよ」
「なんなんだろこれ……
『不審者』とか『変質者』とかに注意、なら分かるけどさ……
『殺人鬼』って……」
「そうだね……『殺人鬼』なんて、おかしいね」
「うん……」
「『殺人』と『鬼』って単語の組み合わせなんて、どう考えてもおかしいよね」
「…………ん?」
「だって『鬼』っていうのは人を食べる怪物のことだろう?
つまり『鬼』という単語そのものに『殺人者』という意味があるはずだ」
「いや、あの、ちょっと?何の話してます?」
「それなのに『殺人』と『鬼』を組み合わせて『殺人鬼』なんて言葉を作ってしまったら……
意味が被ってしまうじゃないか」
「シカトですか、狂栖さん」
「まあ、同じ意味の言葉を二つ組み合わせることでよりその意味を強調している、という解釈も可能だけど……
私はどうにも『頭痛が痛い』みたいな二重表現のように感じてしまうんだよね」
「はぁ………」
「ねえ、君はどう思う?
殺小路くん」
「………………ねえ狂栖さん」
「なんだい?」
「それって逆説的に、
って考えられない?」
「………………へえ?
君は面白いこと言うね。
普通、何かに食べられちゃったら人は死ぬと思うけど?」
「そりゃあ熊とかライオンとか、現実の動物に食べられちゃったら人は死ぬしかないと思うよ。
でもさ、相手は『鬼』だよ?
妖怪、化物、つまりは伝説上の生き物……フィクションの世界なら何でもありだと思わない?
実際、おとぎ話の一寸法師は鬼に食べられても生きてたし」
「アレは一寸法師の身体が小さかったからだと思うけど……
ふむ……例えば『鬼』は人間の肉体ではなく魂を食うものだった、とか……?
無理やりな感じではあるけど……」
「幽遊○書にそんな感じの『鬼』いた気がするね。
ともかく……『鬼』は人間を食べる恐ろしい存在ではあるけど、それだけでは『殺人』まで行うということにはならない。
人間を食べて、
それが『殺人鬼』ということになる……なんてのは、どう?」
「なるほどなるほど………
しかし殺小路くん、そうなるとだ……
更に逆説的に考えると……
ってことになるんじゃないかい?」
「………そうだね、ただ人を殺すだけならただの『殺人者』だ。
でも、『殺人鬼』ともなると、それだけじゃない。
『人を食べる』ことまでしないといけなくなる」
「いや、待ってくれ殺小路くん。
確か『食人鬼』なんて言葉もあったはずだよ」
「ああ、そういえば……つまり『人を食べる』だけでも、まだ『鬼』ということではないってことになるね」
「ならば一体……何をすれば『殺人鬼』ということになるのかな?」
「うーん……僕が思うに『鬼』っていうのはさ、とにかく『恐ろしい化物』である必要があると思うんだ」
「ほう……『恐ろしい化け物』……」
「人を殺すことも……人を食べることすらも……『鬼』という言葉には及ばない。
そんなことを遥かに凌駕する、ただひたすらに恐ろしいモノ……
きっと、それが『鬼』なんだ。」
「へえ、一体どれだけ恐ろしいモノなんだろうね」
「さあ……僕には想像もつかないぐらい、とてつもなく恐ろしいモノなんだと思うよ」
「そっか」
「そうだよ………………………だからさ」
「「さっきから後ろにいるアナタ……」」
「………う…………………………」
「「果たしてアナタは……
本当に『殺人鬼』なのかな?」」
「う……うぅぅうう………!
うううぅぅぅぅウウウウウウウうううううううううううううぅぅぅぅぅうぅうウウウウウウウウうううううぅぅぅうぅううううううぅうあああああああああああああああああああ唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖ああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「行っちゃったね」
「うん、持ってた包丁も放り出して行っちゃった」
「何処に行ったんだろうね」
「さあ……
たぶん『殺人鬼』とは一体何なのかを知る為の旅にでも出たんじゃないかな」
「『自分探し』ならぬ『殺人鬼探し』の旅?」
「せめて旅の無事でも祈ってあげようか。
あと、この張り紙ももう意味ないし剥がしちゃお」
―――ぺりぺり……
「まあそれはともかく……
急がないと本当に遅刻しちゃうよ」
「そうだね、走ろっか」
僕達の怪話 冒人間 @bou_ningen
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