粉雪のはじまり

倉沢トモエ

粉雪のはじまり

 どうしてだか中山の話はいつの間にか愛犬の血統をさかのぼりはじめた。

 やつの家にいるダックスフントの中山茶太郎君七歳の兄弟たちは今。


 災害救助犬の訓練を受けているマックス号はY県にいて、尻尾の先が白いミンミンがT市に住んでいると。


 親の世代は。中山茶太郎君の両親はどちらもK県にいて存命で、父親はハム、母親はミトンという名だという。


 母親のミトンの兄妹にはモデル犬のチャムがいて、テレビCMにも出ていたそうだ。ドッグフードのCMではなく、保険屋のファミリー向けプランCMに出て来る家族の愛犬役だったらしい。


 さらにさかのぼると、ハムの叔父はベンジャミンといって、S市にある診療所のアイドルのようだったそうだし、ベンジャミンの子供の一匹であるところのチョビは消防署の隣の家にいて、サイレンの音にも慣れて寝てばかりののんびり者であるという。


 そして、そのさらに親の世代には。


 そこまで聞いて酒もまわり気が遠くなってきたので一旦席を外した。


 雑居ビルのひとフロアはすべてそれぞれ別の居酒屋が並んでいるのだ。客用の便所は一カ所で、それぞれの店からぞろぞろと出てきた客たちが列を作っていた。


「ここに会社あったんすよ」


 後ろに並ぶ二人がそんな話をしていた。


「ちょうどこの店だったんすよ」


 その時よりも便所が改装されて便座もあたたかく感慨深いというのであるが、それよりもこの廊下のアルミサッシの窓はなんだ。隙間だらけで昭和のままなのではないか。


 そこから見える外には粉雪が降り始めていて、女子の列から声が上がった。ワインバーから流れてきた一団と見える。明日休みでよかったと言いあっている。降雪量は見る間に増えてゆく。


 凍える窓の向こうの粉雪を見ながら、この降り続ける雪の一片、高いところの雪雲にある水蒸気のいったいどこのあたりから粉雪となったのか、そんなことを思った。


 同じような連想で、酔いの向こう側にある中山茶太郎一族の遠い遠いところにいる一匹を思った。

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粉雪のはじまり 倉沢トモエ @kisaragi_01

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