第12話 逃げた花嫁
地獄谷のようにぐつぐつと煮出された鍋を前に、
展開に、もう鍋どころじゃない。
カウンターに座った
それで、彼女が
「・・・・つまり・・・こういう事よね・・・」
「どういう事ですか?
え、と
月ノ輪邸を訪れた時、
でも、親の都合で子供の頃に一時期住んでいたのだと言っていたのだけど。
「結婚して、離婚したと言う事ですよね?」
「・・・ううん。してない。・・・してない・・・のが問題で・・・」
「・・・昔の話なんだけど。結婚式の招待状って、大体、披露宴の3ヶ月とか2ヶ月前にお出しするものらしいのね。・・・で、私、これを出す直前に逃げちゃって・・・」
「・・・なんで・・・?」
また破談になる話か。
最近も友達からそんな話を聞いたばかり。
あの時、励ましたのは目の前の
逃げ出す程ショックな事があったと言う事か。
「・・・せ、
とんでもない、と
「じゃ・・・、
「ち、違う、違います。・・・えっとね。この間みたいに、いい縁じゃなかったからとか言いたい訳でも無いのよ。・・・言っちゃえば、私が、子供で。・・・ええと、
「・・・二十七です」
「そっか。女の人が、結婚するならそろそろ現実的になって来る年よね」
確かにそうだ。
結婚するかしないかとかそれはまた別として、三十歳までに結婚、と言うのがまあ一つの目安だとすると、数年付き合って結婚するなら、まさに今が、現実的に見えている位置。
次は、三十五歳、四十歳が次のラインだろうか。
だからそろそろ焦っていたし、周りの人間、特に家族の方が少し痺れを切らしているような雰囲気があった。
お前の
そんなの勝手じゃない、と言う気持ちもあるけれど。
「・・・何歳の時の事なんですか?」
「十九歳。昔だから、まだ成人しても無いのにねぇ。
多分、そのかい摘んだ話の中に、言える話と言えない話があるのだろうが、それを汲み取る余裕は
「先生は・・・」
「・・・うん、
うわあ、悲惨、と
その後の男の社会人人生が辛すぎるだろ。
「・・・結納も、終わってたんですか・・・?」
「両家顔合わせてお食事会も済んでる訳だから。・・・結納金ってあるじゃない?こっちの都合で破棄したら三倍返しなのよ・・・」
「・・・あの、盗み聞きしてました、すみません。それ・・・どうしたんですか・・・?」
「・・・
「・・・確か、結婚式場って、キャンセル料かかりますよね?俺、既婚者なんですけど。昔、会場の人にそんなこと言われたような・・・」
坂本が青い顔で尋ねた。
「・・・・うん。あの時で、見積もりの30%ね・・・」
「あ!結婚式キャンセルの保険あるって聞いたことある・・・!」
「・・・それは。入院とか災害とか事故とか、止むに止まれぬ事情のみ対象なのよ。・・・新婦が逃げ出しましたとかじゃ、補償理由にならないの・・・。」
「うわあ・・・いやぁ、九死に一生スペシャルみたいな話ですね・・・・」
「バカ、九死に一生を得てねぇだろ・・・。男は全弾被弾で即死だわ・・・。あ、すんません・・・」
「・・・いや、いいの・・うん。・・・本当、もう。あちこちに迷惑かけてしまってね」
たった十九歳の自分では賠償金なんて支払える訳もない。
両親が支払ってくれたのだ。
もっとこう、心情的なものを、期待していたから。
期待していた、と自分で気づいて、
でも、どうしても聞きたい事があった。
「・・・じゃあ、どうして。今もここにいるんですか?」
そんな思いして逃げ出して、そんなにいろんな人に迷惑かけたのに。
何より、一番傷つけた
なんてシンプルな疑問だろう。
率直すぎて、それは
仔猫のスープ ましら 佳 @kakag11
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。仔猫のスープの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます