愚才な武人と天才少女たちの魂の伝承

不自由な新自由主義の反乱児

愚才な武人と天才少女達、前編

源流と言われる古来の武術を修める一族が有った。

ヒロはその一族に生まれ祖父からその技術を学んだ。

小さなころから、祖父と旅を重ね、修行を強要され、多くの武術の里で武術を学び

修めた。

ヒロの母は武人の祖父、源三の娘だが体が病弱であったため、

スフィアヒューマンユニオンの医師のユキオと出会い結ばれヒロの姉ヒトミと

ヒロを授かった。

そして、ヒロを産んだ後、生来の病弱のため、この世を去った。

姉のヒトミは父の後を継ぎ、ユニオンの医師として争いや貧困で苦しむ人を助ける

仕事をしている。ヒロはユニオンのエージェントとして戦争や紛争を無くすため、

人類の定めに抗うための活動をしている。

この物語は人類の原罪に抗いながら、悩み苦しみながら生きていく人間たちの

物語である。先ず物語はヒロが十六歳のころの出来事からスタートする。

そのころ地球では多くの国々で争いがある上に、地球の外の他の人類からの侵略も

受けていた。ユニオンは国連の委託を受け、ユニオンの科学技術と武力の総力を

挙げて地球外の戦力からの侵略を防ぐため活動していた。

その主力は各国の正式な部隊では無く、裏の武力と言える武人の寄せ集めだ。

ヒロの祖父、源三と魔導士のマリア、中国の武術仙術を極めた男ロンの下で

争いの矛を収め、ユニオンのもとに集まった非公式の武力集団たちだ。

そしてユニオンとマリアの志に賛同した科学者や、金融家、経済人たちが集めた

協力者たちと、武力を持つエージェント達で構成された。

本来、武力、兵力、科学、経済の発展と戦争は大きな関わりを持ち、

それらは戦争のたびに大きな発展をしてきたことは、紛れもない事実であるが、

それらがある特定の国や、特定権力の利益を目的に突き進めば、必ず破滅の道を

歩むのが、歴史の道理でもある。マリアはあくまで人類が、共存出来るための武力や科学力、錬金術、経済活動の地球規模の組織を作るため、魔導士会が中心となり、

歴史の裏で活動して、後に正式にユニオンを作って活動を続けた。

ユニオンのメンバーはそれに賛同して集まったメンバーたちである。

地球の外の人類の科学力は、当時の地球より優れた科学を当然持っている。

しかし慣れない環境と長旅による疲弊、食料や資源の不足で戦いは拮抗していた。 

ユニオンは、水や食料を相手に取らせない戦いをすることで、戦いを制する

戦略を取った。しかし相手の武力や科学力も優れていて、戦いは激しさを増し、多くの犠牲を双方に出していた。空で迎え撃つ対空攻撃部隊、海上や水上で戦う

水上部隊、陸上で相手を抑え込む、陸戦装甲戦部隊が戦いを広げ、ヒロ達の部隊は

陸上と水上双方で戦力を遺憾なく発揮していった。

ロンやマリアはユニオンの科学力と仙術や魔術を利用して気候や地の利を使い、

敵を追い出す部隊として活躍、水上や陸上では、水上部隊の水樹達とヒロ達武術家が

戦いの中心となり、水の力や毒蛇、毒虫等の自然の利を生かした兵法を使い、

敵を弱らせ、時に白兵戦で武術や武器を使い相手を殲滅に追い込む陸上部隊として

戦っていった。戦いは激しさを極め、ユニオンは多くの仲間の犠牲を出した。

ヒロと仲の良かった若い世代の先輩や仲間の多くも戦いの中死んだ。

毎日が弔いの日々となり、ヒロの心は荒んでいった。

水樹の部下の多くも戦いの犠牲となったことで、ヒロと水樹に溝が出来き

ぶつかることも増えて来たある日、戦いの中、同じようにヒロが兄と慕う、ムエタイ戦士のユンチャオがヒロを庇い致命的な傷を負った。

ヒロが無防備に敵に突っ込みそれを庇うたのが原因だった。

ヒロが泣きながら謝るのを彼は笑顔でヒロの責任じゃないと笑顔で答え、

ヒロがもっと強くなって皆を守るナックムエ(戦士)になって欲しいと

願いをヒロ残し、戦いを託した。彼の最後の言葉はタイに残した彼の妻とお腹の子供のことだった。明るい性格のユンチャオは戦いの中でも明るい雰囲気を作り、

皆から愛される存在であった。彼の技は立ち技最強と言われる、古式ムエタイを継承し、一撃の蹴りの威力は、部隊最強と言われ、惜しみもなくヒロにも技を

享受してくれた。彼が死に、皆が涙して彼を惜しんだ。

ヒロは言葉も失うほど落ち込み、自分の甘い行動で、兄とも慕う人間を亡くした

ショックで戦う気力さえ無くしてしまった。一緒に武を学んだり、同じ釜の飯を

食べたり兄弟のような関係、武術の世界では師兄弟とも言われ、ホントの兄弟のように水樹のことを姉さま、姉ちゃんとヒロは呼んでるが水樹に折れた心を告げる。

【姉様、俺はもう無理だ戦えない、もう仲間が死ぬのも見たくないし、

俺がいると皆の迷惑になる】と訴える。そこにはマリアや中国武術の師匠のロンも

いた。皆が沈黙を守るなか、水樹がゆっくり口を開く。

【ヒロお前はホントにそれで良いのか、ユンチャオはお前に何かを託したのでは

ないのか?アイツの技を一番託されたのはお前だったと思ったが、その魂はお前に

受け継がれてなかったんだな。このままお前が負け犬で源三先生に私はなんて

報告したら良いんだ。ユンチャオの子供にはなんて言い訳をするつもりなんだ?

死んで行った仲間の家族にはこのまま会えるのか?】と言う。

ヒロの目に涙があふれる。水樹の目にも同じように涙が見えた。

更に水樹がヒロに【お前は弱い、仲間の分まで強くなるしか無いんだよ。

ユンチャオもお前が強くなり技を受け継いでくれると思い、お前にムエタイの蹴りを教えたんじゃないのか?私も死んだ部下の荷物を全部私が背負うしか無いのさ。

それが生き残った人間の出来ることだと思うがな】と言う。

その日から水樹は自分の先祖たちから受け継いだ秘伝をヒロに教え込み、

ロンも中国の武術や仙術の秘伝をヒロに修行し、一緒に戦った。

幸い敵は長い遠征での資源不足と遠征と戦いによる損失が膨らみ戦いの矛を収め地球を去っていった。皆がボロボロになり戦い抜き勝ち取った平和であった。

これが第一回目の地球外人類との紛争である。

戦いが終わり、一時の平和と休息が訪れ、姉でユニオンの医師のヒトミの勧めで

ヒロは大学に通った。ヒロにとっては唯一の青春の期間と言える時期だが、

大学の恩師は勉強も遊びも徹底的に教える人生の鬼コーチのような存在で、

国際的に有名な政治経済の学者だ。経済学だけでなく、酒と音楽、人生哲学を徹底的にヒロに教えた恩師である。このことは後々、いろんな場面で出てくるので、

これくらいにして話を進める。

第一回目の戦いが終わって五年の歳月が経った頃、地球外の軍団は再度地球に

責めて来た、前回より規模の大きな軍だったが、ユニオンも大きく再生して、

経済的にも科学力も、そして武力も格段に大きく強くなっていた。

その理由は前回の戦いで彼らの技術をユニオンの科学者たちが分析して

更に進化させ、マリアやロン、水樹、ヒロの父や姉のヒトミが基金を募り

事業も始め、国連や先進国の依頼を受け、地域の紛争解決や災害の救助等を

事業化し、さらに世界の交易に携わり、武力、科学力、経済力を大きなものに

発展させたからである。中でも門外不出の軍事科学は、地球外の軍と戦い接触した

技術が多い。特にエネルギーの循環システム、水を水素と酸素に分解し、無限に

エネルギーとして循環できるシステムだ、完全な循環エネルギーで、動力や武器へのエネルギーが無限に再生できるといっても過言ではない。

マリアはこれを外に出すことを禁じ、厳しい制約を技術者に課した。

このような、進んだ技術は人間の生活を大きく変え便利にすると同時に

人間がそれにより、さらに奢り高ぶり傲慢な生き物として人類自体を

破滅に向かわせることをマリアやユニオンの幹部は案じ、危険なことと捉えたのだ。

核エネルギー、インターネット、多くの便利なものは確かに社会を便利にしてきた、しかし必ず便利さの裏には大きな歪が社会に起きる。

過去人類の歴史を見ても発展とその歪による悲劇は表裏一体とマリアは

捉えているのだ。人間自体の進化が技術や科学の進化に追い付いてなく科学に

振り回される。欲望や人間の業が必ず悲劇を起こすとマリアは考えている。

再度攻めて来た軍隊は前回より大きな部隊では有ったが、何故か精彩を欠いていた。

それでも粘り強く戦ってきたが、やはり長い宇宙の旅と言うのは想像以上に部隊の

戦意に影響するようだ。後に判ったことだが彼らの星は終末を迎えつつあり、

移住先としての惑星を求め、地球に来たようだ。

ヒロもユニオンから招集を受け戦いに参加した。

前回の戦いを経て、成長をしたヒロや武力部隊は防御の力を高め

相手を疲弊させることを作戦の要として戦い相手の戦力を削いで行った。

それでもヒロは直接相手と接触して退ける陸戦部隊である。

他の仲間を守るため、相手の戦意を削ぐため進んで前面に立つ

小さな負傷は日常である。そこでヒロはユニオンの女性医師、友歌(ユカ)と

出会う。友歌はヒロより一つ年上の美人医師で姉のヒトミも信頼する若手の

エース、外科の技術も内科の知識も評判が高い。しかし何度も戦いでケガをするヒロには厳しい。姉のヒトミからも苦言が伝わる。

ヒロは女性が苦手である、何故なら常に姉のヒトミや師兄弟の水樹

ユニオンのリーダーのマリア、大学に恩師の浜、多くの年上女性から

虐げられている。ヒロは自分が女達からパワハラとセクハラを常に

受けていると思っている。しかし友歌の場合は何故か彼女の優しさや、

ヒロへの気遣いを感じ彼女に惹かれていった。

実は友歌はヒロ達が戦っている相手の星の生まれだった。

しかもその星の皇帝の娘、皇女だった女性だ。

彼女は他の星に攻め入ることに反対して友好を結び地球と共生を図るため

ユニオンの医師として、ユニオンに所属することを決め行動に移したのだ。

ヒロの姉ヒトミとユニオンのリーダーのマリアは、それを知って

彼女をユニオンに迎え入れた。マリアは彼らとの共存は、地球の人類の進化の

大きなカギと、考えたのだ。後々、彼らとの和平にも助力してもらい、

共存を図るためのキーマンと考えたのだ。ヒロはそのことを知らず、

恋に落ちていった。同時にヒロは、自分が女性にもてる訳が無いと思っている。

大学時代も同じゼミに、女性の同級生は居たが、いつも意見が合わず、

どうも敵対視される。姉や周りの年上女性からは、ダメ出しの嵐の中で生きて来た。

しかし友歌はいつも、ヒロに優しく接してくれる。

ヒロはもてない男の典型的なやり方で友歌に接する、例えば自分の音楽の趣味を

彼女に紹介する、ヒロはジャズやロックの洋楽が大好きで、自分でもギターや

キーボードを弾ける。大学時代の恩師の影響と、なぜか音楽的素養を

持っていたらしい。彼女に会うと好きな音楽の話をして、

その中で女性に受け入れられそうなスタンダードなラブソングの音源を手渡して、

その音源でヒロの好意を伝えようとしたりする、絶望的な手法である(笑)

しかし、何故か友歌はそれを受け入れてくれているように感じた。

友歌にとっては違う星の文化が新鮮だったのだ。

いつも女性陣にダメ出しをされ続けているヒロにとっては、ユカの反応は女神の

ように感じ、どんどん思いは募ってくる。そんな様子を姉のヒトミは陰ながら

見ている。姉のヒトミにすれば、ダメな弟で恋愛も社会経験も皆無で、

女心なんか掴める訳も無いと思っているが、親心で何とかうまくいけば良いとも

思っている。ヒトミは友歌にこっそりヒロについての印象を、当たり障りのない程度に聞いてみた。すると友歌は【面白い人ですよね】と答える。

普通なら完全にダメな回答パターンだ。しかしヒトミはダメもとで

【あんな野暮ったくて、顔も不細工だし、武術以外、知らない、人間として片手落ちのダメ男が面白い?】と逆説的に質問してみた。すると友歌が【先生、ヒロさんは

そんな人じゃ無いと思います。いつも不器用ですけど他人に優しく、男としての生物的な力を持っているのにそれをおくびにも出さず、周りには心遣いを持っている、

私の星にはいない、私の知らないタイプの男性で音楽や文化を愛して、人間愛を、

持っている。私の星にはあんなタイプの人は居ない、私を口説きたい気持ちで近づく人がこの星のドクターの方にも居ますが、ヒロさんはあの子供みたいな不器用さが

私には新鮮に感じます】と答えた。つまり女性経験の少なさが功をそうしたと、

ヒトミは感じた。ヒトミはそれでも焦りは禁物と思い、【でも友歌先生はあいつには勿体ない、高嶺の花だわ、なにせ本当にバカなのよ、大学時代も戦うのは嫌とか

言って、美味しい料理でみんなを幸せにするのが夢とか言い、料亭でバイトをしたり。私が一流の経済学の教授に頼み込んで大学に入れたのよ。

音楽は人の気持ちを平和志向にするとか言って暇さえあれば好きな音楽ばかり

聴いているし。本当にバカでしょ?お金にも何にもならない事が好きなんて】と

言うと。友歌は【私は素敵だと思います、お金や利益にばかり興味を持つたり権力志向の男の人が私の星も多い、きっと人間社会がそうして来たんだと思いますが、

ヒロさんはそれを感じません。何故なんでしょうか?】と聞く。

ヒトミは【それは私たちのお爺ちゃんの影響ね、お爺ちゃんは地球の戦争であらゆる戦いに参加していた武人で武術家だったの、それに嫌気がさして、マリアさんの考え方に賛同してユニオンに参加したのよ。戦争や争いは常に利益や権利への欲望が

引き起こす、武術と言う力と欲望が交われば必ず周りに悲劇を起こすと言っていた。そしてそのお爺ちゃんに連れられ、あらゆる武術の郷や家に修行の旅に連れて行かれていたの、普通の子供とは違う育ち方を余儀なくされていたのよ、

だからいつまでたっても子供みたいな所が有って困ることも多いのよ。

でも何故かその影響で料理や家事は家族で一番上手なのよ。

もし嫌じゃなければ、弟の料理一度食べてみてよ。弟の唯一の長所なの】と言った。

友歌は【食べてみたいです、私が育った星は食材も豊かではなく、

栄養価は科学的に計算された食事ですけど,この星に比べれば

味気ないものばかりで、この病院の食堂もホントに美味しいので、

びっくりしました】と答え。

ヒトミが【この病院の食事や食堂のメニューは実は弟がうるさく

プロデュースしたの、食事が美味しくないと病気やけがの治りは

遅くなるとか五月蝿くて、コストも考えず作るから大変だったのよ

大学時代に安くてもコストを抑えて仕入れる方法は有るとかいって、

直に生産者と交渉に行って、型崩れでも品質の良いものを

仕入れるルートを探し交渉し、学生で暇だから出来るのよ、まあ

その経済効果を論文に出来て喜んでいたけど、小賢しい知恵は

有るのよ、バカだけど】と自慢した。友歌は【ヒトミ先生はヒロさんが可愛いの

ですね?私にも妹が一人居ます、先生の気持ちが理解できます】と言った。

数日後ヒロはヒトミとヒトミの夫コウジ夫妻の家に呼ばれ、食事を共にしながら、

ヒトミから友歌について【あんた、友歌先生と仲良くして戴いて、

ケガの治療で、色々お世話になっているらしいわね、友歌先生のことを、

どう思っているの?】と尋ねられた。ヒロはヒトミを見て【何なんだ急に、

別に姉ちゃんに迷惑掛けることはしないよ】と答える。

ヒトミは【あんたがそう思っていても、迷惑なことが起こることが

あるから、心配しているのよ】と言う。するとコウジが【まあまあ、落ち着いて、

どうも君はヒロ君のこととなると感情的になって、思ってもない、発言を

してしまう】と宥め【ヒロ君、君を責めているんじゃない、友歌先生のことをどう

思っているんだ?私たちは上手くいけば良いと思って応援をしたいんだ、

ヒロ君の本当の気持ちを教えてくれないか?】と言った。

するとヒロは顔を真っ赤にして【素敵な人だなって思っています。

でも俺には高嶺の花で、皆から人気もあるし、近くで憧れているくらいで】と

答える。ヒトミは【まあアンタなんかじゃあね、月とすっぽん、猫に小判、

漁師とお姫様ね。あっ、でも漁師とお姫様は上手くいったのか、まあ無理とは

思うけどその昔話みたいにお世話になっているお礼で自分に出来る、最高に美味しい料理でも一度御馳走したら?へんな下心は起こすんじゃないわよ、

身分が違うのだから、本当に失礼の無いようにね】と言うと。

ヒロが【姉ちゃん、何言っているのか意味解らない。どうしろって言うんだ?】

と尋ねると。ヒトミは【ともかく、お世話になっているお礼って食事を御馳走するの、自分で最高の料理を作ってね、話はこっちが通しているから】と答える。

ヒロは訳が解らないまま、ヒトミの言う通り、翌日に友歌に会いに行って

食事を作って友歌に御馳走したい旨を告げる。姉のヒトミの命令でも有るけど、

友歌に自分の作った料理を食べてほしいと言う気持ちを伝えた。

料理をご馳走して、美味しさや楽しい時間を一緒に過ごすことは

世界共通の分かり合えるための最高のコミ二ケーションで有ることは

不変の事実である。美味しい料理と酒にはその魔力が有ると言うのが

ヒロの持論である。ヒロは市場まで出かけ最高の材料を揃え、

自分で作れる最高の料理とコレクションしている最高の酒そして音楽を

聴いてもらう。幸いヒロは学生時代友人の家が有名料亭で、ずっとバイトして料理を修行していた。元々、祖父の源三と色々旅を重ねる中、生きるため自炊の料理を叩きこまれた。また大学の恩師の影響で世界の銘酒を色々と味わい、音楽もその教授の

趣味で色々聞かされた上、自分自身もギターやキーボードを弾いた。

鬼のように課題を出す、担当教授の趣味とバイトの影響がヒロの人生に幅を持たせてくれたようだ。ヒロが友歌のために作ったのは、京野菜を比内鶏と煮込み、

麹と酒粕、生クリームで味付けした煮物、比内鶏のスープにキリタンポを入れたもの、クロムツ一匹をさばいて刺身を引きさらに盛ったもの、八角という魚に麹味噌を塗りじっくり焼き上げた。焼き物、食前酒にシャンパンの銘酒クリュグ、

これはヒトミのコレクションから拝借。食中酒には日本酒、星泉の純米大吟醸、

デザートにブルーチーズに、梅の花のハチミツをかけたもの、食後のお酒に

コニャックの銘酒ポールジローの古酒どれも当時のヒロからすれば高額で

最高級のものだ。幸い友歌は初めて食べる料理の味と美味しい酒を楽しんで

喜んでくれ、ヒロのグルメオタクの話や音楽を楽しんでくれたように感じた。

友歌はヒロの作る料理、音楽、そして地球の豊かな自然が羨ましく感じた。

そしてヒロに質問した【ヒロさんは何のため今、戦っているんですか?

彼らと共存の道を考えることが良いと思いませんか?】と

ヒロは友歌に【そうなれれば死んでいった仲間が戦った意味が有るので

早くそうなったら良いと願っています。出来れば戦わずそうなれば良いとは思いますが、それには相手にとって私たちが対等に話会えると認められる必要が有るかも

知れません。そのあたりの事はリーダーのマリアがやってくれると信じています】と答える。友歌は【マリアさんを信用されているのですね】と尋ねると。

ヒロは【うーん、信用と言うより、あの魔女が出来なければ地球の誰がやっても

出来ないと言うのが本心ですかね。相手の状況や心理をきっと今頃は全て調べて

見通していると思います。今回僕たちがマリアに言われているのは戦いながら相手を傷つけたり殺すのではなく、とにかく守ることを徹底的に行い相手の心を

疲弊させれば、きっと話し合えるか、相手が諦める。こちらのダメージを出さないことを徹底すれば良い結果になると言っていますから。ある意味、武の本質的戦い方でもあるんです】と答える。友歌は【何故それが武の本質的な戦い方なのです?

相手を倒すのが武では無いのですか?】と聞くと。ヒロは笑って【皆、本当の

武の意味を誤解しているのです、勿論長い歴史の中で人を殺す技術を磨き上げたのが武術の技です。しかし考えてみてください。永遠に相手を殺し続けるなんて

可能でしょうか?そんなものは自ら身を滅ぼす。どんなに最強の武力を持っていてもそれは、一時の事です、どんな力を誇った文明も、結局は身を滅ぼし自滅の道を必ず

歩んでいます】と答え。更に【現在、確かに武は必要悪として存在し必要とされて

います。 しかし、それが周りから嫌われ陰で皆から憎まれればその武は必ず

滅びます。本当は武など無くても世界中から愛されその愛に守られて生きることが

最強かも知れません、そんな夢みたいなことに近づくために働いています】と言う。

いつか人間が進化してそんな時代が来れば本当の意味で世界中が幸せを共有しあえるそんな日が来ることを目指して、ユニオンはマリアが作った団体だ。

ヒロは【おれの爺さんも姉ちゃんたちも、当然そのために今は色んな、力を必要とし

努力しました、でもこれだけは言えます、マリアは自分たちの欲望のために力を使用は、決してしません。あの女は化け物的な力を持っていますが自分自身の魔術で自分に縛りを与えて生きているそうです】と主張する。

更に【これは俺の爺さんの受け売りですけど、武は矛を止めると書きますが、

皆が仲良くするために、今は力が必要と言われて俺は小さい頃から、徹底的に

武を無理やり仕込まれたんです、爺さんやロンみたいに別に才能もないし、大体、

武術に向いていないんです】と言い。

【この戦いが終わったら、俺は料理人か食や酒をプロディースした商社を自分で

立ち上げて多くの人を豊かにしたいんです、医療と食は密接なかかわりが有るのは

ご存じと思いますが、友歌先生一緒にやりませんか?】と友歌を見る。

まるで食オタクが計画性も無く語る夢のような話であるが、その理想を恥ずかしげも

無く、語るヒロの純真さに何故か友歌は好感を持ったようである。

ヒロは恋愛経験もない上に身の程知らずのアンポンタンの部分が顔を出して思わず、【俺、今は何にも持ってないけど、先生が好きです。嫌じゃなかったら俺とお付き合いしてもらえませんか?】と神風特攻隊のような、告白までしてしまった。

しばらく沈黙が続き、ヒロが【やはりダメですよね?おれ何もないし顔も

三枚目以下だし、いつも姉ちゃんやマリアや妹のユカにもダメ出しばかりされるんで。男として全然魅力が無いとかガキっぽいとか、大人になれとか】と言う。

すると友歌が【そんなこと無いですよ、私はヒロさん素敵だと思います。私で良ければお願いします、もっと色んなこと、音楽や文化や歴史のことを教えてください。

ヒロさんのことももっと知りたいです】と答えた。

ヒロにとっては夢のような瞬間でこのあと何を話したかも覚えてない。

夜十時が近くなり友歌の部屋までヒロはちゃんと送りとどけて、

初めてのデートは終わったのだった。その日の夜は眠れたか眠れてないのかさえ

判らない、まるでマリアに幻術をかけられたような夜であった。

朝が来て、ヒロは姉のヒトミに電話を入れる、【姉ちゃん、俺、大変なことをやってしまったかも】と言う。ヒトミはびっくりして【何やらかしたの?彼女に酷い事したなら、死になさい、死んでお詫びしなさい、アンタの命じゃ足りない、私も一緒に

死んで詫びる、とにかく何が有ったか話しなさい】尋常ではない動揺である。

ヒロは【いやいくら俺でも好きな人に酷いことはしてないと思う、ただ雰囲気で告白してしまった】と言う。ヒトミは一息ついで【それで、振られたんでしょ?どうせ

無理だとは思ったけど、いきなり自爆とは貴方らしい、それくらいならうまく

笑い話で済むようにしてあげる。しかしいきなり自爆なんてそれでも武術家?

マリアさんや水樹ちゃんに報告してみんなで笑い話、広めないとね】と言う。

【姉ちゃんそれでも兄弟か?ユニオンの女はどうして、そんな最悪の性格ばかりだ。

自爆じゃないよ、何故かお付き合い出来るこヒロが言うと

ヒトミは【貴方、それ夢を見ていたんじゃないでしょうね、とにかく落ち着け

ここで焦っても自爆するだけ、これは世界大戦を終わらせる位、ナイーブで困難な

プロジェクト、マリアさんにも相談して慎重に事を運ばないと】と言うのだ。

ヒロが【姉ちゃんこそ落ち着けよ、どうして俺の恋愛に世界最強の魔導士が

出てくるんだ?国際問題にでも発展するみたいに動揺しているぞ】と聞くと。

ヒトミが【アンタが恋愛出来るなんて、恐竜が哺乳類になるくらい、画期的な進化。魔導士も科学者も総出でフォローしないと、まずは、お礼の手紙をかけ、つたない

文章でも昨日が楽しい時間で、夢のような出来事だったと、そして僕との時間が貴女に取っても、楽しい時間で有るように努力することを誓うと書け。こっちもユニオンの全精力を注いでフォローする】と言うのだ。

ヒロは余計に混乱したが言われるように、手紙を書き、友歌に届くように送って、

任務に出かけた。そのころ、戦いは少しずつ下火に向かってきて、相手との休戦の

交渉をマリアが行っていた、相手は水や食料の枯渇に苦労していたのだ。

食料や水を相手に供給することで一時的に休戦条約を結ぼうとマリアが

動いていたのだ。だからと言って、防衛の体制は緩めるわけには行かない。

こちらから攻撃はしなくても、常に警戒を緩めれる状況ではないが、

以前のように激しく接触する状況では無くなっていた。

それが好機となり、二人はデートを重ねることが出来、家族や周りの

フォローも功をそうし、仲を深めることが出来た。

姉夫婦も友歌を家族のように受け入れ、マリアもヒロには黙って

友歌と食事に行き、ヒロの取り扱いマニュアルを説明し、

大学の恩師の浜までもが友歌に合って、ヒロのダメな部分を話しながらも、

良い所も話をしてプッシュをしてくれた。

おせっかいも、甚だしいことだが、何故か二人の仲は深まっていく、周りのプッシュの甲斐が有り、ヒロのプロポーズも受け入れられる奇跡が起こってしまったのだ。

昔の日本の大衆のお見合いの多くは恐らくこんな感じで周りのプッシュや祝福により

結婚に至ることが多かったのではないだろうか?

勿論、家同士の政略結婚や恋愛感情も全くない非人道的な縁談も有った

と思われる。でもお見合いや近しい人の紹介での結婚は割と良い縁談になる

場合も多い。情熱的な瞬間湯沸かし器のような恋愛結婚も昭和型の紹介による縁談も

良い悪いではなく、選択肢は多く有って良いと思う。

ネットでの出会いについては正直、未知数でまだその影響は解って無い

と感じるが、これも時代の変化なのかもしれない。ヒロにとって友歌との時間は夢のような時間であった。周りも全ての関係者が祝福をして友歌とヒロを支えてくれた。

しかし友歌の心には大きな心配があった、自分の出生の秘密である。

勿論ヒトミやマリアはそれを知って全力で二人を支える約束をする。

表向きは、ある国の名家の出だが、訳有って家を飛び出しユニオンで働いてる事に

成っている。そんなある日、敵の軍の幹部の一人が事故で大きなケガをして

ユニオンの病院に運ばれる。

ユニオンは敵の兵士で有っても必要ならば病院での治療を施す。

これはジュネーブ条約における国際人道法に基づく行為である。

敵兵であっても医療関係者は人の命を最優先に保護するのが医療の役割と言う信念で

ユニオンの医療機関も動いている。たまたま、友歌を知っている人間と友歌が

出会ってしまったのだ。友歌も敵兵も青ざめるがケガをしている兵士を見殺しには

出来ない。彼が友歌の星の内状を友歌に訴えたのだ。

彼女の父親の国王が病気で弱っていること、星自体が政情が不安定で

内乱の危険さえ有り得ること、正統な継承者が必要な状況だと言うのだ。

しかし、奇しくも友歌はヒロの子供を身ごもっていたのだった。

ヒロには言えず、ヒトミとマリアにその悩みを話した。

結局、自分の星の安定と平和のために星に帰ることを決めるのだった。

友歌は一年以内に星に戻ることを約束して、その条件として休戦を結び

軍を引き上げて行かせたのだった。友歌はマリアとヒトミとコウジだけに知らせ地球から去る前にマリアの所でヒロとの子供を産んでマリアに預け自分の星に帰って

行ってしまったのだ。ヒロには二人の時間は人生で一番幸せな時間だったが、自分の個人的な事情でここに居ることが出来なくなった。

ヒトミ先生は知っているけど、そのことでヒトミ先生を責めずに居て欲しい。

責めるなら私を責めてくださいと、書置きを残して身一つで出ていった。

当然ヒロは子供のことも、マリアの所に居ることも知らない。

目の前の視界が真っ白になる程のショックで、まるで竜宮城から浜辺に

打ち上げられ、廃人になった浦島太郎のような状態であった。

そんな状態のヒロの気持ちを切り替えてくれたのは一緒に戦った仲間たちだった。

しかしそれは当たり障りのない、慰め方ではなく、傷口に塩を塗るみたいな方法だ。

師兄弟の水樹などは突然酒を抱えヒロの部屋に殴り込み、笑いながら

【お前が結婚なんて、どうもおかしな出来事が有ると心配していたんだ。

このままでは地球が天変地異で滅びると心配してた。これで安心して酒が飲める。

お前も飲め】と言って68%の度数の酒を飲ませながら、【私さえ結婚してないのに私を差し置いて結婚することがあったことを神様と私に感謝しろ】とか

無茶苦茶である。更に【自分の顔を良く鏡で見ろ、一瞬でも幸せな時が有ったのは

ユニオンで地球のため働いたご褒美を神様が与えてくれたんだ】と言う。

ヒロが小さい頃から水樹はヒロに武術を教えたり祖父の源三からヒロを預かったり

常にヒロにパワハラを行っていた。しかしそれは歳の離れた弟をいじめる、

姉のようなパワハラであった。そんなパワハラがヒロに普段の生活を

思い出させたのだ。その上に中国武術の師匠である、ロンなどは良い機会とばかり、

恐ろしいまでの修行をヒロに課した。その厳しい修行が不思議なことに悲しみを忘れさせた。朝から晩まで化勁(太極拳の防御)を身に着けるため推手(防御の修行法)をさせ、別の日は半日、田歩という歩法をさせた後、ロンと実戦組手をしたりした。

所謂、地獄のシゴキ的な修行である。その修行のなかで無意識の技を身に着けることこそ、危険に際して技を繰り出せると言う。意識の上の技は危険に際してなかなか

出すことが出来ない、気が付いたら体が反応して技が出ることが大切なのだ。

この場合悲しみも無意識に忘れられる二次的効果が有る。

ロンがそんなことでヒロを特訓したかは不明だが。ヒロは修行もこなしながら、

ユニオンの任務もこなし、海外の争いを収束させる任務やテロを未然に防ぐ任務、

貧困から起こる紛争国の人に、ビジネスを与えて収入を安定させて防ぐ任務など、様々な任務をこなした。ユニオンは医療、科学、軍事、生産産業、流通ビジネス、

交易を通じ、ビジネスでお金を生み出し、さらに大きく成って行った。

そんなこんなで十五年が過ぎて行ったのだ。十五年後のユニオンは更に活動の範囲を広げ世界中に支部を持つ大きな団体に成って行った。

世界の支部で多くのエージェントやユニオンのメンバーが必要となり色んな分野で

新しい人間を育成する必要が出て来た。

実際に戦う必要がある実戦の武力部隊もヒロより上の世代は現場を去る年齢になり

次の世代の育成が必要に成ってきた。その戦闘部隊の一部の育成をユニオンはヒロに依頼してきた。戦う技術を人に教えることを良いとは思っていないヒロだが、

その必要性も認識している。ヒロは、しぶしぶその任務を受けることに成ったのだ。


第二章

いよいよアカデミーでの教師生活がスタートし、ヒロが四十歳の春?四月である。

ヒロが教師を引き受けるその条件は少数精鋭、人数は十五人まで、その多くはヒロの知っている第一次の戦いで戦死したりしたヒロの仲間の武術の里の出身の子供たち

だった。その中にアリサと言う十五歳の少女がいた。

彼女の父はヒロの戦友で駿翔(ハヤト)と言う、彼も戦いの中で負傷してそれが原因で後に無くなった。彼の一族は優れた目を持ち、スピードを持ち味とした戦う技術を持つ一族だが、逆にそのスピードが災いして守りの意識を欠いて大きなケガを

負った。アリサも父親譲りのスピードを持ち、才能に溢れている少女だったが、

ヒロには それが逆に心配であった。

十五人すべてが才能を持ち基礎的な修行を終えて習得していたが、

ヒロが重んじた事は誰一人死なせない、とにかく守り切る意識と技術だ。

修行で多少の怪我をしても死ぬことは無い、昔と違い守られた中での修行だ。

しかし、実戦となると話は違う。ほんの少しの油断が命に関わってくる。

武の本質とは矛を止めること、誰一人死なせない事こそ、武の本質である。

修行の基本は101理論である、常に前回より高みを目指し厳しいことを課して

心技体を高める。常に前回よりも、高い負荷を修行で与えることが、成長と進化の

基本である。勿論、回復にあてる休息やリカバー、

そして戦術的ピリオダイズレーション理論でピーク期や負荷の種類を変化させ、

成長を効率的に促すこと、メンタルの成長と休息のバランスも考え個々の能力に

応じたプログラムをヒロは考える必要がある。

ヒロは子供たちに接する中、子供たちが育って行くことに喜びと生きがいを感じて

いった。素質も将来性も有る子供たちを誰一人として戦いで死なせたくない、彼らの多くは素質も有るが、その道を選んだというより、里や家の影響でその道に進んだ

子供も多い。自分と重なり、自分が子供のころ、祖父や多くの武術の師匠、水樹、

ユンチャオ、マリア、ロンたちの思いが少し解ったきがした。

当然修行は厳しくなるが、子供たちが可愛いが故である。

そんな中アリサは才能を伸ばし、見る見る力を付けてくる。

またヒロが自分の父親と親友だったことを知ってか、父親になつく子供のように

ヒロを慕ってくる。ヒロはそんなアリサが可愛くて仕方がないが他の生徒と同じく

接する必要がある。しかしアリサの素質は伸ばしてやりたい、アリサには

他の子供以上に厳しく修行を課していく。彼女の長所はスピードと優れた目、

しかしそのスピードから大きな威力の攻撃を出すための土台の力が足りない。

それを併せ持つことが出来れば鬼に金棒である。以前に、直接打撃の空手でその

スピードから天才と言われた空手家がいた。しかし小柄でスピードに固執したため、大型のパワーファイターに度々苦い思いをしていたが、彼は中国武術の練法や

近代パワートレーニングを取り入れ身体を作り、世界を制した。

それに加え、ヒロはアリサに流水の足さばきを教え込んだ。

これにより、離れた距離から、近い間合い、全ての間合いで戦える技術を

教えて行ったのだ。アリサに厳しい修行を課すなかで、ヒロに取って特別な生徒に

成って行く。他の生徒もヒロの修行でどんどん力を付けて行った。

その中でヒロと関係の深い生徒が千鶴(チヅル)である。

チヅルの母親は雪(ユキ)と言いヒロの十歳以上年上の女性武術家でチヅルを

産んで数か月でこの世を去った。原因は病だったがそれも多くの戦いで無理を

したためであると思われた。彼女もヒロの戦友でヒロが憧れた女性であった。

武術だけでなく幻術、式神、毒や麻薬、あらゆる技術を使いこなし、

強さと美しさで白い妖狐といわれるエージェントであった。

チヅルも母親に似て美しい少女だ。

まだその能力は開花してないが、聡明な知力そして家伝の体術武器術

を身に着け光るものを感じた。

ヒロはアリサとチヅルを競わせることで、両者の力を伸ばそうと考えた。

アリサはどんどん力を付け生徒の中で、体術ではトップの実力を付けた。

アカデミーが始まり、そろそろ十カ月ほど過ぎていて、一年たてば十五人を

見習いとして色んな部隊の任務に出さなければならない。

勿論最初は、危険の少ない任務で上級の経験の豊富なエージェントの下でのスタートするが、それでも修行と実戦は天地の差が有る。

この二か月は五人や三人でチームを組んで、実践的な戦いの訓練で想定戦を行う。

アリサのチームとチヅルのチームは、両チームとも順当に勝ちを拾い、全勝のまま

トップ争いでぶつかる事となった。

アリサのチームは主にアリサ一人の力で、チヅルのチームはチームの総合力とチヅルの頭脳により、勝ちを拾っていった。

ヒロはこの戦いをアリサに勝たせたくは無かった。

アリサの父と同じ運命を負わせたく無かったからである。

アリサは自分の力に自信があり自力に頼りすぎる、他のメンバーの動きに目が

行かないのが弱点である。

チヅルもそこには気付いているが具体的な作戦は思いつかない。そこで、

こっそりチヅルに作戦を与える。

それはアリサにチヅル一人に集中させ他のメンバーを使いアリサ以外のメンバーを

先に無力化して最後に総がかりでアリサに攻撃を浴びせる作戦である。

そのために、まずはアリサを言葉で心理的に揺さぶりチヅルを

意識させることだった。

チヅルは戦いの前、アリサに【ヒロ先生がアリサより私を戦士として

買ってくれている、私は卒業後先生と一緒のチームで実戦に出ることは決まって

いるのよ、まあ今度の戦いでそれを証明してあげるけどね】と言った。

そしてヒロはそれ見よがしに、チヅルに近づきチヅルの母ユキの話をして

親しくみせた。

それにより。アリサは力を示そうと先走り、戦いのリズムを失い無理な攻撃を

チヅルばかりに集めて体力を無駄に使った。

その間にチヅルが立てた作戦で他のメンバーを無力化して孤立したアリサにチヅルのチームが総がかり、そしてアリサは自滅してしまうのだった。

チヅルに負けて泣き崩れるアリサ。

自分で与えた試練にヒロもアリサが可哀そうに成るが、そこは師匠としてアリサを

指導しないといけない。

アリサにリーダーとしてチームを守ることを忘れたことを叱り、自分の強さへの

奢りやエゴが先に立って仲間を危険に晒したことをしかった。

逆にチヅルはチームの力を引き出し勝利に繋げたことをほめた。

しかしチヅルには解っていた、アリサを伸ばすため自分を勝たせたこと。

チヅルは逆にアリサの素質やヒロの愛情が羨ましかった。

チヅルはヒロに【私、母様以上のエージェントに成って見せますから】と

ヒロに言う。

ヒロは【アリサだけを強くしたいわけではない、チヅルはユキ姉と同じ知恵と

力をどんどん付けて行っている。二人はきっと良いライバルで良い仲間になるから、

二人で切磋琢磨して、時には助けあって成長して欲しい】と言う。

チヅルは【解っています、今度母様の色んな話をもっと聞かせてください】と言い。

ヒロは【お前の母様は本当に綺麗で、俺には優しくてしかも強くて皆の憧れだった、

チヅルが産まれた時、俺もユキ姉様に会いに行って、お前を抱っこしたんだ。

まだチヅルは本当に小さなおサルさんみたいで、ビックリしたけど、今のチヅルは

ユキ姉とそっくりで、逆に動揺したよ】と言った。

チヅルが【じゃあ、先生を誘惑しちゃおうかな?母様のこと好きだったんでしょ?】と聞くと。

ヒロは焦って【ユキ姉には憧れたけど、お前に手を出したら、あの世からユキ姉が

呪術を俺に掛けてくるからな、だがチヅルと一緒に戦ったらユキ姉が居るみたいで

心強い。早くユキ姉様以上のエージェントに成長してくれ】と言う。

チヅルと話した後、ヒロは、アリサに会いに行き、落ち込んでいるアリサに

あることを告げる。

アカデミーを卒業したあとも、内弟子として現場で一緒に仕事しながらアリサを

指導する事だ。

【お前はまだまだ未熟だが、父親から受け継いだ素質は大きい、だから父親以上になり、ハヤトも願った平和で皆が共存できる世の中にするため戦う義務がある、

アリサの父様の分までアリサを強くする義務が俺にもある、このことは卒業まで、

皆には言わず、一緒に修行する、まだまだ厳しい修行を課すから覚悟するように】

と言った。

次の日からもヒロの厳しい修行は続いた、多くの先人から引き継いだ技術や術式を

生徒たちに惜しげもなく教えた。

武術の技や力は教えたからと言って、みんなに身に付くと言うものでもないがホントに、教えたかったのは、やはり武の本質、大切なものを守ること。

そしてなんのために武を身に着け使うかを、それぞれがいつか、自分の答えを

見つけて欲しいと説いた。


第三章

生徒達がアカデミーを卒業して、それぞれの任務に配置された。

アリサとヒロの任務はアフリカの商船を海賊から守る事だ。

彼らは組織的に商船を襲って物品を盗み、人質を取り身代金を請求して

生業を立てている。

多くの人間が貧しさから、そのような道に進んでしまうのが、アフリカの貧しい地域の現実でもある。

この任務にはヒロの師兄弟でもある水樹の部下、水の郷の船団のシャチたちも

参加している。

また矢早の里という、ヒロも修行した銃や飛び道具、弓矢、合気柔術にたけた、

矢早の一族のシュウの部隊も参加している。

海賊相手には大げさな武力であるが、これには理由がある。

海賊を退けるだけではなく、彼らを生きたまま捉えて、この地域の海賊の多くと

交渉して、彼らが働ける産業を与える代わりに、多くの海賊たちを説得させて、海賊業から生産的な産業を起こさせる、プロジェクトである。

アフリカの多くの地域は、資源による経済活動が中心の国が大半である。

しかし資源に乏しい国は、非常に貧しく、治安が悪化して海賊や盗賊、強盗などが

横行するのが実情だ。

ユニオンはそれらの国に産業を立ち上げ、そのような連中にも更生の機会を与える

プロジェクトを試し見ようとしているのだ。

海賊達がやる手段は漁船を装い、商戦に近づきロケットランチャーなどを使い動力を奪い、商戦に乗り込んで、制圧する手法だが。こちらもタンカーの船員を装い、

シャチの率いる別の船は視覚の外に隠して、連中が乗り込んで来たところを、

様々な術式を使い、一網打尽に生け捕りにしてしまう手法である。

船員を装ったユニオンのエージェントが、乗り込んできた海賊を一網打尽に制圧して

逃げる連中は、シャチの船団の船とシュウの部隊が船を沈め全員をとらえた。

アリサを女と侮り、油断した海賊などは無計画に近づいて、アリサの無拍子の蹴りを

受けてあっという間に気を失う始末だった。

捉えた相手のリーダーに、麻薬のような幻覚を見せるマリアのハーブを使い相手の

本拠地を案内させ、そのまま、そこも制圧して交渉と説得に入る。

その役割は魔導士マリアの部下が担う。

一見、非合法的だが、最初は強引に進めなければプロジェクトはスタートしない。

あとは生活の保障と産業をユニオンが立ち上げ、その事業に協力してもらう

手順である。一番肝要なのは、彼らに対するフォローをユニオンが根気強く

続けることである。そのためヒロ達エージェントも産業に携わるメンバーも

メンバーを変えながら何年も彼らと生活を共にする。

ヒロとシュウの部隊も、半年はアフリカに滞在して彼らと生活を共にした。

アフリカにいる間、彼らと同じ生業のグループを制圧したり、説得に動いたり

しながらユニオンの事業に参加する人間を増やしていくのだ。

そんな中、アリサがヒロに疑問をぶつける。

【何故、あの人たちは船を襲ったり、人質を取ったりするようなことに

成ったんですかね。それって悪いことって思わなかったのですか?】と聞く。

ヒロは【どうだろうな?良い悪いという概念は立場によって変わるのも事実だしな。

彼らに取って優先すべきは生きて行くことだったのかも知れないだろ。

例えば家族の生活を支えることが法を守るより大切かもしれない。

俺たちの祖先だって数多くの戦に参加して敵将の首を取って生業を立て、暗殺にさえ関わった里もある】と言い。

更に【日本の戦前の軍隊もアジアの国でテロを起こしたり、隣国の后妃の暗殺に関わったりした、それがお国のためだったと信じていたらしい。

この時代に成っても、そんなことを言っている自称愛国者とかいう連中もいる】と

教えた。

また【だいたい俺たちがやっている行為だって、非合法な部分は含まれている。

マリアの魔術なんて俺から言わせたら、非人道的ともいえる。

法治主義とか宣う政治家や、行政は結局自分たちの都合で治政をしたいのさ、

そこに正義が有るかどうかは、不明確極まりないと思う。

結局良い結果を出して行くしか無いのさ】とも言った。

アリサが【良い結果が出せるんでしょうか?】と聞くと。

ヒロは【それは俺たちユニオンとそれに参加した人次第だ。

世の中、確信出来ることなんか殆ど有るものか。特に俺みたいな凡人は、

不安だらけ。ただ俺の信念はお前を含め仲間を死んでも守る】と答えた。

また【まあ生きてりゃ、なんとかなる位のネットワークをユニオンは持っている。

マリアの底力は計り知れないのは確かだ】とも言う。

アリサが【今やっている、ビジネスのプロジェクト、上手く行きますよね】と

質問すると。ヒロは【それは問題ないと思うよ、何せユニオンの科学技術部実験に

実験を重ね、開発した養殖技術とユニオンの交易ネットワークと運輸技術を使い

輸出するんだから、ユニオンも働く彼らも、消費者も皆得をする、ビジネスプランだと思う】と説明する。アリサは【良かった、生活が安定したら彼らも悪いことは

しないですよね】と聞くと。

【そう願いたいね、彼らの中には薬物に侵されている人 間は居なかったようだし】ととヒロは答えた。

ユニオンの加護の中では、不正は出来ないように、ビジネスが組まれているから

再度海賊や強盗するよりは安全に豊かに暮らせるはずである。

アリサは【早くここで養殖された魚が東京のユニオンで食べられると

良いですね】とアリサが言うと。

ヒロは、【その時は俺が刺身に捌いてご馳走してやる楽しみにしていろ】と言う。

海賊を説得して任務が終わるわけではなく、それはスタートだ。

ユニオンの事業部が立ち上がり、現地にキャンプや工場を建設する。

最初は簡単な施設から作り、工場のメンバーの食事は持ってきた冷凍の肉や

保存のきく野菜、コメなど食料や衣類。

ヒロとアリサの食事は、朝はプロテインとオートミールや、乾燥フルーツ。

昼と夜は調理スタッフの調理したメニューで、足りない栄養素はサプリなどで

補給する。夜チームで食事しているとアリサは【もう任務食、飽きてきましたね。

アフリカの美味しいものあるかと思っていたのに】と不満を訴える。

それを聞いたシュウが苦笑いして【任務ではこんなものだ。アカデミーでは美味しいものが出るんだな?】とアリサに聞くと。

【アカデミーの寮では栄養を考えたおいしいメニューが選べるんですよ】と言う。

するとヒロが【それは俺がユニオンに言って、栄養を考え美味しく充実したメニューを、プロディースしたからなの。現場では同じようには行かないから、我がまま言うな】と言って、アリサを見る。

【チヅルちゃんは東側の国で美味しいもの沢山あると、メール送って来ましたよ】と

アリサが言うと。

ヒロはそれを聞いて逆に心配になった。東側での任務はきっと大変な任務で

有ることは違いない。

チヅルは語学も堪能で頭脳も明晰な娘であるため、情報部の任務に就任した。

どんな任務も楽な任務などはない。皆が無事で帰ってきてほしい。

ヒロはアリサに【解ったたよ、帰ったら沢山、好きなものご馳走するから我慢しろ】

と宥めるのであった。

ユニオンは超特急でプラントを作り現地のスタッフも集めたり、就業のための教育も

ユニオンの事業部が進めた。ヒロ達の任務はプラントの警備と治安も兼ねていた。

アフリカに行って8カ月が過ぎたころ、ヒロ達の任期が終わり日本のユニオンに

帰ってきた。アフリカの任務が終わり、仕事を他の部隊に引き継いで待ちに待った、しばしの休息である。


第四章

季節は12月、日本は冬に差し掛かっていた。

日本に帰ったその日、アリサとの約束通り、ヒロのお気に入りの和食の

店にアリサを連れて来た。ヒロも久しぶりの和食と日本酒が楽しめることを、心待ちにしていた。

二人は銀座に出かけ、その店に向かった。

銀座を歩いていると、アリサが【先生と初デートで銀座なんて、すごく楽しみ】と

喜んでいる。

銀座は多くの人で平日でも賑わっていた、アフリカの貧困な地域とは

別世界で同じ地球で同じ人間とは思えない格差である。

ヒロ達が向かったのは、ヒロのなじみの和食の店、岡と言う店である。

銀座の若手料理人ではピカ一と噂の料理人でヒロの学生時代の友人の史郎(シロウ)の紹介で知って、通い始めた店である。

ヒロが食に五月蝿いのは、もともとシロウの影響でシロウの実家の料亭でバイトを

したり、そのバイト代で食べ歩きや、飲み歩きをして浪費を重ねていたからで、

多くの趣味はシロウと教授の浜の影響を、学生時代に受けたからである。

二人は予約した時間に店に入った、アリサは銀座の和食の料亭など初めてである。

緊張するアリサに【緊張することはない、好きなものを頼んで好きなだけ食べたら

いいんだ】とヒロが言う。

アリサは【こんな高級な店初めてです。何を頼んだら良いか全然判りません】

と言う。

店主の岡がヒロが若い娘を連れていることに、ビックリして

【娘さんがいらっしゃったんですか?】と尋ねた。

ヒロが【似ているかな?なかなか可愛いだろ?】答える。

岡は【こんな可愛いお嬢さんがヒロさんの娘な訳無いですよね】と再度言ってきた。

ヒロがアリサに【ここの主人は料理の腕は良いけど性格が悪いから、気にするな、

お前は俺に似て日本でトップの可愛さを持ってるからな】とアリサに冗談を言う。

アリサは可愛いと言われて上機嫌である。

料理は赤ナマコの酢の物、エゾアワビの刺身、鬼オコゼの刺身、海老芋の煮物、

アサヒガニのゆでた物、ワタリガニのゆでた物、むかごの素揚げなど季節のものを

堪能した。ヒロは香川県の日本酒、悦凱陣純米吟醸の金毘羅大芝居を飲んだ。

酸味も旨味も兼ね備え食前食中にも合う銘酒である。

岡が締めに白アマダイのこぶ締めを使い出汁茶漬けを作ってくれた。

至極の時間を久しぶりに二人は過ごした。

二人が家に帰ると妹のユウが家に戻っていた。

今日から二人は姉夫婦と、血の繋がっていない妹(父が親友の娘を養子として

受け入れた妹)のユウと同じ家に暮らすことに成っていた。

姉夫婦は共働きの上医者と科学者でユニオンから高額な収入が与えられている。

二人ともユニオンの理事で役員でもある上、コウジは研究以外趣味もない、

純粋な科学者でユニオンの敷地に大きな屋敷を作った。

年中、日本にいる事の無いヒロとアリサは日本にいる間、屋敷の中にそれぞれ部屋を

間借りし、住むことにしたのだ。

妹のユウが二人を見て、アリサに【お兄ちゃんとデートしてきたの?】と尋ねる。

アリサが嬉しそうに【銀座の岡って高級な日本料理食べたんです、アサヒガニとか

エゾアワビとか白アマダイとか食べたことない高級料理を沢山ご馳走に成りました】と自慢する。

ユウが【銀座の岡って有名な店じゃない、私連れてって貰ったこと無いんだけど】と

ヒロに言う。ヒロが【アリサが任務を頑張ったご褒美だよ】と言い訳する。

ユウが【患者さんに頂いたお菓子有るから、アリサちゃん紅茶入れてくれる?】と

言うと。アリサが【かしこまりー】と返事をする。

ヒロが俺は自分でスコッチを飲むからと、グレンリベット30年をロックで作る。

任務地を離れて久しぶりに家で飲むスコッチは格別である。

ヒロは【この時間のために生きている。スコッチが無ければ俺は死人も同然だ】と

スコッチを味わっている。

ユウは【完全にアル中親父ね、兄ちゃん死んだらアル中の肝臓の見本にするわ】と

言うと。ヒロが【お前は医者のくせに人間の生理について考察が無さすぎる。

人間はストレスにより、細胞がガン化するか、臓器が細胞分裂を出来なくなり

機能不全で死ぬか、どちらかだ。俺の場合、人生の楽しみを失い気力を失うことは、死を意味するんだ。適度なアルコールによる肝臓への負荷は肝臓へのストレス耐性を高め進化に繋がる可能性も有ると言う、新しい学説を俺は証明してやる】と

言い返す。ユウが【そんな学説有るはずないだろ、本当に兄ちゃんは屁理屈王だわ。

アリサちゃんこんな所は絶対に真似しちゃダメだからね】と言い返した。

兄弟のボケ突っ込みに微笑むアリサであった。日本に帰ってからも、アリサとヒロの修行は続く。ユニオンがメンバーに求めることは、人間としての進化だ。

メンバーそれぞれが進化することが、ユニオンの進化に繋がり、そこから、新しい道やプロジェクトも生まれてくる。

プロジェクトはあくまでも、方法であり、目的や目標ではないが、ユニオンの目指す目標は果てしなく遠くて、一つ一つ、プロジェクトを組み、に進むしか道は無い。

しかしユニオンは他利でもなければ自利でもない、自利他利公私一如と言う言葉が

有るがそれとも違うかもしれない。目指す境地は共存である。

それを目指すには、それぞれの進化が必要と考えるのが、マリアの考え方である。

ヒロはアリサに新しい術式を授けるための修行を課した。

アリサの攻撃力は、ヒロのこれまでの厳しい修行により、大きなものを身に着けた。

スピードと威力はかなりのものに成っている。

今回の課題は相手の視覚の影を付き、相手を無力化したポジションから常に有利に

戦う技法である。中国拳法で言えば、八卦掌の歩法と同じ戦い方である。

日本にも合気など、似た技法、術式は存在する。

八卦掌の套路(型)を繰り返し修行するとともに、今度はヒロを相手に約束組手、

実戦でのスパーリングやマスボクシングを繰り返す。

その他に身体を作るための、筋力トレーニングも欠かさず行わせる。

またヒロは座学でも歴史や自然科学、生理学など教材を作り課題を与え

勉強させた。ヒロも幼少期から、勉強の課題を姉ヒトミに与えられ、十五歳の時点で

大検の資格を得ていた。ユニオンのアカデミーに入るには、大検の資格は

必須である上、アカデミーでも語学や、歴史、自然科学の基礎教養の授業は

行われる。卒業してからも、所属する上司から課題が与えられ、

昇級するためには、学んだことをレポートで提出して、その成果を

見せなければ、ならないシステムである。

難しい任務を成功させるためには、知識も常に進化させなければ

達成することは出来ない。

知識と実戦の繰り返しが進化には必要とユニオンは考えている。

約二か月のオフと修行の日々を日本で過ごした後

二人は南米の麻薬やドラックを製造する組織の制圧に参加

することに成った。


第五章

ユニオンの輸送機で現地に移動している間、作戦の打ち合わせも行われる。

作戦は簡単だがヒロは麻薬を憎むがこのイタチごっこの任務が好きではない。

基本的に大きな懸賞金も出るのでユニオンも参加してはいるが、麻薬がこの世から

減る気配はない。世界で麻薬を使っている人間は三億人ともいわれている。

世界の人口八十億人のうち三億人もの人間が麻薬を使っているのだ。

それも、増加の一途をたどる。日本においても二百万人以上と言われる、一億二千万のうちの二百万人、石を投げれば経験者に当たるかも知れない。

ご近所にも一人は居る勘定である。人間は壊れているとしか、ヒロには

思えなかった。今回の作戦の南米の国などは、二十三万ヘクタールもの畑で麻薬の

原材料を栽培している。

1700万トンの麻薬を製造できる規模の麻薬の原材料を一つの国の

畑で栽培しているのだ。

しかも、栽培に関わる人間も販売に関わる人間も、使用する人間も悪びれることが

無く他人に迷惑を掛けてないつもりだ。使用する人間は人生を終わらせるようなものである。

先進国の多くで、違法にされ取り締まられるほど、高嶺で取引され利益が大きなため無くならない上に、使用するほうも、そこに幸福感を求め使用が止められなくなる。

上げ期の果てに何度も繰り返し最初は執行猶予で終わるが、常用者として裁判で認識され、何度も逮捕される度、刑期も増えて大半を刑務所で過ごし一生が台無しに

成る。それだけならまだしも、内臓や血管がボロボロになり、人生を終わらせて

しまう。国によって麻薬は終身刑の重罪の国もあるが、そんな国でさえ麻薬は無くなる気配は無い。本来は麻薬中毒者を更生するプログラムの充実と

進化が必要なのだが、こちらにお金を注ぐことが、どの国も少ない。

日本など特にそうだ。NGO団体なども活動してはいるが、ヒロは正直このNGO

なる物に不信感を抱いている。

何故なら公金を使い、中毒者の生活保護金まで利用しているが、それに見合った結果が出ていると、ヒロには思えないからだ。

また精神科の多くの医師は薬での治療で医療費を楽に稼ぐシステムでやっている。

保険制度のポイントの関係も有るのかもしれない。

その上、心理療養も先進国のアメリカやヨーロッパに比べるとかなり遅れている。

しかしユニオンとて、そんなことに労力を割くより、アメリカでは麻薬犯罪の

阻止には、大きな懸賞金や費用が動くので、ユニオンのビジネスの一つとして

参加しているのだ。

ユニオンは懸賞金と共に、広大な地域の使用権を購入して、新たな作物を作って

輸出し、更に医療に役立つ薬品を作り、ビジネス繋げる方針でそれを地域の政府に

了承をもらい、地域の農民や人を雇用して、立ち上げる計画も立てている。

平和と人々の共存には、お金と言う武器が一番必要となってくる。

それはお金の有る階層から、搾取するためのビジネスが必要と考えているのだ。

ヒロ達のチームを含め、各地でユニオンのメンバーも参加して、南米の作戦は

行われる。しかしイタチごっこで、薬に快楽を委ねる人が、居ない社会作りを

しなければ解決しないとヒロは感じている。

まず予め、輸出ルートとされる海上ルートを捜査して、輸出してる組織を捕獲する。

コカイン約3トンが押収され、その価値は壱億ドル近い。

そこから魔導士会の人間が尋問しその組織のルートや工場を突き詰めヒロのような

戦闘部隊のエージェント達が工場を攻撃したり焼き払っていくのだ。

アリサが【どうして麻薬に頼る人が多いの?】と言うとヒロに質問する。

ヒロが【解らないけど、孤独と不安とか言っている人間がいたな、覚せい剤は

高揚感が高く、コンプレックからの逃避や自己肯定感とか中にはSEXの快感が

忘れなくなるぐらい凄いと言う奴もいたな】と言う

アリサが、SEXと聞いて、【なにその人死ねば良いのに。そんなの愛じゃない】と

拒否反応をしめす。

ヒロが【そうだな、死ななくても良いけど、可哀そうな奴ではあるな】と言い。

【もしかしたら、本当に好きな人を愛したことが無いのかもしれない

俺も愛については、お前にレクチャー出来るほど考察出来ないけどな

幸い俺には口うるさい兄弟や、うざったい師兄弟や仲間がいたからな

アリサにもこれからもっと、大切な仲間が増えてくる、武はそのために有ると俺は

信じている】と言う。

アリサが【アカデミーの皆や先生と出会えて良かった、世の中の人が皆そんな仲間と繋がれれば、麻薬も戦争も無くなるのに】と言うと。

ヒロは【そんな日が来ることがユニオンの目標さ、果てしなく遠い道のりだけど】と

と答えると、アリサが【私も、もっと強くなって、頑張る】と微笑む。

ヒロはその時、胸が熱くなる位の幸福感を感じた。

南米で任務が終わり宿泊した場所で、二人は夜空を見ると、日本より綺麗に

星が映る。中でも南十字星や天の川がはっきりと、目に映るのだ。

アリサが【先生、綺麗】と指さして見て【あの星のどこかに、同じように人が住んでいるんでしょ?先生や父様たちは、その人たちとも戦ったんでしょ?】と尋ねる。

ヒロが【誰に聞いたんだ?そんな話】と聞くと。

【小さい頃、母様が話してくれた】とアリサが答える。

ヒロは人差し指を自分の口に近づけ【それは秘密事項だから外で言っちゃダメな

ことだぞ】笑顔で言う。

この宇宙のどこかに友歌が生きている事を、姉のヒトミから聞いている。

天の川を渡ればもしかすると友歌に会えるかもとふと考えた。

戦いを収めるため、自分の自由を犠牲にしたとも聞いて、再びユニオンに、

身を置く決心をした。そんな情けない自分にも弟子が出来た。

きっと魂とは、生きているときに、周囲やこの世にその人が与えた影響の事を

言うのだろうと、ヒロは思えた。南米から帰り、年を越すとヒロは沖縄に修行の為の合宿と称して、行くことにした。勿論修行は行うのだが、遊びも兼ねる、

ナンチャッテ合宿だ。それに妹のユウも、沖縄のユニオンの病院に出張と称して、

一緒にて来ることに。

沖縄にはユニオンが経営する病院も有れば、コンドミニアムもホテルもある。

収益を設備や事業に変えて収益を得る。

今の資本主義は金を株に変えて、更に配当と言う収益に換えるが主流になって、

金が人に向かわない、流れないことが貧富の二極化を作っている理由の一つだが

ユニオンは金を利用して、人を育てそれが収益に繋がるサイクルを取ることに

している。金を人や事業の成長に直接使い、その成長が更に、収益を産むように

プロジェクトを計画する手法である。そのため全て自己資金で運営する。

余剰資金は金やドル、ユーロや資源で蓄え安定を図る。

ユニオンのメンバーにも市場金利より、わずか良い金利で、共済積み立てや年金に

加入させ、その資金も有効に活用する。アメリカで投資銀行を経営したりして、

資金を有効に活用している。その元になったのは、マリアの魔導士会が持っていた、莫大な資金であった。ヒロは度々、任務の間を縫い沖縄に出かける。

沖縄に多くの知人も居る。ヒロ達がユニオンのもつ、コンドミニアムに到着すると、

地域の海人(ウミンチュ)らが顔を出してきた。

彼らはヒロの子供のころからの知人でもある上、ユニオンとも取引のある

漁師たちで有る。元々、沖縄にはヒロの祖父源三と交流のある武術家がいた。

沖縄の古流の空手は日本の空手の源流でもある。

ヒロの祖父は多くの武術家と親交を持つことで、そのエッセンスを自分の武術に

取り入れたのだ。そんな中で沖縄の人たちとも親交を深めた。

太平洋戦争での沖縄の悲劇のなか、命を落とした先人も居れば空手をやっていた

お陰で命を繋いだ武術家もいる。その時代、源三は中国にいて活動をしていた。

戦後沖縄がアメリカの時代、沖縄を度々訪ねて源三は、沖縄の武術家と

親交を持って行った。沖縄が日本に返還される前に、本土では基地反対運動が

広まり、日本中の米軍基地が移動して沖縄に集中していった。

沖縄が基地反対を叫ぶのを、金の為と言うが、元々は本土が基地反対をして沖縄に

基地が増えたのだ。そんな事実も源三はヒロに肌で学んで欲しかったのだ。

その縁も有り、大人に成っても、度々、沖縄に行き沖縄の文化を心から好きに

成った。大学時代も春休みの課題の、レポート作成と称して、

沖縄でバイトしながら、沖縄民謡を習い、挙句の果てに、沖縄民謡の教師の免許まで取る始末だ。ヒロ達は夕方に、なじみの店、いまいゆ(鮮魚)に集まり宴会をする事になった。沖縄の食材は豊富で、海鮮も肉類野菜も独特の文化でヒロは

大好きである。今日はミーパイ(ハタ科)の刺身と煮つけ、ヤコウ貝の刺身、

ニシキ海老の刺身と、沖縄おでん(てぃびち、豚足)ゴーヤチャンプル、

ヒージャー(ヤギ汁)と多彩な料理と沖縄の泡盛の古酒やオリオンビールなどを

楽しんだ。妹のユウも沖縄はヒロと何度も来ている。

アリサは初めての沖縄料理を楽しんでいる。

沖縄料理を楽しんでいると、ヒロの民謡の師匠のミーコが店に訪れた。

ミーコがヒロに【沖縄に来たなら、何で私に連絡しないかね?

師匠に対して水臭いと思わないね】と言う。

ヒロは【ミーコネーネーは世界の歌姫やからさー、忙しいと思ったさー】と

ウチナーグチ(沖縄の方言)で返す。

ミーコは沖縄の音楽ファンの間では知らない人間が居ないほど有名人である。

ミーコはヒロの妹ユウには【ユウちゃん、久しぶりに見たらチュラカーギー

(美人)に成って、良い人でも出来たね?】と挨拶する。

ユウは【嫌だネーネー、そんな人居ませんよ】と答えると、ヒロが

【ユウ、お世辞を言われて照れるな、こっちが恥ずかしい】と皮肉を言う。

すると、若い海人が【彼氏が居ないんなら、俺と付き合ってください、 

お願いします】と言うと。ヒロが若い海人に【絶対やめておけ、一生を台無しに

されるくらい、我がまま女だから】と釘を刺す。

ミーコが【イナグー(女)は、わがままな位が可愛いんだよ、アンタはそんなことも

解らないからモテないのさ、ところで隣の美童(美少女)は初めてだね】と聞くと。

ヒロは【友人の娘さんで俺の行ってる学校の生徒なんさ】と答える。

ミーコは【こんな綺麗な娘は沖縄にも居ないヨ、歌を教えて歌手に育てたら人気者になれるよ】と言う。

ヒロは【この娘は可愛いけど、きっと音痴だから歌者は無理、そんな簡単に歌者に

成れるなら、俺が歌者に成っている】と答える。

するとミーコが【アンタは顔が歌者向きでは無いから】とヒロに返す。

ユウが【ミーコにネーネーの唄を久しぶりに聞かせて】とせがむと

ミーコが【ヒロ、久しぶりに一緒に唄おう、ちゃんと練習してるか?】と言う。

ミーコがヒロにサンシンを渡し、ヒロがチンダミ(調弦)をしだした。

ヒロは、海のチンポラーと言う民謡の前奏をサンシンで弾き始め、

子弟の唄サンシンが始まる。

この唄は沖縄の遊郭で唄われた曲で、海のチンポラーと言う、巻貝を女性に例えて

若者に対して女や遊郭について唄った曲である。

歌詞は、海ぬちんぼーらーぐゎー さかなやい たてぃば ふぃさぬ さちざち   あぶなさやー

(意味:海の巻貝のチンボーラちゃんが逆さまに立っているので、

踏んだら足の先が危ないよ〜)

海ぬさし草や  あん美らさ なびく 我身ん里前に うちなびく

(海のセンダン草は 美しくなびくよ、私も愛しいあなたにうちなびくよ)

海のチンボーラーぐぁ 恋する夜や辻の姉小達ん恋すらど

(海のチンボーラーが恋をする夜は辻の遊女も恋しているってよ)

深く意味を知れば女が怖くなるヒロであった。

その他ミーコが、月のかいしゃ、国頭サバクイ(クンジャンサバクイ)

サーサー節、ヒロがカジャデ風などを唄って、八重泉や瑞泉などの古酒も楽しんだ。

翌日は朝はゆっくりした後、買い物で食材や、日常品などを揃えた。

午後からはヒロとアリサは修行もこなす。

沖縄は歳が明けると野球選手なども自主トレを沖縄でしたり、修行するにも

良い気候である。ロードワークやインターバルで心肺機能を高めたり。

浜辺で足腰の鍛錬をしたり、筋トレのGYMで筋力の強化を組み合わせて、

プログラムをヒロが組んでトレーニングと修行を行う。

食事は基本ヒロが自炊で作る。

ユニオンの自宅でも、ヒロが居る時は家事はヒロの担当である。

ユウは予定通り、沖縄のユニオンの病院で臨時医師として日中は働く。

ユウは内科医で総合診療医師、外科医の姉のヒトミのように、不規則な勤務は

少ない。ヒロは常々、ユウに楽な仕事で高い給料を貰って、と皮肉を言っている。

正直、日本の外科医も内科医も玉石混合と言えるとヒロは思っている。

患者の生活や体質、すべてを把握して治療方針を患者と話し合い、患者の気持ちや

治療の効果を確認しながら治療を進める医師とバカのように厚労省のマニュアルや

薬品会社の言う効果を鵜吞みにして患者を診ているのではなく、カルテと検査数値で

マニュアル治療をする。

アホなマニュアル医師だと治療費も国費もドブに捨てている、とヒロは思う。

ユニオンは、金持ちには高額な自由診療で、ビックリする位の利益をだし、その利益で保険医療の人にも、出来る範囲で丁寧な医療を行う。

高額医療制度や出来る方策を患者と話し合うことで、多くの患者を出来る限り、 

平等に治療する方針を立てる、ユニオンの言う平等とは、富む者から利益を稼ぎ、

貧しい人にも幸福権を与える事だ。当然アメリカの病院はユニオンのドル箱でも

ある。金を気にせず、医療で患者に貢献し、治療をしたいと言うのは、まともな志を

持って、医師に成った者ならば思うことで有るだろう、しかし、金のため儲けの

為とか、家が病院だからと言う理由の医師がいる事も事実である。

妹のユウは姉のヒトミやヒロの元嫁の友歌に憧れ、小さい頃から医師を

目指していて、姉の勧めで総合診療の道を歩んだ。

総合診療は、実は最初の段階で患者の病気の原因を正確に把握する、非常に重要な

部門で、ここが違えば全ての治療が間違う可能性がある。

手遅れや誤診、医療過誤の原因に成りかねない、重要な部門である。

このような、システムをユニオンで構築したのは姉のヒトミと魔導士のマリアで、

ビジネスであれ、医療のシステムであれ、特に魔導士会の力なしに成し得る事は

出来なかった。魔導士会は一説によると、アーサー王伝説に出てくる、マーリンを祖とする集団とも言われている。色んな政権を操ったり、滅ぼしたとも言われる謎の

集団ある。ヨーロッパ、アメリカ、各国に財団持ち、その力は計り知れない。

ただマリアが人類の進化と共存を願い動いている事はユニオンのメンバーは疑う

余地がない。ヒロは過去に色んな場面でマリアの力の一部を見てきて、

世界一恐ろしい女と思っている。

しかしながら、仲間としてはこれ程、頼もしい人間も居ない。

何よりマリアの唱える目的や目標を信頼している。

沖縄を楽しみながら修行しているヒロに、マリアから連絡が入った。

どうせ、新しい任務の話だろうと思うヒロに、今度の任務から一緒に仕事をする

魔導士の仲間を沖縄に向かわせている、合流して顔あわせするように、と言う

話であった。午後一時、空港に迎えに行くと、一人の少女が待ち合わせの場所に

待っていた。アリサと同じくらいの少女である。

黒のモノトーンのワンピースに黒髪で、フランス人形のような面持ちに感じる少女。

アリサはそのあまりの可愛さに【可愛すぎる】と興奮する。

ヒロは逆に、その若さで、その落ち着きに、ただ者でない雰囲気を感じた。

宿舎に戻る途中に買い物によることを告げ、彼女に夕食に何が食べたいか聞くと、

チーズとパンとミルクが有れば良いと言う。

ヒロはそれに合わせ、シーザーサラダの野菜とゴーヤ、沖縄豆腐と

沖縄牛のステーキ肉、次の朝作るオムレツの材料で卵とポーク缶を買った。

マリに合わせて、洋風の沖縄メニューを作ることにした。

アリサはマリの可愛さに目が釘付けであるが、コンドミニアムに帰り荷物を置くと、

マリがヒロに話が有ると言うので、アリサを別の部屋に行かせ、二人になりヒロが

紅茶を入れる。マリは自分の母親は友歌だとヒロに告白する。

友歌がマリを身ごもり、マリアの所でマリを産んだこと、ヒロとの子供マリを

守るためヒロのもとを離れ、マリアの所でマリを産んだ後、自分の星に帰ったこと。

あえて、マリの安全のためマリをマリアの下で育ててもらう決意をした事などを

ヒロに話しをした。そしてマリアの元を離れる時、もう一通の友歌のヒロへの手紙をヒロに渡した。【愛するヒロ、突然消えた私をさぞ、恨んでいることでしょう、

純粋な貴方を傷付けたことは、憎まれて当然だと思っています。

貴方の元を離れなくてはいけなく成ったことは、私に取っても、

大きな苦しみでした。貴方と一緒に過ごした時間は私に取って、今までに無いほど、幸せな時間だった。そして貴方と二人の間に授かったこの宝物の娘、この子の名を

マリと名付けました。この子を守るため、ヒトミさんとマリアさんに相談して、

マリアさんに託すことに決めたのです。

どうかこの娘、マリーが幸運に恵まれ、幸せな人生を歩むように力を貸して下さい。

私が初めて愛したヒロに最後のお願いの手紙です。遠い星から貴方とこの娘の幸せを心より、願っています。友歌より、心からの思い】と締めくくっていた。

ヒロはようやく、マリの目に友歌の面影を重ね、涙が溢れて来た。

自分の愚かさ、友歌の苦しみに気付くことが出来なかった事、

そして何よりも自分が弱いためマリの母、友歌を守れなかった事をマリに謝る。

ヒロの涙を見て、マリは笑顔で【パパが謝ることでは無いのよ、これは決まっていた定めだった。パパとママが結ばれたことで私が産まれた。その定めの中で私は自分の道を生きて行く。マリアママに育てられた事で私は魔導士として歩いていく。

そしてユニオンでパパと一緒に歩んで行ける。パパが私の思った通りのパパで

私は幸せよ。パパとの繋がりでアリサちゃんとも出会えた。

また新しい私に成れる。パパ、沖縄の海は素晴らしいと聞いたわ。

明日海に連れて行って、私、海は初めてなの】とヒロに言った。

ヒロは【海に皆で行こう、北部の山原の海、辺野古の海、美ら海水族館にも

行こう】と答えた。翌日、四人は車で北部に出かけた。

古宇利島(コウリジマ)瀬底島(セソコジマ)北部の海は景色が美しい。

そして辺野古の海も見せた、辺野古も美しい海で有った、しかし工事で

その景色は興醒めするほど悲惨である。

勿論、防衛は必要悪だろう、しかし沖縄北部である必要は有るのか?

普天間が街中で危険、嘉手納も結構な町である。

もしも近隣国が上陸作戦をするにしても、空と海の防衛線を超えるのは実にコストや戦力が膨大でとても採算が合うとは思えない。攻めるならまず、攻略しやすい離島を選ぶであろう。隣国が準備する間、空母や空の防衛戦略を構築すれば良い。

ミサイル防衛は辺野古の必要はないし、空母の停泊や給油はいくらでも方法は有る。

アメリカの要望と言うより金がらみであるとヒロは現在の状況を分析している。

現実、海兵隊の多くをグアムに移転しているではないか。

そして、多くの日本人には他人事で沖縄の負担や自然などどうでも良いとの思考が

日本人を支配している。ヒロは日本の文化を愛しているが、日本人のそのような部分が本当に嫌いである。先進国では類を見ない低俗な思考だと感じるのである。

アリサが沖縄の海を見て感動し【こんな綺麗な海初めて見ました】とヒロに言う。

マリが【素晴らしいわ。パパこの海を守らないと日本人は恥ずかしい】と訴える。

ヒロは【正直難しいだろう、日本人はバカだから、金でしか価値を考えられなく

なった、低俗国家に成ったのさ、美しい景色や自然、文化、人間性なんか、

金では買い戻すことが、出来ないことを知らない無知な人間に成り下がったのさ】

と嘆く。其の後、美ら海水族館に行きジンベイザメ、熱帯魚、イルカ、マナティ、

海の生物を見学した。帰りにスーパーに寄って帰ると、夕方に海人のゲンが酒と

メバチマグロの刺身を持ってやってきた。

ヒロは田芋とアグー(沖縄豚)で汁を作り、ニンジンシリシリ、車エビの刺身

娘たちのためにフルーツパパイヤを用意した。若い海人はユウが目当てで

やって来ていて、沖縄ジェラートを土産に買ってきたようだ。

マリはこのような賑やかな集まりは初めてでヒロに笑顔を見せて。

【パパはお友達が沢山居るのね】と言う。

ヒロは【任務が殺伐としているから、沖縄とかではせめて、楽しくして

居たいんだよ】と答える。その日、アリサとマリは気が合うのか一緒の部屋で休み、女子トークをしながら休むことに成った。アリサとヒロの子弟として過ごした時間のこと、マリとマリアが魔導士の森で過ごした日々のことなど二人で語り合い親交を

深めるのであった。沖縄での生活は4人に取っても楽しい時間であったが、

ヒロに取っていくつか困ったこともあった。女子3人でヒロに色んな悪戯を

仕掛けてくる。また、マリやアリサがヒロと友歌の恋愛や結婚生活に興味を持ち

色々聞いて来ることだ。勿論ヒロに取って、友歌との時間は素晴らしい時間では

有ったが、娘や弟子に話すことは恥ずかしくて、避けたい。

無難に一緒に食べた料理の事や、当時の戦いの話でごまかす。

沖縄での楽しい時間が過ぎ、東京のユニオンに4人で帰ることになった。

東京では、マリもヒトミの家に一緒に住むことに成った。

ヒトミはマリに対面するといきなりマリを抱きしめハグをする。

そして【貴方のママと私は戦友で親友だったの。貴女に会えると聞いて本当に

嬉しかったわ】と言う。マリは【マリアママから聞いています、ヒトミ叔母様が

居なければ、今のユニオンは無いと】と答える。

ヒトミは【そんな事は無いのよ、マリアさんと、貴女のママの友歌先生がユニオンや私達の恩人なの。科学や人間の真実、本質的な知を与えてくれたから、私たちは

生き残ることが出来たの、マリアさんや友歌さんが居なければ、貴女のパパは死んでお墓に入って居たのよ】と答える。ヒロは【早速、俺の悪口はやめてくれよ、

姉ちゃん】と苦情を訴えると。ヒトミはそれを無視して、マリに【今日は貴女のママが好きだった私の得意料理をご馳走するわ。貴女のママがどんなに聡明で素晴らしい人だったか、色々話してあげる】と言う。

ヒロは普段料理をしないヒトミが作ることに驚くが,黙って、任せることに。

ヒトミの料理はたいてい洋風の料理である。ヒロはそれを洋風かぶれと文句を

言うが、マリのためにヒトミが作ると言うので、受け入れて食べることにした。

今日の料理は魚貝類、伊勢海老や車エビ、ムール貝、スルメイカ、タラなどを使った

ブイヤベースである。ヒトミは魚をさばくことは出来ないため、スーパーの鮮魚で

予め捌いて貰っているのだろう。カモ肉のローストやチーズ生ハムのサラダも作ったようだ。夕食の席で友歌との出会い、友歌が争いを嫌い、ユニオンに訪れたこと。

平和の実現について二人で語り合ったこと。

そしてヒロでさえ、あまり持ってない当時の友歌との写真などをマリに見せて

話をした。ユニオンに理念と夢について語り合った事もマリに話をした。

ユニオンの理念の一つは人間の進化である。そのために必要なのが子供たちの教育である。色んな国で争いや貧困で、親を失った子供たちを育てることを、ユニオンでは

広げようとしている。その子供たちの教育は未来ヘの投資であり、希望だと。

その子供たちの中で優秀な子供を医療、科学、経営、農業、漁業、建築、の多くの

分野で将来のために育てる事をしたいと考えている。そのためには、お金も人材も

更に必要である。マリやアリサにはその志を継いで欲しいとヒトミは訴えた。


第六章

日本での時間が終わり今度、三人が参加する任務は再度アフリカのある国である。

アフリカは未だに多くの国で民族問題や宗教の問題で紛争が多発して

解決出来ていない。

これの発端と言えば、先進国の強引な植民地で民族や土地が分割されたことが

発端だが、その後、独立しても民族間や、宗教の違い、同じイスラムでも、

中東での主導権争いや、宗派の違いなどに影響され、争いは収まる様相を

見ない。

ユニオンは国連やアフリカ支援団体と連携して紛争解決のため平和維持活動

を展開したり、信教の自由を保障しながら、反政府の人々に経済的自立を

援助したり、様々な活動を行っている。

アフリカの多くの国の人が抱える争いの解決は貧困の解消と経済的自立が大きなカギで有ることは間違いない事実です。

ユニオンはその原因と争いの種には資源への依存が絡んでいると考えている

しかし資源はいずれ枯渇します。

それに頼らない自立にはやはり、自然と共生する生産こそ重要であると考えます。

マリアの魔導士会やユニオンが持つ自然科学の知識に基づき、産業開発を一緒に行うとともに、反政府軍と政府軍の軍事的和解に、魔導士とユニオンの軍が動く任務に

ヒロと娘達三人も就いた。

何十年も紛争に明け暮れれば、その国は亡びるか他国に侵略を受けます。

歴史上、数えきれないほどそれで滅んだ国が有るにも関わらず、そんなことが

世界の中で起こっています。

それは結局、富の不公平や貧困の格差が原因なのは明白です。

また宗教はそんな人の心の隙間を利用して、影響力を持とうとする連中も

多いのです。

人間はなんだかんだと理由を付けて自らを守る集団をつくる動物なのです。

ユニオンは科学の力を持って、利益を与える代わりに争いを止めるように説得して、

そこで産業を興して、それを自らの交易の利益に変えることでビジネスとしても

成り立たせるように動いて居るのだ。

そのためには、武力集団と交渉できる軍事的背景も必要になります。

科学力、経済力、交渉力、ビジネスのプロジェクト、あらゆる力を使います。

しかし大切なのは互助の関係を築く魔導士会の人間力です。

様々な根回しをマリア達魔導士会が行います。

そしてヒロ達、武力部隊はその力を保持して進化させる必要が有り

交渉相手にそれを知らしめる必要もあります。

またマリアには相手の重要人物をこちら側に付ける能力いるのだ。

魔導士たちが多くの兵士たちを調略し、部隊から離すことや、武力の弱体化を魔導士たちが行う。兵士たちも闘って死ぬより安定した生活を選びます。

ヒロは魔導士の仕事を過去に何度も目のあたりにしています。

マリアを世界一恐ろしい女と、ヒロが称するのは、そのようなマリアの力を

知っているからです。マリアを怒らせた敵や相手のリーダーが、知らぬ間に裏切りに会い殺されるとか、病気にかかることも、何度も見たこともある。

マリアの魔導士会はユニオンを特別な異才で裏から支える、謎の集団なのです。

マリアもヒロ達に合流して活動する中、4人が食事を共にするときもある。

それぞれの活動の進捗や、これからの活動の報告の疎通を図るためだ。

アリサは【どうして宗教の違いで殺し合いなんかするの?神様って何?】と

質問してくる。

マリアは笑って、【貴女は神様のために死ねる?】と質問する。

ヒロは【そんなことは、俺が絶対にさせない、神様のせいで、人を殺すなんて、

卑怯極まりない言い訳で逃げ口上だ、自分が死ぬのも、相手を殺すのも自分の意思と

責任に置いてするべきなのさ】と言う。マリアがヒロに【立派な心掛けです事】と

皮肉を交えて笑う。

そして【アリサちゃん、これだけは覚えておいて、人は基本エゴイストで、

卑怯極まりない生き物よ、何かするにも言い訳や理由を必要とするの】と言い。

更に【過去の宗教戦争にしても根本は権力者の争いや、利益、領土、国の富や資源の拡大、に兵士や民の命や他国の民や兵士の命を奪う理由として神や正義を利用して

いただけよ】と教える。

ヒロは【本来、人は糞でどんな動物よりも下等なのかもしれない、歴史を知れば

知るほどそう感じることも有る、事実暴力なしで世の中が変わったことが

無いのも事実だ、たまにアホ達は皆殺しにしたほうが良いと感じることも有る

世の中、総じて、どぶ川みたいなものにも見える、特に今の世の中、口では綺麗な事言っているがどいつもこいつも腐りきった奴ばかり、特に綺麗事を言うやつは最悪の糞ばかりじゃ無いか】とアリサに言い,更に

【まだ、自分を悪党と認めている人間のほうがましかもな】とも言った。

アリサが【じゃあ、ユニオンの憲章は嘘なの?先生】と聞くと。

ヒロは【ユニオンの何処にきれいごとが述べている?ユニオンは自分たち自身のために 活動してる、人類や地球を自分たちの身体と考えているだけだ】と言い。

更に【その一部がガン細胞ならば当然手術で除去もする】と言う。

そして【しかし身体を切れば体力は当然落ち、生きて行けなくなる危険を孕む。

出来る事なら自分たちの免疫力で細胞を通常運転にすることが理想だろ?

俺は過去、マリアの恐ろしい術式を目のあたりにしたことが有る、それは

怖ろしい除去手術だった】と言った。

マリアが【何を大げさな、貴方、人聞きが悪いことを娘たちに言わないで】と言う。

ヒロは【例えだよ、例え】とマリアを見る。

ヒロ達ユニオン軍は反政府軍を弱体化すると同時に、反政府の強硬派の軍とゲリラ戦も行ったりすることも有る。

本体が休戦を宣言しても動きを止めない連中には実力を行使して動けなくする

必要もある。

それは政府軍のほうも同じである、政府軍のトップに宣告して密かに武力を削いで

戦えなくする。

夜襲や忍者のような戦いはユニオンの部隊のお家芸だ、ユニオンの科学力を利用して作った武器には人工的に霧を発生させ視界を削ぐ、その他、睡眠効果のあるガスを

使ったりするのだ。

罠を作り相手の陸戦能力を無力化する技術が満載である。

そのためには魔導士たちの集めた情報も重要だ、主力の武器の構造や基地の構造

中には彼らの食料の流通や調達先までも利用する。

政府軍に対して作戦を遂行したのち、アリサがヒロに質問する。

【戦いを収めるのに何故、政府軍の約定を破った方にも攻撃するの?】と。

ヒロはアリサに【無理な過食したら胃や腸に痛みがあるだろ?過食した脳みそにも

痛みを感じさせなければ過食を繰り返す、俺は片手落ちの法治主義と言うものは、

全く賛同できない。テロや武力での改革に賛同するわけではないけど、そこに至るには農民一揆のような理由も存在すると俺は感じるのさ】と言い。

また【江戸時代に農民の一揆が勃発した時、農民には大したおとがめは無かったのを 

知っているか?大半が治政者の不手際や重税治政に対して咎めが有ったのさ 

治政者にはそれくらいの責任が有ると言うことさ、だが今の法治主義は強いものには口を閉じ、結局、公平な捌きなんか無いのさ、俺は個人的に今の法治主義なんか信用しないね】と主張する。

アリサが【じゃあどうすれば良いの?】と聞くと。

ヒロは【勿論、武力衝突は力を使っても止めるべきだけど、その後の合意形成こそが

重要なのさ、法治主義と言っても裁判で合意形成が公平に行われた事は無い、   特に戦争においてな】と答え更に。

【平時の刑事や民事でもあんなモノならば、Aiの裁判官にさせた方がましだと個人的に思ってしまう】と言う。するとアリサが【難しいしくて大変なことですね】と

言う。確かに両者が納得できる解決のためにも結局、両者が生きて行くための

フォローが、重要だと考える人も居るが、現在はかなり少数で呪術の掛け合いの

社会だ。ヒロはユニオンの本領はその後のフォローに有ると言っても過言では無いと述べた。事実、今回も政府軍で休戦を破った部隊に対して、ヒロ達は無力化するための動きを取った。ヒロ達の部隊はその政府の部隊を密かに見張っていた。

ユニオンにはカモフラージュによりあらゆる擬態の装備を施した車両や戦闘服が

有る。マリアは政府のリーダに休戦を破った場合はユニオンは遠慮なく部隊に攻撃をすることをすでに宣言している。

しかし舐めているのか、その舞台が独自に動いたかは不明だが、反政府に攻撃を仕掛けようと動き始めたのを、ヒロ達は察知した。

政府軍のその部隊が完全に無力化したのは一瞬の出来事であった。

まず、相手の兵士の大半に、長距離から一時的に視力を奪うソフト弾を狙撃犯が

打ち込んで兵士を無力化したのち、侵入部隊が武器や装備を破壊する。

そして残った陸兵をヒロ達、特殊部隊が倒して、無力化するのだ。

その政府軍の基地はユニオンが抑えた後、交渉してるメンバーに連絡する。

そこから、マリアの恐ろしく静かな呪いとも言える、恫喝が始まったのだ。

ヒロは何度もマリアの護衛で、その恫喝の場面を見たことが有る。

そして、恐怖とも言える暗示が相手に植えつけられる。

そうして双方の合意を取り付けた後、ユニオンがビジネスを計画し、反政府の人達も

豊かになる事業をユニオンが始めて行く。

勿論物事は単純ではなく、双方の人質や逮捕者の事を全てを上手くまとめる事は

非常に至難の業と言える。

マリア達の魔導士会は、それを縺れた糸を解きほぐす様に、作業をしていくのだ。

戦後処理の事や経済的損出、人の命の損出、多くの不幸を考えれば戦争は

非理性的で、非生産的な破壊行為だ、人間が少しでも知性が有るならば

解るはずなのだが、残念ながら全てをゼロにしてやり直すほうが良いと思える

状況にしてしまうのも人間で有る。

自殺、殺人テロ行為にはそれを行わせてしまう状況を作る周囲に因果が

存在し、それを無くするのは難しく感じる。

しかし、終わりよければと言う言葉もある通り、それを踏まえて

皆が共存して幸せになれる社会を一人一人が責任を持って考え行動に移すしか

改善は無いのである。約一年を要してヒロ達の任務は終了した。

日本の季節は2月を過ぎ、まだ寒いが春を迎えようとしていた。

ヒロとアリサ、マリは日本に帰ることになった。アリサと出会い3年近くが経とうとしている。日本に帰りヒロ達3人は久しぶりに日本料理を食べに娘達と銀座の岡に

出かけた。ヒロにとっては海外のどんな高級リゾートより日本で美味しい和食と

日本酒そして その後、更にスコッチウイスキーと好きな音楽で心を癒す、

これに勝る時間は無い。アフリカの任務中、休日に高級リゾートホテルに行ったことも有る。それなりに外資系の高級ホテルもサービスの良い所も有るし、

ロケーションに拘って金も掛けている。しかしヒロには何か物足りない。

簡単に言えば心のふれあいと、一期一会の人間力だ。勿論ロケーションや自然の景観や高級感も魅力にはなる。しかし接客業がマニュアル化した現在、その人の顔が

見えない物に心が揺さぶられ、又もう一度、来ようと成るのだろうか?

それでその国の文化に触れたことに成るのか?ヒロはユニオンがこれから進めようとするホテル業では違う路線を提案したいとユニオンの事業部にその時提案書を

出していた。岡にはいつもそれが感じられる、これこそ日本料理の基本ではないかと感じるのだ。季節ごとに拘る食材や料理や酒と共に、店とお客との関係、

人間いつまで生きて居られるか解らない。だから来年もここに来たいと思える、

あるいは来週もこの店で楽しみたいと思える、それこそ一期一会の商いだと

ヒロは思うのだ。ヒロがお店に入ると今日は岡の奥さん、

女将さんが出迎えてくれた。

ヒロに【お帰りなさい、ヒトミ先生に聞いていましたけどアフリカでお仕事大変

でしたでしょう】と挨拶してくれる。

ヒロが【女将さんに会うため帰って来ました、この二人は僕の娘です】と挨拶する。

主人の岡が【今日は富山県のクジラの良いのが市場に出ていて仕入れてきました

日本酒は鳥取の十字旭日の純米が合うと思います】と言ってくれた。

その他にヒロは富山産のボタンエビ、肝付のカワハギの刺身、愛媛の産卵前の真鯛の刺身と煮物、フキノトウの天ぷら等、季節の料理を三人で存分に楽しんだ。

食事をしながらの会話で、アリサが【先生は再婚しないのですか?と聞いてくる】

ヒロは飲んでいた日本酒でむせる位、驚いた。店主の岡も驚いた顔を見せて

ヒロを見る。ヒロは【何を急に言い出すんだ、お前たちとの仕事で

そんな暇もないし、そんな予定もないのを知っているだろ】、と答える。

アリサが【私が十八歳に成ったら立候補していい?】、と驚くべき発言をして来る。

マリがニコニコしながら【私、アリサちゃんなら応援するよパパ】とニコニコする。

ヒロが【お前ら大人をからかうのは止めなさい】と言うと

アリサが【からかっているんじゃ無いもん】と言う。

女将がヒロに、【若い娘にモテモテですね、ヒロさんは本当に優しそうだから】と

ニコニコして言う。ヒロはアリサに【お前は大切な弟子で娘みたいな存在だから、

とにかく一人前のエージェントとして育てる責任があるし、お前の父様との約束だ、お前が自立して俺と対等の立場で俺を好きと思ってくれれば、勿論心から嬉しく

思う】と言い。【俺たちの任務は常に危険と隣り合わせで緊張した環境だろ、時には俺もお前もお互いに命を預ける場面は日常的に起きる、そんな環境では種の保存の

本能が働き、特に女性は男性をパートナーとして感じたりする、難しい話だが死に

直結する危険な状況では人を過大に評価してしまう事が多いいんだ】と説明する。

そして【例えは違うけれど、DVの男のちょっとした優しさで、その男と別れることが出来ない女性の話とか有るだろ、俺たちの環境はそれに近い、特に女性は子供を 育てないといけないから、少しでも安心と言うことがキーワードに成ってしまう、

人間の社会性の一つでも有るけど、あくまでも優しさは一面的な部分で多角的に人を判断することをお前も覚えないとダメだぞ】とさとす。

マリが【パパは難しく考えすぎ、パパとママだってそんな小難しい理由で恋に落ちた訳では無いでしょ?パパはアリサちゃんの事どう思っているの?】と聞いてくる。

ヒロが【俺をそう追い詰めるな、そりゃ可愛いし、好きに決まっている、でも今は

アリサはまだ内弟子で俺の部下と言う立場だ、さっきも言ったけどアリサが俺から

独り立ちして、それからの話だ】と言う。マリが【パパったらじれったい】と言って責める。岡が‘【ヒロさんばかりモテてなんかイラっと来ますね】と言い

【アリサちゃんは他にヒロさんの何が良いと思うんですか?】と話を蒸し返す。

アリサは【先生が最強の武人だから】と答えると、ヒロは再度、酒を吹き出しそう

になり【俺は全然最強でも強くも無い、運が良かったのと皆に助けられてタマタマ

生き残っただけだ、事実俺どころか本当に化け物級の武人は世界に五万と存在する、

いずれお前も会うことが有るだろう】と言った。

そしてヒロは【闘って強い事はそれこそ人間としてホンの一面でしかない、俺が武術を身に着けたのもたまたま、俺の爺さんが俺に無理やり武術をさせて、更にロンや

水樹、矢早のハヤメ婆さんに預けられ、シゴキを受けて、戦いでは多くの人の犠牲で

生き残っただけの話だ、それに俺は大学の時、料理人のバイトをして修行して料理人に成りたかったのだ】と答える。

マリが【その話、本当の話だったのパパ、マリアママが冗談で言っていたと

思っていた】と言う。

ヒロが【本当も本当、姉ちゃんやマリアと大喧嘩してグレていたんだから】と笑う。

マリはマリアからその話を聞いたことが有ったが冗談とばかり思っていた。

岡が【それなら、どこか修行先を紹介しましょうか?】と冗談を言うと。

ヒロは【本当か?岡さん、俺四十過ぎたけどまだ間に合うかな?】と返す。

岡は【ちょっと大変ですが人間、死ぬ気に成れば出来ないことは有りません、

七十歳位に立派な料理人に成れると思います】と答える。

3人で岡の料理と酒を楽しんだ後、ホテルの最上階にあるバーで夜景を

見に行った。アリサとマリはその煌煌たる光の渦で輝く、東京の夜景を屋上から眺め

ビックリする。アフリカとのあまりにも違う夜景、勿論アフリカにも高層ホテルは

有る。しかし東京の夜景は異質だ、こんなエネルギーは必要なのか?

マリアやマリ達魔導士は自然と科学の調和した暮らしを森で営んでいる。

勿論、病院や物を生産するため交易のための運搬にエネルギーは必要不可欠だ。

しかし東京のエネルギー消費はマリには理解不可能なほど異質に感じるのだった。

ヒロはバーで、アートベック21年を注文し、娘たちにはノンアルのカクテルの

シンデレラ(パイナップルジュースとオレンジジュース、レモンを使ったカクテル)をバーテンダーに作ってもらった、そしてマリに感じたことを聞いた。

マリは【先進国で教育も受けているはずなのに、なんて愚かなのでしょう。

地球が無限に資源を有するとでも思っているのね】と答える。

ヒロは【そうじゃないのさ、これは中毒なんだ、まずいと解っていても、快楽に

負けてしまう、人間と言う動物の愚かさ、病気だな、本来、知性や理性で考えれば

こんな無駄な浪費が許される訳が無いと理解出来るだろ】と言い更に

【しかし資本主義と言う世界では、金が有れば何でも許される、資源の無駄や贅沢が金を産むシステムに組み込まれていることは、紛れもない事実だ、しかも資源の

リサイクルなどと言う事まで、金を産む産業としてシステムに組み込む、恐ろしい

ほどの傲慢さ、金中毒なんだと思う】と言う。

マリは【でもこれは間接的、未来の人殺しと言える、資源が足りなければ資源の

有る所から強奪し搾取までした歴史を知らない訳では無いでしょう?】と憤る。

ヒロは笑いながら【魔女の弟子なら知っているだろ、人間は都合の悪いことは見えない振りをするのが習性なのさ、自分が死に目に会って初めて気付いたふりをするのが

人間と言うものさ】と答えるのだ。

アリサが【でも先生、化石エネルギーの過剰消費は人類の寿命を短縮することは明白では無いのですか?太陽エネルギーは時間単位では有限ですよね、そもそも

太陽エネルギーは生物の生存のための根源になるエネルギーで、過剰な人間の活動のためだけの物では無いとアカデミーでは教わりました】と聞く。

ヒロは【その通り。突き詰めれば人間は増えすぎたのさ、戦争で人を殺してエネルギーを消費して、その後、復興のためにエネルギーを使い、俺たちは何のために

この仕事をしているのか、考えてしまう事も有る】と言い。

更に【こんな愚かな生物に救いを求める価値があるのか?いっそお互い憎み、

殺し合いで滅んだ方が良い気もする】と言う。

マリは【パパはお酒を飲むとセンチメンタルに成るのね。こんな可愛い娘と綺麗な

夜景を見に来たから?】と聞くと。

ヒロは笑顔で、【そうだな、美人二人と夜景は感情に訴えるのかな】と答える。

ヒロはその時、友歌の事を思い出していた。資源が枯渇して地球まで攻めて来た

星の人。今はどうしているのか?ただ一人、自分を愛して娘を残してくれた人は

無事なのだろうか?娘二人と早めに帰路に就き、家で休むことにしたが、

なかなか寝付けなかった。結局、寝付けにグアテマラのラム酒、

ロンサカバセンテナリオを飲み始めようやく 浅い眠気を覚えた。

このままではアル中一直線だと思いながら友歌や死んだ仲間の出てくる、

訳の解らない悪い夢を見る最悪の眠りであった、深酒は眠りを浅くするのだ。

翌朝、アリサと朝の修行を早朝に行うが、何故か身が入らず早めに切り上げた。

シャワーを浴び家族、皆の朝食を準備していると、ヒトミが今日緊急で会議が

有るから参加するように、と告げて来た。

ヒロが【俺に関係が有るのか?なんか嫌な予感しかしないのだけど】と言う。

ヒトミは【アンタは何でも悪い予感にしてしまう、その思考を改めなさい。

良い予感にするか悪い予感が的中するかアンタ次第だと理解しなさい、

もう良い大人なんだから】と諭す。

ヒロはため息をつき、【どうせ俺はいつまでもクソガキで、短絡的狭視野な人間だ

そんなの自分で一番、解っている、悪かったな出来の悪い弟で、会議には出ますよ】と答える。午後1時から会議がリモートも含め世界のユニオン支部で参加しての会議で有った。アメリカ、ヨーロッパ等は時間的に無理が有るので日本まで来日して参加している。その中にはマリアもわざわざ日本まで来ていた。

この会議はヒロにはやはり良い事には感じない出来事であった。

ユニオン各支部で武力部隊を拡大して行くために、兵士やエージェントを育てる

アカデミーを拡大して行くと言う内容である。ビジネスを有利に進めるにあたり、

武力的な背景も更に必要に成り、多くのエージェントが必要になる。

そのためのビジネスプランや各専門家の教育も拡大する拡大路線である。

ヒロには危険な計画でそのリスクが現場に降りかかる。

ましてや若い子供たちをそれに巻き込むことがホントに許されて良いのか?

勿論若者を教育することは、彼らの安全を図る上で必須なのは事実では有るが。

それが仏作って、魂入れずに成ってしまうのでは無いか?

戦前の日本の富国強兵と目くそ鼻くそだと、感じられてしまう。

何だ?ビジネスを展開するために武力の後ろ盾が必要なユニオンのビジネスや活動が現状上手く行っているのは、過去に異星の人類との争いにより、その科学技術に触れ、水から水素と酸素に変換して半永久的エネルギー循環を可能にするエネルギー

循環システムや、超効率な動力システムを彼らの技術から盗むことが出来たからだ。

元々は彼らの星が、資源不足に陥り、その自然の負荷により、彼らが長年の歴史の

中で進化したものを盗んだ、いわば漁夫の利とも言える。

勿論、ヒロの父やヒトミの夫たち科学者の努力が重要なファクターで有るし、

マリアの古代から受け継いだ魔術からの知恵や魔導士会が人と人を繋ぐ努力を

したことも大きな力で有った。

しかし更に武力を高め、無限に力を求める事は正しいのか?人間がその望みを

達成するため、更に人間に負荷を与え、また力を得たとしてそれが破滅への道に

成ることは無いのだろうか。

そのために若者を巻き込み、戦いを若者に教える事は本当に正しい事なのか?

本来、武とは矛を収める止めるため、そして究極の武は仲間を作り共存共栄を果す

事といつも祖父の源三から言われ、自分の生徒にもその教えを説いて来た。

今、自分はその道を歩いて居るのか?世の中なんか、いっそ滅びれば良いとさえ

感じてしまう。

ユニオンに参加している日本の多くの里の人たちにも負担が増える。

勿論、それに見合う収入は保証されるのは理解してはいるが、金で換算出来るもの

なのか?これでは東京の余分なエネルギー消費となんの違いが有るのかと

感じるのであった。当然、ヒトミやマリアに苦情を述べ、大反対する。

先日自分が関わったアカデミーの生徒でさえ、まだ卒業して2年足らず。

現場で研修をしている最中で、完成したエージェントに成っていると

ヒロは思えない。ヒロはマリアに【そんなの急ぎすぎだ。絶対に無理、育てるのには酒と同じで時間と言う熟成させる時間が必要だ、急げば必ず出来の悪い物が出る、

マリアならそれを解っているだろ】と言う。

マリアは【解っている、勿論じっくり時間をかけて育てるのよ、そのため私達大人が

最大限フォローをして行く、時間を掛けるために、早めにこの計画は進める

必要が有る】と答える。ヒロは【無理な物は無理、だいたい、本当の厳しい戦いを

経験している人間がどれだけ残っているんだ?各里に協力を頼んでも、

数が足りない、その上、実戦経験者は現場もこなす必要が有る、そんな事が可能とは思えない。】と主張する。マリアは【だから、貴方の力を貸して欲しいの、各里にも通じている貴方の力が必要なのよ】と言う。

ヒロは【嵌められた、これは、いつ頃からの規定路線だったんだ?

まだ承諾した訳じゃ無いからな】と言い席を立った。

ヒロは正直、また一人で外に飲んだくれに行きたかったが、娘達を置いて行くことは出来ない。会議の後、娘達とユニオンのスーパーに行き買い出しをすることにした。

二人に【何か食べたい物あるか?】と聞くと、アリサが【今日はお肉が食べたい】

と答える。マリが【パパ、日本のすき焼きって美味しいんでしょ?】と言う。

ヒロは【すき焼きは下手くそが作れば不味いが俺が作れば美味しい】と答える。

【パパのすき焼きが食べたいわ】と甘えてくる。

スーパーで米沢牛と長ネギ豆腐を買う。ヒロの作るすき焼きはシンプルで具を

ごちゃごちゃ入れない。しかも出汁に砂糖を使わないで、たっぷり酒を煮たところにカツオ出汁と酒が一対一になるよう加え、醤油で味を調え、そこで牛肉と具を煮込むだけだ。他に馬刺しの良い肉や、沖縄のヒージャー(ヤギ肉)の刺身、

菜の花とブロッコリーでサラダを作ることにした。

チーズと生ハムを色々買って、ウイスキーのつまみにして酔っぱらう、

つもり満々である。

帰って、シャワーを浴び、食事の支度をしていると、妹のユウや会議からヒトミ、

マリアまでやって来た。ヒロはマリアやヒトミとは目を合わせず、一応全員分の用意をして娘たちを呼んだ。アリサが【私、先生の隣ですき焼きのやり方教わる】と隣に来た。ユウが【アリサちゃん、お兄ちゃんの料理はめんどう過ぎるからマネをしない方が良いわよ】とチャチャを入れる。

ヒロが【お前はそんなだから、結婚相手が見つかる気配も無いんだ】と言い返す。

ユウは【古臭っ、今時そんなこと恐竜の化石でさえ言わないわ。兄ちゃんには再婚は 絶対無理ね】と反撃に出る。ヒトミが【マリアさんが来ているのに止めなさい、

恥ずかしいわ】と二人を止める。

マリが【パパ、すき焼きを作って。早く戴きたいわ】とヒロに言い、

ヒロがアリサに作り方を教えだす。

ヒトミが【その前にビールで乾杯しましょう】と、よなよなビールを冷蔵庫から

持ってきた、よなよなビールは(北海道のエールビール)である。

ヒロは一口ビールを飲み、アリサとマリにすき焼きの説明をする。

ユウやヒトミ、マリアはサラダや馬刺し、ヤギ刺しをつまみながらすき焼きが出来るのを待っている。ヒロが出汁の配分を教え【肉は煮すぎてはダメだ、俺のすき焼きは砂糖は使わない。酒の甘味とカツオ出汁だけであとは肉の甘味で充分なんだ】と鍋奉行よろしく説を唱える。そして肉が薄っすら桜色になると、菜箸で娘達や他の取り皿に取り分ける。そして次はネギと豆腐を鍋に入れて少し煮えてから肉を更に鍋に入れ【後は自由にやってくれ】と皆に言う。アリサが【このお肉甘い】と驚く。

マリも【日本の牛肉はこんな柔らかいのね、半生で食べても大丈夫なの?】と

ヒロに聞く。ヒロはこの肉は【米沢牛と言って特別なんだ、オーストラリアの肉も

最近は良い肉が有るけどすき焼きは米沢牛でこの食べ方が一番だ】と言う。

ヒロはビールを一気に飲み干すと、自分の日本酒専用の冷蔵庫から、

奈良の、みむろ杉の純米吟醸を持ってきてグラスに注ぐ。

マリが【パパは本当に料理人に成りたかったの?】と聞く。

ヒロが【本当だよ、マリ明日からでも俺たちで小さな店でもやるか?それくらいの

蓄えは有るし、いざとなれば為替相場で一儲けくらい出来るノウハウは俺には有るから、何とでもなる】と言う。ヒトミが【この子はいつまで拗ねているの?

子供じゃ無いんだから大人に成りなさい】と注意する。

マリアが【いいのよ、ヒトミさん、ヒロが自分自身で考えるべきことだから】

と言う。ヒロが黙って日本酒のグラスを飲み干し、次は日本酒の代わりに宮崎県の

黒木本店の、はなたれ焼酎の冷えた物を持ってきて、ストレートで飲みだす。

この焼酎は44度の高アルコール度数の焼酎で、それでいてフルーツのような香りがする、酒好きにはたまらない美味しい酒だが、アルコールに耐性が無い人間が飲めば

一気に酔っぱらってしまう。

ユウが【お兄ちゃん、ペース早すぎじゃない?また何か不貞腐れているの?

マリちゃんやアリサちゃんに恥ずかしくないの?】と責める。

【別に不貞腐れては無い、飲みたいから飲んでいるだけだ】とヒロが答える。

マリが【何が有っても私たちはパパの味方よ、お願いだから一人で苦しまないで】

と優しい言葉を伝える。

ヒロは笑顔を見せて【マリは優しい娘だ、ママと性格もそっくりだ】と言う。

ユウが【そう言えば、友歌先生にいつも慰めて貰っていたわね。

友歌先生が居なくなった時なんて、見ちゃ居られない位、落ち込んだり

グレて酒を飲んだり、お兄ちゃんは本当に甘えんぼね】とヒロを責める。

ヒロは【皆の前でそんな話、普通するか?小さい頃お風呂入れてやり、

おむつ換えたりした恩を仇で返すのか】とエスカレートする。

マリアが【懐かしいわね、そんな時代のほうが何故か幸せを感じた。

そのころの悩みさえ懐かしくて愛おしく感じる、会う度にヒロを叱ったり宥めたり

大変だったけど】と笑う。ヒロは【あの頃のことは感謝しているよ、でも少し考える時間をくれ。真剣に考えるから】とマリアに告げた。

ヒロは翌日、アリサやマリを連れて、ある山里を訪ねることにした。

そこは矢早の里と言って仲間のシュウが育った武術の里で、飛び道具や

武器術、暗殺術などで戦国時代から暗躍した一族が暮らす里で、ヒロもそこで多くの

武術を学んだ。源三とそこの長老は武術で縁が生まれ、時には敵対したり

仲間に成ったり、腐れ縁とも言える関係だったが、ユニオンが出来て共存の道を歩み出した。そこの長老はハヤメと言い弓と合気、なぎなた等、武器術の達人であるが

普段はそこの里は林業や農業で生計を立て山の幸の豊かな里である。

里を訪ね兵庫県の日本酒、白鷹の純米酒、と通販で取り寄せたフグの卵巣の酒粕漬けとフグのみりん干し、とらやの羊羹を手土産に持っていった。

ヒロはハヤメに【おばば様、内弟子のアリサと娘のマリです、

挨拶にまかり越しました】と言う。

ハヤメは【なんと、お前が挨拶とは成長した物じゃ、しかし、そのフランス人形の

ように綺麗な娘がお主の娘とは何の冗談じゃ?天変地異でも起ったのかの?】と

皮肉を言う。ヒロは心の中で、このボケババーがと呟くと、ハヤメが

【今なんと言うた?】と心を読んでくる、矢早の里に伝わる読唇術で

心が読めるらしい。ヒロが【御師様が相変わらずお元気で何よりと言いました】と

答える。ハヤメが【思うても無いことを】と言い【まあ上がるが良い】と

屋敷に上げた。ヒロ達が座敷に座ると【しかし二人とも美しく育ったものじゃアリサが駿人(はやと)の娘じゃな、マリが友歌殿の娘か】と言う。

ヒロが【知っていたのか】と言うと、【ワシのとこには色んな情報が入るでな

お主には過ぎた娘達じゃ】と答える。

ヒロが【ここに来たのは少し悩んでいる事がある、おばば様にも聞いて欲しい

ことだ】と言うと。ハヤメは【お主も四十にも成ると言うのに成長しとらんようだのまあ良い二日三日修行しながら自分で考える事じゃ】と言う。

すると弟弟子でユニオンの仲間のシュウが外から帰ってきた。

ハヤメが【良い所に帰ってきた、試しの強弓と鉄の矢を持ってこい】と

シュウに言う。シュウが【おばば様、あんな物で何をするのだ?】と聞く。

ハヤメが【こ奴の修行をするのじゃ】と答えると、【いくらヒロ兄様でも

あれは引けないと思うが】とシュウは言う。

ハヤメは【源三は四十の歳には余裕で引いておった、早いと言う事は無いじゃろう】

と言う。ヒロとシュウに【こちらについてこい】と命じ、裏山に行くと大きな岩が

20メートルほど上にある。ヒロに【この弓と鉄の矢にてあの岩を射抜いてみよ】と言う。ヒロが弓を引いてみると引くことがようやく出来るが安定しない。

それもそのはず、弓力100kgと言う超ド級の剛弓である普通の弓はせいぜい

30位である。しかも矢は金属で作られた非常に重い物であった。

ヒロが【おばば様、うちのジジイならともかく、これを引ける人間が居るとは

思えない】と言うと。

ハヤメが貸して見よと言って、弓を引き切り、しかも矢を岩に貫通させたのだ。

【この馬鹿もんが、弓は力で引くものでは無いとあれ程教えたのに、弓の力に

心が負けるとは、この虚け者が、あの世で源三が泣いておるわ】とヒロを叱る。

ヒロがシュウに【お前は引けるのか?】とたずねると、シュウは【何度も試すが兄様と同じで矢が定まらん】と答える。【どいつもこいつも虚け者ばかりで、わしも死ぬに死ねん、良いかヒロはこれを出来るまで里を離れてはいかん、その間アリサは

シュウと弓美(ユミ)が基本の型式を教えておやり、武の奥義は基本の中に存在することを忘れるで無い、夕餉の支度が出来たら呼びに来るからそれまで弓を引き続けるのじゃ】そう命じて、アリサたちを連れて屋敷に帰って行った。

ヒロは先ず昔にもどり矢を持たず弓を引く練習をした、しかし弓に意識を行き横引きになり、肩に力が入り丹田に気が行かず、気が胸に行った状態で弓がぶれてしまう。

もともと、ヒロは弓矢を得意とはしていない、しかしイザ戦場で弓矢の技術が必要な

ケースを想定して、ハヤメから学ぶことを祖父の源三から課され、

合気柔術を学ぶと同時に基礎的な技術を学んでいた。

源三もハヤメも武の技術には必ず他の武術に応用でき共通するものが有る

という考えで、どこかで、それが役立つことが有るというのだ。

事実、弓矢に催涙ガス弾を付けて夜に敵の基地やキャンプに投下して

敵を制圧できた事がヒロにも経験が有った。

しかし弓を主に修行しているシュウでさえ引けぬ弓を引けとは無理難題とヒロには

思えた。しかし齢七十を超え、しかも女のハヤメに引ける弓を無理難題と諦めるのは

ヒロのプライドが許さなかった。何度も繰り返すうち、なおざりに成っていた部分に気が付き始めた。立ちの姿勢と丹田の呼吸、そして上から下に引き、肩でなく背中で引く感覚である。感覚と言うのは、忘れてしまう物だと思い知らされた。

すると完璧では無いけれど何故か出来る気がしてきた。

丁度、その時アリサがヒロを呼びに来た。【先生、ハヤメ先生がこれ以上やると明日の修行に差し支えるから、今日は風呂に入って夕食にして休むようにと

仰っています】と言う。確かに小指に力が入りすぎたのか、小指に豆が出来て、

これ以上やると豆が酷く成ってしまう、つまりこの豆の出来方では狙いが安定して

いない事が解った。弓が強弓なことで、心を囚われ正しく引けて居なかったのだ。

ヒロは入浴する前にEAA(必須アミノ酸)とグルタミンのサプリドリンクを飲み

明日のため疲労を残さぬように備えて入浴して疲れを取る努力をした。

それを見てハヤメは【何じゃ?そのジュースのような物は?】と聞くとヒロは

【疲労回復のためのドリンクだよ、お師様】と答える。

ハヤメが【若いくせにだらしが無い、昔はそんな物など無くても翌日には回復して

おった、気合と根性が足りんのじゃ】と言う。

ヒロは心の中で、うちのジジイやあんたらの様な化け物と一緒にしてくれるな

と思った。疲労回復のサプリの効果と本来のヒロの回復力で翌日朝から

修行を再開した。ヒロが忘れていた基本を思い出し、矢を持たず、引くことはさまに成ってきた。午後から矢を用い試すことに取り掛かり、最初は当たらないか、

当たっても矢が岩に刺さる程の威力が無かったが、徐々に弓の張力が矢に

伝わりだした。そして翌日、朝、ハヤメの前で試しを行い、見事矢を岩に刺すことが出来た。それを見たハヤメが、【ようやく思い出したか、お主の剛力ならばこれ位出来て当たり前じゃ、弓の修行をさぼっておったじゃろう】と言う。

【常に弓を持てとは言わんがいつ弓が必要になるか判らんのが実戦じゃ、

使わんで済むのが一番じゃが武人は常在戦場それを忘れるで無い】と諭す。

ヒロが【おばば様、それを言うため修行させたのか?】と聞く。

ハヤメが【そう言う事じゃ、お主はバカじゃから、身体で教えねば解らんからの】と言った。ハヤメは更に【お主の弓はまだまだ、源三に比べたら稚拙で未熟じゃ、

源三の弓を超えそれを誰かに託すこともお主の責任と言う事を忘れるでない】と

命じた。

その日の夜は、近所の里の人間が猟で取れたカモを持ってきてくれ、渓流の近くの

池で生かしておいたヤマメと、ユミとマリが山で取って来たフキノトウとヒラタケで、鴨鍋、焼き魚、天ぷら、などで豪華な夕餉となった勿論ヒロが持ってきた

土産も皆で味わった。ハヤメは兵庫の白鷹の純米酒が昔から好きでこれを好んで

飲んでいる。酒を飲んでいるとユミが【兄様、私やシュウ兄様もアカデミーに

協力することに したのよ】と言う。

ヒロが【簡単に言うが弟子に教えるのは、そう安易なことでは無いぞ。

思っているより、気持ちが重くなる。特にイザ現場に出すと成ったら、

心配ばかり増える】と言う。ユミが【やって見ないことには解んないわよ、兄様は色々悪く考えすぎるところが昔から有るのよ、それにこんな可愛い弟子が沢山できたら、やりがいも有るでしょ】と言う

ヒロが【やりがいと、責任は裏表だと言う事を忘れるな】と言うと。

ハヤメがヒロに【解ったようなことを、偉そうに。散々皆に迷惑をかけて来た

お主が】とヒロを皮肉る。すると、アリサが【ハヤメ先生、ヒロ先生は厳しいけど、本当にアカデミーの教え子を卒業後も気にかけていて、みんなに、定期的に連絡したり、所属部隊に様子を聞いたりして弟子を大切にしてくれています、私は先生の生徒で良かったと思っています】とハヤメに言う。

ハヤメが、【お主は本当に恵まれている、弟子たちにも、周りにも感謝せい、

このような縁もお前の祖父源三や、父親、姉のヒトミ、マリア殿、死んで行った

仲間あっての事じゃ、それをユメユメ、忘れるでない】と言う。

ヒロは黙ってハヤメを見つめ、源三とハヤメはどのような縁(えにし)で出会い、

どのような武縁で結ばれたのか、そう思っていると。

ユミが【兄様は再婚は考えて無いの?】と聞く。

するとアリサが【先生はモテすぎて、迷っているんです】と答える。

ヒロがアリサに【師匠をからかうんじゃない】と頭を軽く指で押して言うと。

アリサが【だって、チヅルちゃんがいつも先生の事、私に聞いて来るもん】

と答える。ユミが笑いながら【兄様、モテモテね、人生最後のモテ期じゃないの?】

とからかって来る。

ハヤメが笑顔を見せながらも急に真顔で【良いか、この様な日を続けるために

戦場では死力を尽くし皆で生きて帰るのじゃ、目上の人間より先に行くような不幸を

してはならん、忘れてはならんぞ】とヒロに言う。

ハヤメも多くの弟子や師兄弟を戦いの中で失った、生き残った者はその思いを一生

背負って生きて行かなければならない、その苦しみをハヤメは何度も

経験しているのだ。ヒロはユニオンに帰り、正式にアカデミーの件を引き受けることにした。ユニオンでは世界各地にアカデミーを作り、日本でもアカデミーを拡大し、生徒も教師も増やすことに成った。そのための費用や人材をマリアはどのように集めたのか、その錬金術や人材の発掘はヒロにも謎が多い。

これからそのような人材との出会いも有るであろうが、そこには不安も残る。

マリアの率いる魔導士が世界中を歩き信用できる人材を見極め集めて来るの

であろう。つくづく底の見えない集団である。

















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愚才な武人と天才少女たちの魂の伝承 不自由な新自由主義の反乱児 @tbwku42263

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