友人課税なんて聞いてない!

ちびまるフォイ

話があって、リラックスできればみなトモダチ

「なんかすっごい身に覚えのないお金が引き落とされている……」


通帳に刻まれた「コクゼイキョク)カゼイ」という文言。


物価高騰にギャンブルの敗北。

火の車の家計にさらに追い打ちをかけるのかと市役所へ直談判。


「ああ、これは友人課税ですよ」


「え?」


「友人課税。友人ひとりにつきXX円のお金が徴収されます」


「なんで!?」


「まあそういうものなんです」


答えは市役所での開幕5分で片付いた。

問題はぜっさん大炎上中の家計に大ダメージを与えているということ。


ここは心を鬼にして決断するときだと思った。


「……というわけなんだ。お前のとの友情はこれっきりだ」


「小学生の頃からの付き合いじゃないか!

 たかだか友情が課税されただけで終わりにするのか!?」


「金の切れ目が縁の切れ目ってことさ」


「課税された金額以上の価値があるだろう!?

 友情はプライスレスだぞ!?」


「値段がつかないってことは、無価値ってことさ」


年末も近いので友情の大・断捨離セールが実施された。


納得いかないと反発するもの。

残念そうに去っていくもの。

むしろ喜んでくれるもの。


反応はみなそれぞれだった。


やがて友達はすべていなくなり、通常に刻まれる課税もなくなった。


「ああ、これで穴はふさいだぞ。

 もう友情で税金取られることなんてなくなる!」


これからは悠々自適な暮らしができる。


せっかくだしこの記念すべき日に自分へのご褒美をと、

近所の家電量販店でデカめのテレビを買った。


「こんな大画面で映画がこれから見れるなんて!

 いやぁ、友情を切ったら自分の生活が向上するのか! わっはっは!」


テストも兼ねてテレビを付けた。

ちょうど大統領の発表によるニュース速報が流れていた。


『これまで友人課税でお金をとっていましたが、

 これからは友人補助金を出したいと思います』


目からウロコが落ちた。


『大統領! それはなぜですか! どうして急な方針転換を!?』


『友人課税をしたことで個が成長すると思っていました。

 しかし結果は逆。むしろ個人の生産性は落ちました。

 やはり人間には他人との関わりが必要だと気づいたのです』


その先を見るのが怖くなりすぐにテレビの電源を消した。


「ゆ、友人補助金……」


いましがた絶交の連絡をしたばかり。

もし絶交してなければ補助金がもらえたのかもしれない。


ここは恥をしのんで謝りにいくしかない。


だって前までは友達だったんだから。

きっと許してくれるはず。


玄関の前で土下座する自分を見て、かつての友人は断言した。



「いや無理」



「友達だったのに!?」


「お前が友達を切ったんだろ。金ほしさに」


「それは……」


「んで、お前は今も金ほしさに友情を温めたいと?」


「目が覚めたんだよ!」


「お前は友達をなんだと思っている。

 俺はお前の集金装置じゃない。ほかをあたれ」


「ほかを当たってみんなに同じことを言われたんだよぉ!」


「なら理解しろよ!」


お金を理由に断ち切った縁を、お金を理由に復活はできなかった。


たとえそれにより双方に補助金が入るとしても。

友情をお金で勘定することに抵抗があるのだろう。


「いいもんいいもん。今どき友達なんてネットでいくらでもできるんだ……」


次に頼ったのはSNSだった。

自分と同じようにお金に困っている人は多いらしく、

友達じゃないけれど補助金目的で友達になろうとするグループは多かった。


時間を合わせて近くのカフェで落ち合うことになる。


「あなたが〇〇さん?」


「あ、はい。どうも……」


「それじゃこれから友達で」

「え、あ、はい」


「友達なんてタメ口でいいよ」


「あうん……」


どこかお互いぎこちない。

それに友達と一緒にいるときのような安心感もない。

まるで上司といるような居心地の悪さ。


「それじゃ補助金もらいにいこうか」


「あ、は……じゃなくて、うん」


市役所に行くと速攻で断れた。


「駄目です。友達じゃないでしょう? あんたたち」


「何を言ってるんですか。友達ですよ!」


「友達歴はどれくらい?」


「えーーっと。数日。でも時間じゃないです!

 友情ってのは時間じゃなく質ですよ!」


「口ではどうとでも言えますが、

 この友情センサーの前では嘘はつけませんよ」


「な……なんですかそれ……」


「友情センサーがあきらかにしてるんです。

 あなた達はストレスをお互いに感じている。

 けして友達ではない。リラックスしてないんですよ」


「そ、そういう関係もあるでしょうよ!

 あなたに俺達の友情のなにがわかるっていうんですか!」


「あなたみたいな人多いんですよ。補助金目当て。

 お金がほしいなら友達を作る努力くらいしてください」


「それがわからないから困ってるんじゃないかぁーー!!」


市役所では門前払いされて認められなかった。

ネットで適当に見繕った友達なんて友達じゃないことくらい

機械でもわかってしまうほどにダメダメだった。


補助金はもらえず、友達は失う。

孤独にさいなまれるだけの時間が戻った。


「はあ……どうすれば友達できるんだ……」


そもそも友達ってなんなんだ。

なにを満たせば友達になるのか。

一緒にいて居心地のいい人間って誰だ。


「俺の理想の友達……。

 趣味が同じで、価値観が同じで、地位立場も近い。

 話があって、変に緊張しない人間……」


自分の友だちに必要な条件を書き出していく。

その条件をみたとき、確実に満たせる人間がいたことに気づく。


「ああ、わかったぞ。いるじゃないか! 最高の友達が!!」


研究機関に依頼をし最高の友達ができるまで時間がかかった。

ふたたび市役所を訪れたのはそれからしばらく。


「どうですか!? これが俺の最高の友達です!」


「は、はあ……」


「友情センサーは? ほらね。完璧だ。

 お互いに完全なリラックス。なんのストレスもない。

 それに話も合うし、趣味も同じ。最高の友達ですよ!」


「そりゃ……そうでしょうね」


「もうこれで反論する余地はないはずだ。

 さあ、ここにいる俺の友達の人数ぶんの補助金をください!!」


その言葉に市役所の役人は顔を曇らせた。


「ひとつだけ、いいですか」


「聞きましょう。疑いどころなく友人のはずだ!」


自信満々の自分に対し、役人は困った顔で最後に答えた。




「自分のクローンを作って、それを友達だと言いはるんですか?」




「「「 当たり前でしょう! 」」」


数百体の自分たちは声をそろえて答えた。

この一致団結っぷりも友達のなせる技だろう。

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