新入部員


愛澤さんを連れて文芸部に向かう。部室の扉を開けると、すでに先輩が待っていた。


「お客さんか?君、部員にならないか?」

篠崎先輩は真顔で言う。すぐ誘うなこの人は。会ってすぐだぞ!


「はい!部員になりに来ました! 愛澤えみりです! なんだかすごく楽しそうで、もうワクワクしてます!」

元気よく名乗る愛澤さんに、先輩は目を細めた。


少し顔を寄せてきて、俺にだけ聞こえる声で話しかける。

「おい。この子、橘くんの彼女か?へえ…意外と派手系が好みなんだな」

そして視線を下げ、大きな胸を見てから、まるで何かを悟ったかのように呟く。

「D…いや、Fはあるな…」


俺は咳払いをして言葉を遮った。

「彼女は部員になりに来たんです。入部届け、お願いします」


篠崎先輩が渋々と手続きを始めたその時──

「やっほー!来たよー!神崎れいな先輩だよぉー!」

明るい声と共に、神崎れいな先輩が勢いよく部室に入ってきた。


「こんにちは!よろしくお願いします!」

愛澤さんが笑顔で挨拶をする。


れいな先輩の瞳がキラリと輝いた。

「え! 誰? かわいいー! 私、かわいい女の子大好き♡ ねぇ、パンツ何色? 何カップ? ちょっと揉んで──」


「いい加減にしろぉー! 先輩!!」


俺は慌ててれいな先輩を止めた。


「は、はい…」

不満げにしながらも一歩下がるれいな先輩。


愛澤さんは頬を赤らめながらぽつりと呟いた。

「白、ですけど…」


俺の心臓が跳ねる音がする。


篠崎先輩が疲れた声で言った。

「さあ、入部届けを出しに行くぞ」


愛澤さんが微笑む。

「はいっ!」


一行は部室を後にした。廊下を歩いている時──不意に愛澤さんの腕が俺に触れる。柔らかい感触が一瞬、はっきりと腕に伝わった。


「ごめん!当たっちゃった!」


「い、いや、大丈夫!」

心臓がさらに騒ぎ出す。


れいな先輩が振り返り、にやにやと笑みを浮かべた。

「青春だねぇ、橘くん♡」

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恋する左目、封印中 @shioshio19

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