愛澤さん



この部は廃部するかもしれない。

文芸部は、俺を含めてたったの三人しかいない。

しかも顧問がいない。

そんなことを考えていると、気がつけば昼休みになっていた。


「橘くん! 一緒にご飯食べよ!」


背後から名前を呼ばれ、肩を叩かれると同時に心臓が跳ねた。

えっ!? なんだ!?

急に女子に話しかけられると、体がすぐに硬直してしまう。


「だ、大丈夫?息止まってない?」

彼女は不思議そうに顔をのぞき込む。


その瞬間、視界いっぱいに近づいたのは、胸元の──。

くっきりと開いた制服の第二ボタンから、柔らかな谷間が見える!


心臓が爆発しそうだ。


「わっ!」 反射的にのけぞった拍子に、机に手をぶつけてしまう。

「あたっ…!」

何も言わずに息を整えようとする俺に、彼女はニコッと笑って手を握って言ってくれた。

「なんか顔赤いけど、寝不足? 大丈夫?」


「だ、大丈夫です! なんでもないです!」


えみりはくすくす笑いながら席につく。

彼女は愛澤えみり。金髪をゆるく巻いた髪、ちょっと濃いめのメイク、スマホや筆箱はデコりまくり。

見た目だけなら完全にギャルだけど、運動神経は抜群で、誰にでもすぐ声をかけられる天才的なコミュ力を持つ。

クラスの中心で、スクールカーストのトップに君臨する存在だ。


──俺とは、住む世界が違う人。


でも、廃部を防ぐためには部員を増やさないといけない。

なら彼女を誘ってみるか?


「…なあ、愛澤さん」

俺は意を決して口を開いた。

「俺たちの文芸部に入らないか? 人数が足りなくて、廃部になりそうなんだ」


「ふーん」

彼女はお弁当をつつきながら、少し考えるふりをする。

「で、私が入るとどうなるの?」


「きっと、すごく楽しい部活になる…はず!」


「…面白そう!」

彼女はパッと笑顔を輝かせた。

「いいよ!」


「ほんとに!? ありがとう!」


彼女の笑顔は、まるで太陽みたいだった。


…文芸部はまだ、終わりじゃない。

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