ノワールランク

津城しおり

プロローグ

そもそも、クローズドサークルのミステリーにSF要素なんて必要ない。とりあえず、クローズドサークルに閉じ込められた人間は十分な動機があれば、いとも簡単に人殺しをしてしまう。それに、このゲームのルールみたいに人殺しがバレてはいけないという条件が生まれると必然とトリックなどといったものは殺人隠蔽の過程で生まれる。道具ツールのようなものは蛇足だ。そんなものも要らない、ただクローズドサークルで生まれるトリックが見たいのなら。まあ、どんなものか見てみないとわからないけど。それが犯人解明において、ヒントを与える存在になるのだと言えば、まあ許容範囲かな。


俺は端末のメール受信ボックスに送られた能力開示のメールをタップした。すると、そこには青色のURLがあった、さらにそれをタップすると、画面が真っ黒になった。

そして、流れるように白い文字が現れた。


「なるほどな」


ふむ、そういうことか。道具ツールというのはこういうものか。相当タチが悪く、悪趣味だ。最初に部屋にあった置き手紙のようなものも、これを暗示してたのか。


「師匠っ、あの私これどこ押せばいいんですかね?」


機械音痴の花神かがみは端末を俺に渡した。

「このメールのアイコンをタップするんだ。それで受信一覧を押すと、これ出ただろ?さらにこれをタップしたら、青いURLが出る。それをタップすればいい」


「ゆーあるえる?」


「はあ、アルファベットが羅列した青い文字のことだよ」


「あっこれか!」


URLを花神がタップすると、画面は俺の時と同様に真っ黒になった。

しかし、白い文字は浮かび上がらない。


「あれ?文字が出てこないな」


「あー、師匠もです?私も師匠のやつ見れなかったんですよ」


「なるほど、スマホを覗き見することはできないのか」

これで人のスマホを奪って能力を確認し、得点を稼ぐという方法は不可能になったわけだ。


「すみません、すみません。ていうか、これどういう意味かわかります?」


花神は端末の画面を指差した。


「あっ、見えないんでしたね。読み上げます。

『Hyperthymesia』あなたは決して忘れない」

Hyperthymesia…なんだそれ。決して忘れないということは完全記憶ということなのか?


「なんだそれ?どういう意味かわかるか?」


「超記憶ではないですか?」

超記憶。やはり、完全記憶のようなものか。俺みたいなやつだけじゃなく、ただ推理に役立つ能力というものがあるんだな。


「てか、よくそんなもの知ってるな」 


「なんとなくです」

流石、国際系の学部に所属していることだけのことはある。


「ふーむ。超記憶となると、まずはこれを試してみよう。https……」

俺はURLを読み上げた。


「はい、俺はなんて言った?何も見ずに答えて」


「https……」

花神が読み上げるURLは俺が読み上げたやつとしっかりと照合していた。


「あっ、なんで私こんなにスラスラと言えるんだろう」


「間違ってなかったぞ。やっぱり、ツールは本物だ。つまり、これから見聞きすることは全部覚えられるし、忘れることはない。これは使えるぞ。俺と花神の記憶力が合わされば、こんなゲームなんていとも簡単に攻略できる」


「あっ、あの!先輩のその、ツールはなんですか?」

ここで教えたらあとで、自分が不利な状況が生まれるかもしれない。でも、信頼関係のためだ仕方ない。


「俺のツールは⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎だ」


「え、えげつないです」

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ノワールランク 津城しおり @Shiori40888

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