裏切り

「あはッ…あんな一瞬で二人とも撃ち抜いてくるから、どんな凄腕かと思ったけど…ぜんぜんザコじゃんッ!」

「が………っ…ォ……………」

「どうしよっかなぁ…このままこのナイフ引き抜いて、喉かっ切ってあげようか!?覚悟はできてるよねぇ!?」


真っ白な雪の上に…真っ赤な色が咲いていた。

私がナイフを突き立てた部分から、その色は咲いていた。


うん、ちょっと焦ったけど、ぜんぜん大したことなかったな。

撃たれたのが腕でよかった。足が一本あれば人なんて簡単に殺せる。


さて、どうしようかな。ライルを傷つけた罰を与えなきゃ。

最大限苦しい方法で殺してやりたいけど…スパイなら、やっておくことってのが一つある。


「ちょっと聞きたいんだけど…あぁ、喋れないだろうから頷くか首を振るかだけしてくれたらいいよ。聞くこと聞いたら、応急処置でもしてあげる。」

「……………」

「…わかったぁ?返事してよ。行儀悪いなぁ。」

「………ッ!?」


私はナイフをぐりぐりと動かした。男の顔面がみるみるうちに蒼白になってゆく。

首から湯水のように鮮血が噴き出してくる。寒さでかじかんでいた手には心地いい温かさだった。


「単刀直入に聞くけど………」


「この指令は、私たちの組織からもらったんでしょ?」


私がそう聞くと、男の目は驚いたように見開かれた。

図星か。なんとなく気づいてはいた。

だってまだ施設に潜入すらしてなかったのに、私たちの位置はバレていた。

スナイパーを配置するのは、

つまり誰かが情報を漏らしたのだ。


「答えて。誰から命令されたの?私たちのチームの誰か?それともボス?」

「…………………」

「ねぇ。答える気、ある?」

「…………」


男は、ピクリとも動かなかった。

灰のように濁った眼で私をにらみ続けている。


だんまりを通すつもりか。だったらいいさ───もっと激痛を味わわせてやる。元からそうするつもりだったし。

私はそう思って、もう一つのナイフをポケットから取り出そうとした。

そのとき。


男が───顔を思い切り右に逸らした。

当然、ナイフが喉に突き刺さったまま。


雪の上にひときわ大きな赤い花が咲いた。

私はぼうぜんとそれを見つめていた。


(…………自害した?そこまでして知られたくなかった秘密が…?)


胸の中にもんもんと黒い闇が広がってゆく。

態度から見て、裏切り者がいるのは明白だ。

しかも、私たちのチームのうちの誰かに。


「エリス…スナイパーとやらはもう倒したのか…?」


ふと後ろから声をかけられて。

私はバッと振り返る。

そこにはライルの姿があった。

意外と軽傷だったから、ちょっと治療すれば元通り動けるようになったのだ。

ライルは倒れたスナイパーを見つけて、驚愕の表情を浮かべた。


「…え?そいつ…まさか、例のスナイパーか!?まだ息はあるのか?」

「いや。もう殺したよ。尋問してたんだけど、こいつ全然───」


私はそこまで言いかけて。すぐに口を閉じた。

なぜだかこれは、言ってはいけないことのような気がしたから。


「………わかった。世話かけてごめんな。お前に任せっきりにしてしまうなんて、不甲斐ないよ…」

「ううん。そんなことない。死ななかっただけでも偉いよ!」

「な、なんだよその励まし…」


ライルはちょっと戸惑ったような表情をしていた。

私はそれを見て、ついついおかしくて笑ってしまったのだった。


───しかし。


”裏切り者”


私の胸の中には、その言葉がずっと突き刺さったままだった。

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いちばん大事な君を刺す。 ~ナンバーナイン~ ジャコめし @Jaco-meshi5555

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