1人死んだ

「え…っ…ラ、イル…?なんっ…」


1拍遅れて私は絶句する。

目の前には、赤く染まりゆく雪に沈むライル。肩の辺りから赤いものがどくどくと流れていく。

それを見て、私は。

すぐに───その場からバックステップした。

しかし、遅かったようだ。


「い゛ッッッ!?」


左腕に、激痛が走った。鮮血が雪に飛び散る。痛みに視界が白黒になる。

まるで、『次はお前だ』と言わんばかりのように。

これこそライルを襲ったものの正体だろう。

間違いない…私たちは、スナイパーに狙われている!


***


「ちっ…急所は外したか…」


少女達からすこし離れた、丘の上にて。

ある男はそう呟いた。

彼はコートを着た細身の男だった。それだけ見れば普通の人間に見える───しかし、スナイパーライフルを抱えていて、雪の上に敷いたシートに伏せている点を除けばだが。


(二人組のスパイを殺せって指令だったが…まだ子供じゃねぇか。こんなやつらまで戦争に使わされるとは、落ちぶれたもんだな…)


男は少しだけ、瞳に悲愴の色を浮かべた。

しかし…再びスナイパーを構え直す。

彼はプロの暗殺者だ。情に絆されて、仕事を放棄するわけにはいかない。


男は深く息を吸った。これは彼が人を殺す時の、ルーティーンだった。

照準を少女の心臓の部分に合わせる。さっきは避けられたが、今度こそ絶対に当ててみせる。

それにここは障害物も何もない雪原だ。狙撃には絶好のポジション。逃げ場なんてどこにもない。加えて彼女は左腕を損傷している。

こんなもの、楽勝だ。

男はトリガーに指をかけた。


「…今度こそ、死ね。」


冷たくそう呟いて。

人差し指を、引く。

雪原に破裂音が響いた。


「…なに!?この俺が、またハズしただと…?」


しかし銃弾は───少女には当たらなかった。

それどころか、彼は信じられないものを見た。

銃を撃った瞬間に…少女がのだ。

ターゲットの急な動きに、男はうろたえる。

しかし、彼はすぐに少女を発見した。

…いや、見つけた。彼女はさっき立っていた場所から5メートルほど離れた場所に立っていた。

この一瞬で、どうやってあそこまで移動したんだ…?

男の目には瞬間移動したようにすら見えた。

彼は息を飲む。しかし戸惑っている場合ではない。

彼は素早くコッキングし、再度弾丸を放った。


その瞬間。

少女が…再び消えた。

男は息を飲んだ。少女が消えたからではない。突然消えたトリックが───わかったからだ。


少女は、風になっていた。

風のように速く…はしっていたのだ。速すぎて、目で追うことすら難しかった。

彼女まるでチーターのように姿勢を低くして駆ける。ただ、走ることしか頭にないかのように。


「なんだあの速さ…!?本当に人間か!?」


彼は慌てて狙いをつける。しかし…少女の動きはさらに鋭敏になった。

蛇行しつつ、確実に迫ってくる。左腕から垂れる血をまき散らしながら。

彼女は二度、三度と放たれた銃弾を次々とかわし───

気がつけば完全に視界から消えていた。


「どっ、どこだ!?どこに消えて───」

「………消えてなんかないよ、スナイパーさん。」


すぐ近くから、声が聞こえて。

彼が驚いて振り向くと。

───目と鼻の先に、少女の無邪気な笑みがあって。

それに驚きの声を上げる間もなく。

男の喉に───ナイフが突き刺さった。

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