エンタメが消えた理由

温故知新

エンタメが消えた理由

 かつて、この国には『エンターテインメント』と呼ばれるジャンルがあった。


 娯楽や催し、演芸や余興などを通して見ている人を笑わせたり、喜ばせたり、感動させたりして、人々を明るい気持ちにさせるものである。


 それは、誰かの夢になったり、誰かの生きる糧になっていた。


 しかし、急速な時代の流れにより、人々を楽しませていたジャンルは、いつしか人々を不快にさせるものへと変わってしまった。



『不倫した芸能人を使うな!』

『逮捕された人を番組に出させるな!』

『偏見発言やめろ。寒いだけだから』

『この番組のプロデューサー、セクハラで有名らしいから打ち切って欲しい』

『老害共が作る番組なんて面白くないから止めちまえ!』

『物価高の時代にライブやイベントをするなんて前時代すぎる! 今はコスパとタイパの時代なのだから全て止めるべきだ!』

『花火とかイルミネーションとか、環境問題が叫ばれている時代に自ら環境汚しに行ってるの意味が分からん』

『花火とかライブとかイベントとか、騒音最悪だから全部止めて欲しい。そういうの、今の時代ではただの迷惑だから』

『何でまだ人が集まらないイベントやってるの? ただの時間と金の無駄遣いなのが分からないの?』

『この歌手、まだ生きてるの? さっさと消えて欲しい』

『このバーチャル配信者、見た目と中身の性別が違うから嫌い』

『この配信、何が面白いの? 運営に通報しよ』

『この歌、暴行罪で逮捕された人が出演しているドラマの主題歌だよね? 公の場で歌うとか頭おかしいんじゃないの?』

『このドラマ』

『今のエンタメつまらんし、コスパとタイパが悪すぎる。さっさと滅びろこんなジャンル』



 花火やライブやイベントやイルミネーションをする度に。


 テレビや配信でバラエティー番組や音楽番組などが放送される度に。


 SNSに書き出される有象無象の悪意に、エンタメに携わる人が居なくなった結果、ジャンル自体が消滅してしまった。


 けれど、人々は何かを見て笑ったり楽しんだり、日々の糧になるものが無くなっても、何も思わなかった。


 だって、急速に変わる時代に、そのジャンルは消えるべくして消えたものだと思っていたから。


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