第2話 家族の食卓

貴族の子息や子女が通う名門の学園。剣術や学問でも一流の講師陣が揃う。そこに通うエッティンゲン家の三男(末息子)が俺だ。


当然の事ながら屋敷は広いし、メイドやらもいる。その日当たりのいい角部屋の大きなベッドで横になっている。


「ふぅ…」


半身を起こして水を飲みながらレースのカーテンを少し引くと、緑が眩しい庭と隣のゾンダーブルク家の屋敷が見える。フリードの家だ。


自分は家で過ごす事が多く、週の半分外出出来ればいい方だが、彼は活動的に過ごせているのが羨ましい。転生前の記憶は無いに等しいが、これ程病弱ではなかったのではと思う。




一一一ス

一一


「クラウス、起きれる?」


「うぅ…あ、兄さん」


長兄ヴィルヘルムではなく、次兄のヘルマンだった。仕事で忙しい長兄とはあまり話さないが、次兄のヘルマンは年も三つ違いで近いためよく話す間柄だ。


「熱は無いみたいだね」


「うん。咳も治まってるから、皆と食事するよ」


「無理しなくてもいいのに」


「大丈夫」


厳つい雰囲気のヴィルヘルムとは対称的な優しい顔立ちのヘルマンは、声音も穏やかだ。彼には素直に話せている。転生した幼児期から頼りにしている相手だ。


自室のある棟から、食堂のある棟へ移動する。まだ眠りたかったが、せっかくヘルマンが来てくれたのだからと先を急ぐ。


「さっき、隣のフリードが寄ってくれたんだけど、よく眠っていたから帰ってもらった」


「あぁ、そういえば言ってた。来るって」


フリードは有言実行タイプなのだろう。それとも暇なのか。


「やっぱり薬が合っていないんじゃないかな」


「どうだろう」


ヘルマンと話している内に食堂に着いたため、長いテーブルの端に腰かけた。自分が揃うまで待たれていた様子に緊張したが、間もなく食事が運ばれてきたのだった。


父親とヴィルヘルム、ヘルマンは話に入っており、彼らの母親も和やかに微笑んでいる。自分の母親だけは既に他界しているそうなので、こんな時は手持ち無沙汰だ。


黙々とナイフとフォークを動かしているが、徐々にペースが落ちてきてしまう。ヘルマンがちらりとこちらを見ると微笑む。


「食べられそう?」


「全部は無理かも」


「そっか」


体調がわるい際は部屋で食べているので、こういった扱いにも慣れて入る。病弱な息子等、父親の眼中にはないのだろう。


三人の会話に入れはしないが、たまに笑う笑い声にあわせて笑ってみるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

病弱なモブキャラに転生しました Kanon @harui1883

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画