病弱なモブキャラに転生しました

Kanon

第1話 病弱なモブキャラ

『ここから見る景色の中にはいつも君が』


「だめだ。書けない」


紙を丸めていると、背後から足音が近付いて来たため慌てる。スマホの無い世界ではラブレターを書くしかないのに、恥ずかしさが勝る。


「フリード」


「クラウス、またここにいたのか?いったい何がある?」


友達でもない、確か隣家のフリードリッヒだった。この世界のヒエラルキーの中でもトップオブトップ。主要キャラクターである。


「何でもない。お前には関係ないし」


「ふーん。今日は学校来れたんだな」


目線は自分より拳一つ以上は高く銀髪、凛々しく整った目鼻立ちと長い手足を持つ彼は目立つ。一方標準身長で病弱、神経質そうな顔立ちのキャラクターの自分は、モブ扱い、よくて主要キャラのマスコットか。


何でこんなにエミリアが好きなんだろう


こうして歩いている彼女を見ているだけで、ため息がでる。もちろん美人なせいもあるが、遺伝子にインプットされているレベルだ。物語の中だからか。見つめていたとしても、おそらくフリードにはわからないだろう。歩いている人間は大勢いるからだ。


行っちゃった


「何か用?」


エミリアの金色の髪が網膜に焼き付いている。幸せな時間を遮られたので、やや苛ついてしまいそうだ。


「用が無いと来ちゃだめなのか?」


「一一別に。だめじゃないけど」


「ならいいだろ?」


「早く授業に戻れば?…ゴホッ」


「大丈夫か?」


「大丈夫。放っといてくれ」


惨めだ

自分の体すらままならない


「放っておけないだろ。馬車を呼んでおくからここにいろ」


「あ、いいのに、、お節介め」


フリードが走って去っていくのを見送りながら、ベンチに座る。




前世で何らかの事情で死亡した俺は、この物語の世界に転生した。物語の中と気付いたのは、キャラクター紹介のページを見た記憶があったからだ。あらすじも、本の内容も覚えていないのに不思議ではあるのだが。


同じ学年の美少女のヒロインであるエミリアに恋い焦がれている病弱なクラスメート、という設定からはみ出る事はなくそのままだ。それがいいのか、悪いのかわからないが彼女を見るだけで幸せで満たされるようになっているのだ。初期設定なのかもしれない。




「クラウス、歩けるか?」


「うん。ごめん」


肩をかりながら歩く。周囲の視線が気にかかり、見渡すと遠くの方から笑い声が聞こえた気がした。


「また寄るから」


「え、何処どこに」


「お前の家。隣だろう?わすれたのか?まさか。はは」


「忘れてない。わっ、髪型崩れるだろ!」


「良かった。元気そうだな」


嘘だ

忘れてた


髪をくしゃくしゃとかき混ぜられたので少し怒ると、笑いながら走って逃げていった。








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