第2話 山猿の伊東秀章やって来た

「はい、伊東鍼灸院です」

「伊東と申します。初診です。治療予約をお願いします」

「ご希望のお日にちを教えて下さい」

「9月24日の10時は空いていますか?」

「少々お待ち下さいね…はい、空いてますよ」

「あ~良かった。予約お願いします」

「ご予約承りました。ざっくりで結構ですので症状を聞かせて下さい」

「夜中と早朝に起きてしまい、仕事中、眠くて仕方ありません」

「分かりました。院⾧に伝えておきますね。気をつけてお越し下さい。どうぞお大事に」

と私は電話を切った。


「こんにちは、予約した伊東です」

と新患さんが入って来た。

「こんにちは、どうぞお入りくださ…」

というところで私は息を飲んだ。

「伊東秀章だ」

と私は心の中で叫んだ。

俳優の伊東秀章本人が治療に来た。

私は高鳴る胸の鼓動を押さえながら

「ああっ、すみません。どうぞお入り下さい。そこでスリッパに履き替えてください」

と言った。

「わかりました」

「わかる範囲で結構ですので、この問診票にご記入お願いします」

「はい」


そんなやり取りをしているうちになんとか胸の高鳴りが収まってきた。

まさか山猿の伊東秀章が来るとは思わなかった。

伊東さんも

「俳優の伊東秀章です」

と言って予約はしないか…と自分のあわてふためきを反省した。


鍼灸師の伊東秀章は問診の後、山猿さんの治療を始めた。

主人も突然の俳優さんの来院でドギマギしている空気が伝わってくる。

しかしさすがは治療歴23年の鍼灸師、途中から自分のペースを取り戻し、いつもの治療を淡々とこなしている空気に変わった。

山猿さんは治療の始めこそ話していたものの、途中からスースーと寝息をたてて熟睡し始めた。


「はい、伊東さん今日はこれで終わりますね」

「あっ先生、私寝落ちしてましたね。ありがとうございます。こんなに熟睡したのは久しぶりです」

「お仕事忙しいんですよね。体が資本ですからどうぞご無理なさりませんように」

「ありがとうございます」

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2024年12月28日 07:00

不細工な方の伊東秀章 @J0hnLee

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