黒い犬

@man_sun_

黒い犬

 黒猫が目の前を横切ると不幸が訪れるって、よく言いますよね。


 今、黒い犬が目の前を横切ったんですけども、この場合、どうなるのでしょうか?


 犬、多分犬だったと思うんです。いや、確実に犬……。ハァハァと舌を出していたし、走っていたので一瞬だったけれど。尻尾も短いし、多分犬。絶対犬。


 そもそも、黒猫が横切ると不幸になるなんて、ちょっと黒猫に失礼すぎませんかね?あんなにも、可愛いいのちなのに。でも、私は、こういうオカルトチックなものを信じてしまう性分でして。まぁ、今まで全て。なにも不幸や恐怖体験などは起こりませんでしたけど。


 そんな事より、早く出社しないといけませんね。あと10分で電車がホームに着くので、少し、急ぎ……バキッ


 あぁ、これは黒犬の不幸でしょうか?ヒールが折れて、足が、酷く痛い。膝から血が流れて、私、血は苦手なんです……。

 でも、出社、しないと、1分でも遅刻したら、欠勤扱いでタダ働きになってしまいます。ヒールを脱ぎ捨ててでも、早く、早く……!


 足を痛めながら、走りました。何度か転けて、スーツがボロボロになって、異様な目で見られているような気がしますが、それよりも、出社の方が大事です!社会人として、当然のことですから!


 駅に着いて、少しホッとしました。まだあと3分、間に合った!!


 ただ、やけに人が多いような……

「あっ」


「人身事故発生中〜人身事故発生中〜」

……ああああああああぁぁぁ!!!

 お給料が、お給料が一日分減ってしまいました……。


 泣く泣く会社に電話をかけます。

「すみません!すみません!人身事故で、人身事故が、あの、電車!電車で人が、電車止まって、行けなくて、あの、ヒールも壊れて、えっと、あの、あ、遅刻してしまいます!申し訳ございません!」

『……君もうクビね、明日から来なくていいよ』


 あぁ……黒犬が横切ると、不幸が起こるのですね。こんなこと、初めてです!


 あ、足、裸足で、切れちゃったみたいです。焦って、気づかなかったみたいです。痛い、余裕が出来てから、ジワジワと、痛みが来るものなのですね。仕方が無いので、駅付属の雑貨屋で安いサンダルを買って、家に帰ることにしました。


 帰り道、多分、おそらくあの黒犬が、何かを食べているような……。


 憎たらしいですが、犬は可愛いので許します。近づくと、小さな黒いなにか、あぁ、黒い仔猫、ぺろぺろと舐めていますね。可愛らしい。


 この2匹は、一緒に育ったのでしょうか?……あれ、いや、違う、黒い仔猫だったものを、黒い犬が、内臓を引きちぎり、肉を、血が、血が、ああああああああぁぁぁ!!!!!!










気がつくと寝ていました、ここは、うーん、白い、あ、病院、病院ですね。

きっと、私は酷く残酷な現場を見て、倒れてしまったんですね。


「調子はどうですか?」

「とても酷い気分です!会社はクビになるし、あんな、黒い犬が、仔猫を喰らう、衝撃的な現場を見て!それに足も、痛……くない、あれ?」

「きっと悪い夢でも見ていたんですよ。ほら、この薬を飲んで、ゆっくり休んでくださいね」

「夢、でしょうか……。はい、ご丁寧に、どうも」





「あの患者さん、妄想癖が酷くなってるわ」

「あれだけ多く疾患を抱えて、本人も苦しいでしょうけど、毎日のように脱走されては、ねぇ……」

「はは、まるで、ずっと覚めない夢の世界にいるみたいで楽しそうじゃないか」

「先生、こっちの苦労も考えてくださいよ!」

「はいはい」

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