ニンジャ・サンタ

チャカノリ

忍者VSサンタの相棒

 棒立ちしていても、少し動くだけで霜柱に持ち上げられた土が唸る、丸裸な木々に囲まれた暗い更地。そこから見渡せる街は、明日を待ちきれないのかいつにも増してまばゆくなっており、赤と緑の祝福に包まれていた。プレゼント詰まった白い袋を背負って忍ぶ自分と違い、身軽で忍ばずにイルミネーションの前などで愛の告白をしているであろう同年代の若者が、羨ましく思える。不意に赤い頭巾から漏れた息の、その薄白さと細長さは心に抱える妬みを反映していた。


 しかし、そんなことを考える暇など、これ以上作れば命取りになる。プレゼントを配る聖夜の忍者として無視してはならない影が、風景を邪魔するようにこちらへ、片足引きずって歩いてくるのだから。


 人間の頭に生えているはずのない、大きく湾曲した一対のヤギのツノ。縮れた黒い長髪から覗く皺だらけな顔は、鼻先や耳などの先端という先端が禍々しく尖っている。空いている口元から見せる歯は険しい山脈のように不揃いで、人の肉など簡単に噛み千切れそうなほど鋭い。薄汚く毛むくじゃらな上着を着ている青白い肌のそれは、今日という特別な日と深い関わりを持つ怪物「クランプスさん」だ。


 その手に持ったカバノキの枝の束で悪い子供にお仕置きをし、時には地獄へ引きずっていくとされているが、今クランプスさんが抱えている子供は、あろうことかなんと良い男の子なのだ。


 クランプスさんはサンタさん、もとい聖ニコラウスさんの相棒のため、サンタさんの役割を日本で担う我ら忍者とも、本来は友好関係にある。それゆえ、悪い子供へのお仕置きや地獄への引きずりも容認しているが、良い子供にそれを行うならば話は別だ。


 一年に一度会うか会わないかの見慣れない怪物な上、人間離れした恐ろしい姿をしているが、サンタさんと同じ役割を果たす忍者として、クランプスの行動を止めるべく名を叫んだ。


「クランプスさん! その……」


 いくつも刻まれた皺の奥にある目に見つめられ、一度は凍り付いたように口が止まる。しかし、ここでもし言わなければ、あの子が、理不尽な目に合うかもしれないと、自分に言い聞かせ、言葉をつづけた。


「そいつは悪い子供じゃないんだ! なんでお仕置きしようとしているのか知らないけど、離してあげて!」


 目元にまとわりつく冷たい外気が、一層張り詰める。歯向かったゆえにクランプスさんに悪い者だと思われたら、地獄へ引きずられるかもしれない。そう思うと心臓が拍動が強くなり、口呼吸の回数が増えてきてしまった。それに伴って口元は白い息で色濃く覆われてきたので、全身赤い忍装束と相まって、薄目で見れば白い口髭を蓄えたサンタにも見えるだろう。


「オレを、トメタイのか? コイツは、ワルイコなんだ。」


 低くかすれた、片言な日本語が響いてきた。


 すかさず風が自分とクランプスさんの間を大きく横切り、縮れた長髪を大きく乱れさせる。


 風がおさまった頃、クランプスさんは長い上着に隠されていた片足部分を前に差し出した。それは人間の足ではなく、色濃く黄ばんだヤギの蹄だった。


 脚部を大きく振り被って蹄を地面に強く打ち付け、豪快に音立てて霜柱を砕くと、蹄を中心にクランプスさんの足元が、周りの暗闇を飲み込むほどに赤く輝き始めたのだった。


 次の瞬間、一気に懐にまで詰め寄られ、胸ぐらをつかまれてしまい、そのまま地面を引きずられ始めてしまった。


 とっさの判断で白い袋を地面に置き、配り終わっていないプレゼントが巻き込まれるのを防いだのは不幸中の幸いだったものの、例に漏れず自分も、地獄に行ってしまうのだろうか。

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