第3話

「――シャァアアアアアッ!!!」

「そんなトロイ攻撃喰らうかよ!」


 余裕を持って回避。鋭い爪が空を切る。


「はっ、どうしたクソ緑野郎!!! 動きが悪くなってんぞ!?」

「ギ――ギギャギャギャッ! ギギッ、ギギギャギャ、ギャ!?」


 奴を挑発すれば、明らかに攻撃が大振りになった。


 元々攻撃が当てられず苛立っていたんだろう。徐々に狙いが甘くなりつつあった奴の攻撃精度が更に悪化。爪を振るう動きや足捌きに、無駄な動作が大幅に増えた。


 今じゃ、かなり余裕を持って奴の攻撃を避けられる。


 ……とはいえ、だ。


「おっ――らぁああ!!! 吹っ飛べや!!!」

「ギギュッ。……ギ、ギッギッギッギッギッ!」

「チッ! これも喰らわねえのかっ、危ね!?」


 至近距離で振るわれる鋭爪。緊急回避。

 慌ててバックステップで奴から距離を取る。


「くそっ、あいつの身体固すぎんだろ!?」


 そう。奴の攻撃は余裕で避けられる。

 だが、こちらも攻撃を通せずにいた。


 問題は――水晶に覆われた奴の身体だ。


 全身至る所から水晶を生やしている所為か、奴の身体は異常に固い。とても生きた生物の身体とは思えない硬度。それが原因で攻撃してもダメージが入らないのだ。


 勿論、武器が無いのも原因の一つではある。


 今の俺は素手。手元に使える道具も無いから、奴にダメージを与えようと思ったら直接殴打するしかない。祖母ちゃんから習った護身術に無手用の技もあるから、何とか戦えている。けど、やっぱり素手じゃどうしたって攻撃力が低くなってしまう。


 しかし、一番の問題はやはり水晶の防御力だ。

 あれの所為でこちらの攻撃が防がれてしまう。


 膠着状態。俺と奴の戦いは完全に状況が固まっていた。


「……このままじゃマズいのはこっちか。向こうは幾ら攻撃を受けても問題ない。なのにこっちは一発でも当たったらヤバいんだからな。時間が経てば経つほど不利になるのは俺の方。この状況を打破しないと、いずれミスしてゲームオーバーだな」


 理不尽にも程があんだろクソがッ。こりゃクソゲーか?


 だが問題は明白だ。――なら当然、やるべき事も明白だ。

 どうせ状況は変わらない。ただ待ってても悪化するだけ。


「――なら一か八か。賭けに出てみるのも面白いんじゃないか!?」


 “座して死を待つ”なんて、俺の――赤鐘士道の生き方じゃねえ!!!


「来いよクソ緑野郎! お前をぶっ殺してやる!!!」

「ギギギィ――ギギャギャギャギャギャギャッ!!!」


 嘲笑うような醜悪な笑み。


 もしかしたら奴には、俺が自棄を起こしたように見えたのかもな。


 確かにこちらが一方的に不利なこの状況。俺が自棄を起こしたと考えるのはさほど不自然な事じゃない。むしろこっちの攻撃が通らない事を思えば自然な判断だ。


 ――だがそれは甘い考えだ。俺は人間様だぞ?


 遥か太古から数多の生物と生存競争を繰り広げ、遂には地球の支配者に成り上がった恐るべき生命。そして今度は同族で殺し合い始めた凶暴な種族。その内の一人。


 決して、喰われるのを待つだけの家畜じゃない!!!


「ギギィ、ギギャギャッ!」

「――甘い!!!」


 狙いすまされた鋭爪の一撃。

 紙一重でそれを躱し――俺は奴に組み付いた。


「ギャギィッ!? ギャギャギャ!?」

「はっ、今更気付いたのか? 俺はお前を攻撃しようとしてたんじゃない。お前に組み付こうとしてたんだってな。――だとしたらお前、とんだ間抜け野郎だな!?」

「ギッ、――ギギャギャギャギャッ!!!」


 ははっ、暴れてる暴れてる!!

 馬鹿にされたのがそんなに癪に触ったのか!?


 ――まあ、まったく動けてないけどな!!!


 こいつの身体は完全に拘束してる。

 動かせる余地なんて、存在しない!!


「確かに俺の攻撃はお前には通じない。まったく厄介な硬さだよ。おかげで手も足もめちゃくちゃ痛え。――だがな? 別に殴ったりしなくたって、生き物を殺す方法くらい幾らでもあるんだよ。お前が幾ら頑丈な身体を持ってようが関係ねえ!!!」


 背後から片脇に頭を潜り込ませ、腰に両腕を回す。

 そして腕に力を込め――そのまま奴を抱き上げる!!


「ギギャギャ!? ギギ、ギギャギャッ!?」

「はははっ! 今更焦ったところでどうにもならねえよ!!!」


 俺に喧嘩を売った時点で、お前の命運は尽きた!

 大人しくくたばりやがれ、クソ緑野郎ッ!!!



「バックドロップだおらぁッ!!!!!」

「ギギギャギャッ――ギッ!?!?!?」



 バキンッ!!! 派手な音が鳴る。


 頭から地面に衝突。水晶が砕け散り。

 奴は白目を向いて無様にぶっ倒れた。


「どうだ見たか!? 人間様を舐めんじゃねえ!!!」


 少しの間警戒する。だが、奴は動かない。

 ……どうにか倒す事が出来たようだ。


「ふぅ。……手古摺らせやがって!!」


 本当に厄介な奴だった。あの防御力は反則だろ。

 こっちがマジで攻撃してんのに余裕で耐えやがって。


 けど、流石にアレは耐えられないだろ。


 あいつの自重を乗せた攻撃だ。かなり効いた筈。

 頭の水晶も割れたしな。あいつ、もしかして死んだか?


「ん、なんだ? あいつの身体から何か――な!?」


 おいおい! あいつの身体から光の粒が出始めたぞ!?

 そして――消えたぁ!? 光の粒になって胡散したぞ!


 何かのマジックか!? どうなってるんだこれは!!


 それに……あいつが倒れていた場所に何かが落ちている。


「……コインか? これは。何だってこんなものが」

「おや。Dコインがドロップするとは。貴方は大変運がいいようだ」


「――誰だっ!?」


 突然近くから聞こえてきた声。

 咄嗟に距離を取り、誰何する。


 おかしい。さっきまで人の気配なんてなかったぞ……!

 いつの間にこんな近くまで接近されたんだ!?


 とにかく声の主を見つけ出さないと……!!


「…………へ?」


 すぐさま声が聞こえた方に目を向けた俺。

 だがそいつ・・・を視界に収めた瞬間、呆然としてしまった。


 ……何故なら。


「そんなに慌てずに。敵対の意思はありません。ぺーん」


 特徴的な白と黒の体毛。黄色いクチバシ。赤い眉毛。

 何処かずんぐりとした身体を持つソイツは――


「少し私とお話をしませんか? ぺーん」

「ぺ。ぺ、ぺ、ぺ、ぺ……っ」

「ぺん? どうされました、人間の方?」



「ぺ、ペンギンが喋ってるぅううううう――っ!?!?!?」



 ――ソイツは、どう見てもペンギンだった!!!

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現代ダンジョン攻略譚 ~俺はダンジョンで遊びたいだけなのに、邪魔する奴らがウザ過ぎる!~ レイン=オール @raining000

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