Silence In The Snow

川詩夕

2024年12月24日クリスマスイブ

 雪が降る小学校2学期の終業式終わりの出来事だった。

 先生が教室で通知表を配っている時に、クラスの市川いちかわくんが居ない事に気が付いた。

 市川くんを除いて、通知表を配り終えた先生はこう言った。

「今朝に市川くんが登校していた姿を見た、掃除はしなくていいから市川くんを探そう、見つけたらすぐ先生に知らせるように」

 クラスのみんなは掃除をしなくて済むからラッキーと口々にして、はしゃぎながら居なくなった市川くんを探し始めた。

 20分後、僕は体育館の裏で市川くんを見つけた。

 市川くんは冷たい死体となっていた。

 僕はクラスのみんなを近くへ来るよう呼び寄せた後、周囲に向かって先生を呼んでくるようにお願いをした。

「真っ白な雪のベッドで眠ってるのかと思った」

 クラスの佐伯さえきさんは氷のような冷たい無表情でみんなに説明していた。

 その時、佐伯さんが時折見せる微笑みを僕は見逃さなかった。

 その理由を僕は知っている。

 佐伯さんは市川くんに意味もなく身体を殴られたり蹴られたりして、日常的にイジメられていたからだ。

 死体となった市川くんの身体に傷等はなく、周囲に争った形跡が何一つとして見当たらなかった。

 警察は市川くんの死を事故として処理をした。


 ※


「佐伯さん、急に裏庭まで呼び出しちゃってごめん」

「話ってなに?」

「僕は知ってるんだよ」

「知ってる?」

「佐伯さん、市川くんが死体で見つかった時、静かに笑ってたよね」

「笑ってないけど……」

「正直に言って大丈夫だよ」

「だから笑ってないってば……」

「佐伯さんイジメられてたでしょ? 市川くんが死んでくれて嬉しかったんでしょ? 3学期は平穏に過ごせるって思ったんでしょ?」

「…………」

「当たりだ」

「そんなことない……」

「僕と佐伯さん二人だけの秘密だよ?」

「秘密……?」

「市川くんの死因はね、雪玉が喉に詰まったことによる窒息死だよ」

「どうしてそんなこと知ってるの……?」

「僕が作った雪玉を丸呑みする事ができたら一生言う事を聞くって言ったら、市川くんは自信満々で雪玉を口に放り込んでたよ。僕はすかさず市川くんを押し倒して、両腕を抑え付けながらお腹で顔にのしかかったんだよ。僕は市川くんより身長が大きくて体重も随分ずいぶんあるからね、しばらくすると市川くんはそのまま動かなくなっちゃった。最後に市川くんの口から雪玉を取り出して、そこら辺へ適当に投げ捨てて証拠隠滅しょうこいんめつだよ」

「そんな……」

「市川くんの死体を初めて見つけたような芝居をした後、僕はわざとクラスのみんなを近くに呼び寄せて市川くんの身体中を何度も触っては揺すって見せたんだよ、くまなく指紋を残す為にね。死体の周辺に積もった雪はクラスのみんなが踏み荒らしてくれたおかげで僕の足跡は雲隠れすることができた」

ひどい……」

「僕は佐伯さんを助けたんだよ? 僕は佐伯さんをイジメから救ったんだよ? 僕は佐伯さんにとってのヒーローだよ?」

「違う……」

「違う? 違うって何が?」

「そろそろ……帰らなきゃ……」

「佐伯さん好きだ」

「え……?」

「僕は佐伯さんのことが好きだ、佐伯さんの為に市川くんを殺したんだよ」

「私……帰るね……」

「それが佐伯さんの返事ってこと?」

「うん……」

一人殺ひとりやるのも二人殺ふたりやるのも一緒だよ」

「やだ……やだ……」

 僕は暇つぶしに作って足元に置いていた雪玉を手に取った。

 途轍とてつもなく冷たい雪玉だ。

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Silence In The Snow 川詩夕 @kawashiyu

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