第4話 板東美来の決心は揺ら―――






 ワタシは、親友―――白石涼菜の言葉を聞いて理解する。


 きっと、彼女にはもうバレていると言うことを。


 涼菜にバレているということは、春乃が伝えたのだろう。




「なにかあったの?」


「とぼけないで。私は、アナタについての話がある。心当たりはあるでしょ」


「なんのことか分からないよ………。もし、ワタシが涼菜に嫌なことしてたら謝罪させてほしい」


「………ねえ、とぼけないでって言ったでしょ」


「…………」




 このままとぼけ続ければ、涼菜が勘違いだったと諦めてくれないだろうか?


 しかし、そんな希望は直ぐに否定する。


 しばらく会っていなかった涼菜が知っているということは、春乃が伝えたということだろう。


 春乃の直感はよく当たる。


 それに、その直感によって助けられた経験のある涼菜なら、信じないという選択肢は無い。


 なら、向き合うしかないのだろう。




「………やっぱ、春乃から?」


「うん、その通り」


「ワタシは揺らがないよ」


「いいや、揺らぐよ」




 涼菜は、いつも通りの感情の読み取れない表情で続ける。




「―――だって、恭弥くんは美来に幸せになってほしいって願ってた筈だから」




 涼菜は、確信を持った声で言い放った。


 でも―――




「そんなこと、知ってるよ」


「…………」




 涼菜は黙ったまま、表情も動かない。




 ―――涼菜は、感情が読み取りにくい。


 しかし、完全に読み取れないと言う訳ではないのだ。


 普段の美来なら、涼菜が顔に少しの喜色を浮かべていたことに気付いただろう。


 しかし、今の美来は正常ではない。


 だから、気付かずに続けてしまう―――




「―――そんなこと、知ってるよ………。そんなことくらい……! 彼がワタシのことを愛してたことくらい! 幸せになってほしいって思ってたことくらい!!」




 ―――叫び出した板東美来は止まらない。


 しかし、言葉を聞いた白石涼菜は更に喜色を深めて行く―――




「でもさ!! 彼だって分かってたんだよ!? ワタシには恭弥しかいないって!! 恭弥じゃないとダメだって!!」




「なのに死んじゃったってことは、ワタシへの愛より辛さが上回っちゃったんだよね!? ワタシの愛じゃ、恭弥を守れなかったんだよね!? 足りなかったんだよね!?」




「恭弥がいないなんて認めない!! 信じない!! そんな世界に価値なんかない!! 生きてる意味なんてない!!」




 ヒステリックにぶち撒ける美来に対し、涼菜はいたって冷静に告げる。


 ような声で、告げる。




「大丈夫だよ、美来。きっと、恭弥くんは美来が自分の死で悲しむことを望んでない。きっと、美来には新しい幸せを掴んで欲しいって願ってる」




 ありきたりな、相手の気持ちを無視したを込めた言葉を放つ。


 そして、その言葉を聞いた板東美来は怒り狂う。




「………は? なに分かったクチきいてんの!? すずに恭弥の気持ちなんて分かる訳ないじゃん!!」


「そんなことない! 私だって恭弥くんのくらい―――」


「軽々しく本当の気持ちなんて言わないで!! 死んだ人間の気持ちなんて分かる訳ないじゃん!! ワタシだって知りたいよ!! でも分かんないよ!! なのに、他人のアナタが分かるだなんて言わないで!!」




 そう言い放った美来は、扉を開け放って去って行く。


 親友に対して激しく怒り、を抱きながら。






♢♢♢





「これでよかったのかい?」


「ん。これでいい」


「僕には君がつらそうに見えるのだけど?」


「うん、辛い。でも、それは美来も同じ。いや、美来の方が辛い」


「わざわざ辛い思いなんてする必要はあったのかい?」


「ん。私が昨日考えて至った結論は、愛しい人を前向きに出来る確実な方法なんてないってことだった」


「だから、前向きにするのは諦めたと?」


「そゆこと。前向きにならなくても、美来が生き続けるってことだけに絞れば勝率は一気に高くなる」




「美来の場合は、辛いから自殺しようとしてる。で、辛さの原因は心の大部分を占めていた依存先が無くなってしまったから」




「となれば、その空洞を埋める感情を作り出せばいい」


「―――それが、さっきの怒りかい?」


「ん、話が早い。ざっくり言えばこーゆーこと。空洞が埋まれば、しばらくは延命できる。人を前向きにするのは春乃の方が向いてる。あとは春乃の仕事」


「君らしい解決法だね。面倒臭がりなくせに完璧主義なところとか」


「適材適所の効率重視と言ってほしい」




 恋人と軽口を叩き合いながらも、思う。


 どうか、板東美来を救ってくれと。


 親友を救ってくれと。




「頼んだぞ、春乃」




 そして、白石涼菜は最後の仕上げを依頼する。


 彼女は、依頼を依頼で返したのだ。


 これは、あまり褒められた行為ではないだろう。


 それでも、彼女たちは平気で行えるし、受け入れられる。


 それが、彼女たちの友情である。







――― ――― ――― ――― ―――

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私のこと、もう一回だけ愛してよ 竹垂雫 @sizukuhakidukuyo

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