第3話 白石涼菜は不安に駆られる





 私―――白石涼菜は、万全の対策をした上で親友の板東美来を待っていた。


 親友の春乃曰く、彼女は相当危ない状態らしい。


 だから、私は昨日徹夜しての言葉を伝える。


 私の言葉で美来を救えるかは分からない。


 でも、同じ状態に陥った自分なら確実に救えると確証を持って言える。


 しかし、不安が顔に出ていたのだろう。


 同居人の宮原みやはら 周斗しゅうとが言葉をかけてくれる。




「大丈夫、すずなら出来るよ」


「周斗……。ありがと、ちょっと踏ん切りがついた」


「ならよかった」




 そう言って、彼は笑う。




 ―――あぁ、やっぱり私はこの人のことが大好きだ。




 彼のいない人生なんて想像出来ない。


 でも、美来は最愛の人がいない、と言うことが事実となっている。


 きっと、今も理解が及んでいない。


 理解が及んでいないから、恭弥くんの―――最愛の人の本当の願いに辿り着けていない。


 きっと、彼は過労で、虐められて、苦しんで。


 それが原因で終わらせたのは事実だ。


 でも、きっと。


 彼は、美来には幸せになってほしいと願っていたはずだ。


 でも、その願いが美来に届かないのであれば。


 彼が届けられなかったのならば。




 ―――私が、届けようじゃないか。






♢♢♢





 私と周斗が美来を歓迎する準備を終わらせてしばらく。


 家にチャイムが鳴り響いた。


 私の心臓が、早鐘を打つ。


 先程覚悟を決めたものの、緊張で息が苦しくなる。


 でも、それを見抜いたであろう周斗は、私に笑いかけてくる。




「きっと、すずなら大丈夫。美来も救えるよ、僕が君に救われたように」




 彼は、今度は笑いかけて来なかった。


 ただ、私に言葉を送るだけ。


 彼は、私のことを理解しているから。


 私と言う人間が、安心させるための作り笑いで安心しないことを。


 最愛の人が私を理解してくれている。


 その事実だけで、私は安心する。


 きっと、彼はそれも理解しているのだろう。




「ズルい」


「ふふっ、君もだろ?」


「うん」




 そう、私はズルい。


 本当に悩んでいる親友に、計算し尽くした言葉で安心させようとするのだから。


 自分がされても安心しないような手段で、他人を安心させようとしているのだから。


 きっと、親友と言うのはもっと違うモノなのだろう。


 でも、私にとっては。




「計算し尽くされて、ズルいってゆーありのままの自分で勝ってくる」


「ああ、それでいい。ズルい君が君なんだから。」




 周斗は、それに―――と続ける。




「ズルい君は勝率100%だもんね?」


「っ……!」




 顔が熱くなる。多分、今は真っ赤だ。




 ―――私は、その言葉で改めて覚悟が決まった。


 そして、玄関へと向かう。




「アンタの時みたいに、私が美来を落としてくる」


「落とすのは僕だけにしてくれると嬉しいんだけどね」




 愛しい人の軽口は、とても耳触りがいい。




 ―――あぁ、これで今日も頑張れる。




 きっといつもより大変な1日だけど。


 私がちゃちゃっとズルして解決してしまおう。






♢♢♢美来視点♢♢♢





 チャイムしてしばらく。


 ワタシが、幸樹くんみたいに二人で買い出しに行ってるのだろうか? と思い始めていると―――




「ごめん、少し最後の仕上げしてた」


「いいよ、二人のお祝いなんだから」




 「ありがと」と言いつつ、すずはワタシを家に招き入れる。


 彼らの家もまた、春乃たちと同じで二人で暮らすには狭めのアパートだ。


 結婚したあとで大きい家に住めるよう、お金を貯めたいるんだそうだ。


 昨日と同じよう、少し感傷的な気持ちになる。




 リビングにつくと、「美来、ここに座って」というすずの言うままに指定された座布団に座る。


 どんな感じで祝えばいいだろうか。


 ワタシが、お祝いの言葉を考えていると―――




「美来、大事な話がある」




 ―――あぁ、見抜かれちゃったか。




 久しぶりに見る親友の真面目な瞳を見て、ワタシは悟った。







――― ――― ――― ――― ―――

 面白い。続きが気になる。と思っていただけたら、フォローや応援、評価をしていただけると嬉しいです。

 作者が泣いて喜びます。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る