【完堕】


「まったく、特別任務だって期待したのに、

 クリスマスデートの手伝いとは、どういうつもり?」

「ほんとだよー 私らを差し置いて、イチャコラしやがってー」

「羨ましかった……」


 女の人達の声がして、ガサガサと草葉を掻き分ける音がする。

 草むらのなかから、ゾロゾロと女の子が三人現れた。

 彼女たちは皆、背中には弓矢を背負っていた。

 あぁ、分かった、あの爆発はそういう意図か。

 カシューを明るく照らし上げて、遠くから弓矢で狙わせるための。


 彼女たちは、全身には黒いタイツのようなものを履いていた。

 忍者というのに相応しい。

 隠密のための衣装であった。


「悪かったな。お嬢様……

 君を助け出すには、こうするしかなかったんだ」


 誘拐犯さんは、私の顔を見て、辛そうな顔で謝った。


「どうして? 私を助けるためだったなら、最初から教えてくれれば良かったのに」


 私は、至極当然の疑問を持った。



「いや……すまない。

 君はカシューに、大きな恋心を抱いていたみたいだからさ。

 カシューが君の命を狙っているなんて戯言を伝えても、俺なんかの言葉を信じてくれる訳が無いって思ってたんだ……」


「た、たしかに、そうだと思う……」


 私は誘拐犯さんの理屈に、至極納得してしまった。

 

「……それで、これから私は、どうなるの?」


 私は、誘拐犯さんに、ドキドキしながら質問した。

 この心臓が未来の不安に対するものか、それとも別の何かなのか、私には判断がつかなかった。


「……お嬢様は、どうしたいんだ?」


 彼は、柔らかな声で訊いてきた。

 そこ眩しさに、思わず私は目を逸らしてしまう。


 いったい、私はこれから、どうしたいのだろうか?

 国に戻る?

 いやいや国は、私の命を狙っているのだろう?

 思い返せば、私の父親である前国王も、騎士団によるクーデターによって殺されているのだ。

 正直、私は、第三王女としての生活に疲弊していた。

 めんどくさくて、変わり映えのしない。

 死ぬまで同じ事の繰り返しの、退屈な人生。


 私はずっと、王宮という檻から飛び出して、自由になることを夢見ていた。


「私は……」


 もし、私の願いが叶うのならば、

 私の生き方を、私自身が選んでいいというのならば、


「私は、あなたに、ついていきたい」


 私は顔を上げて、誘拐犯さんをまっすぐに見た。


「私は、あなたの事が好き」


 自分の本心を、簡単に口に出せた自分に、私は驚いていた。

 カシューに対しては、緊張しすぎて、ずっとずっと告白できなかったというのに。

 この誘拐犯さんの前では、なぜだか私は、本心をすらすらと吐いてしまうのだった。



「はっ!」

「まじー? また増えるのー?」

「四人目は王女様かぁ…… ほんと女たらしなんだから」


 彼の後ろの女の子達が、三者三様の反応を示した。

 誘拐犯さんは、苦笑いをしながら私に言った。


「まいったな。見ての通り、僕には恋人が三人もいるんだ」


 は?

 私は唖然とした。

 まさかとは思っていたけれど、この女の子達は皆、誘拐犯さんの愛人なのか?


 どうしようかなと思ったけれど、すぐに私の答えは決まった。

 三人も四人も変わらないんじゃね? って、そこまでは流石に思えなかったけれど。

 彼らと一緒にいる人生は、とても楽しそうだと思ったのだ。


「じゃあさ、私を四人目にしてよ」


 顔を近づけながら、私は言った。

 幻想的な雪景色に、たまらなく興奮している私がいた。


「誘拐犯さん、私の騎士様……

 どうか私に、あなたの名前を教えてください」


 そう言うと照れくさそうに、彼は名前を教えてくれた。


 降り積もる雪は、静かにゆっくりと、私たちの周りを包み込んでいく。

 クリスマスの夜は、ふけていく。


 私の今年のクリスマスプレゼントは、

 童顔イケメンで女たらしな、私の新しい騎士様だった。


 

(おしまい)


────────

 メリークリスマス!

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(今回の短編はもともと、長編の導入部分の没アイデアでした)

(ふと、サンタさんと誘拐犯を勘違いしたら面白いんじゃね?と、思いついたので書きました)

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