第3話 雨
見つけた時には既に手遅れだった。
それは無残にも切り裂かれたペンケース。
周りの生徒たちにそれを見せまいと少年はすかさず悲しみと混乱に蓋をして慌ててペンケースをランドセルの中へ押し込んだ。
無我夢中であった。
抑えつけた悲しみが蓋を吹き飛ばす前に靴を履き替え足早に校舎を出た。
…今にも泣きだしそうな曇り空がそこには広がっていた。
帰り道、少年の顔は濡れた。
曇り空からは大粒の雨。
それは少年の涙を隠そうとする様な予報外れの雨だった。
少年は下駄箱を開けた時の光景を思い出していた。
大好きなキャラクターの笑顔が真っ二つに切り裂かれている様子が更に悲しみを煽った。
あのペンケースは母親に買ってもらった物だった。
安物だとかは関係ない。
少年にとっては値段などでは到底表現できない価値があった。
嬉しさや思い出の詰まった物をどうして値段などという数字で表現できるだろうか。
宝物だった。
間もなく、悲しみとは毛色の異なる激しい感情が少年を支配した。
…雨はとうに止んでいた。
トリカブトの目 Knan. @kana_wr96
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